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『泥だらけの純情』:1963、日本

 新宿。大学生2人組が女学生2人をナンパして困らせているところへ、塚田組のチンピラ・次郎が通り掛かった。次郎は助けに入り、女学生を立ち去らせた。そこへ大学生の仲間・福井が現れ、いきなりナイフで襲い掛かった。腹を刺された次郎は、福井を突き飛ばした。すると福井は誤って自分の腹を刺した。
 次郎はタクシーに乗り込み、森原組へ行くよう命じた。次郎は塚田組長から、ヘロインを森原組へ届けるよう指示されていたのだ。次郎は腹部を真っ赤に染めながら、森原組の事務所に倒れ込んだ。

 次郎を刺した福井は財界の黒幕の息子で、前科者だった。警視庁捜査一課の刑事から事情を訊かれた大学生2人組は、「ボーリング場所で知り合った女学生を誘っていたら、チンピラがいきなり福井を刺した」と虚偽の証言をした。
 福井は病院で死亡した。次郎は18針も縫ったが、元気だった。兄貴分の花井は、次郎に事件の新聞記事を見せた。まだ「福井は重態」と書かれていた。

 花井は「現場に粉が零れていた。ややこしいことになるかもしれない」と強張った表情で述べた。それから「警察に深入りされて、ヤクの売買の実態を握られると困る。自首してもらう」と告げた。出頭した次郎は福井が襲ってきたことを言うが、刑事には信じてもらえない。
 そんな中、捜査一課の浦上警部に公安委員の大山から電話が入り、女学生2人の身許が判明した。大山が親しくしているアルジェリア大使の娘・樺島真美と学友の智子だった。

 浦上の訪問を受けた真美と智子は、大学生2人組と知り合いではないこと、次郎に助けてもらったことを証言した。次郎の傷を心配した真美は、元気だと聞いて安堵した。
 真美たちの証言のおかげで、次郎は釈放された。次郎が弟分の信次を連れてバー「ミシシッピー」へ行くと、女たちが持ち上げた。だが、女給の美津だけは「スター気取りじゃない」と嫌味っぽく言った。

 次郎が花井に呼ばれて塚田邸へ行くと、横浜を縄張りにしている塚田の兄弟分・清水が来ていた。彼は樺島家からの謝礼金を持って来ていた。樺島家を出た男と付き合いがあり、頼まれたのだという。
 「銭が欲しくて助けたわけじゃない。ありがとうの一言を、ちゃんと言いに来てくれりゃいい」と、次郎は受け取りを拒否した。花井と塚田が叱責し、謝礼金の5万円を次郎に受け取らせた。

 反発を覚えた次郎が邸宅を飛び出すと、塚田の娘・和枝が追い掛けてきた。次郎は「パーッと使いちゃいてえんだ、こんな銭」と言う。次郎は信次を引き連れて賭場へ行くが、散財するつもりが儲けてしまった。
 彼はミシシッピーへ行き、美津に「やるよ」と告げて、無造作に金を置いた。美津は冷淡な表情を浮かべ、「ジジイみたいな口説き方するじゃない」と言い放った。

 苛立ちを募らせた次郎は、信次に「明日、横浜へ行くぞ。お嬢様ヅラしてるあのスケを引っ掛けてやるんだよ」と告げた。翌日、次郎は真美の通う女学校へ行くが、彼女を見つけられなかった。
 次郎は美津のアパートへ行き、ぶっきらぼうに「泊まってくぜ」と告げる。だが、「その内、来てくれると思ってた」と口にした美津に誘惑されると、次郎は狼狽して「帰る」と言い出し、立ち去った。

 次の朝、次郎のアパートに真美が現れた。礼を言いに来たのだという。「友達に言われてきたのか」と次郎が尋ねると、真美は「自分で良く考えてきました」と述べた。
 「お嬢さんの来るような所じゃないんだ」と次郎は言い、駅まで送ったが、思い直してボクシングに誘った。スポーツパレスへ連れて行き、一緒にボクシングを観戦した。真美には初めての体験だった。

 帰宅した真美は、父への手紙を書くよう母・欣子に告げられた。父は、せめて真美だけでもアルジェリアに来て欲しいと望んでいるのだという。
 真美の弟・欣三は来年から中学で、欣子は「せめて高校ぐらいは日本で行かせたい。一人は出来ない」と語った。アルジェリア行きを嫌がる真美に、欣子は「考えておいて」と告げ、現代音楽祭のチケットをプレゼントした。

 次郎は真美に誘われ、現代音楽祭を2人で観賞した。音楽は退屈だったが、次郎は真美と一緒で幸せだった。会場を出たところで男が真美に絡んできたので、次郎は殴り倒した。
 「お嬢さん、二度と俺と会ってくんないだろうな。俺って人格が無いもんな」と言う次郎に、真美は「土曜日ごとに日比谷へフランス語を習いに行きます。土曜日ならお会いできるんです。だけど、もうケンカはなさらないで」と言う。次郎は喜んで、もうケンカはしないと約束した。

 真美とのデートで履く靴を買うために、次郎は呼び止めた人の靴裏にスルメイカを貼り付ける恐喝で金を作った。次郎と会った真美は、「やめられません、ヤクザ?ヤクザっていけないと思うんです。でも次郎さんは真面目で正しい人だと思っています」と、真っ直ぐな目で訴えた。次郎は返答を避け、「土曜日、横浜駅で12時に待ってる」と、次のデートの約束をして走り去った。

 真美が帰宅すると欣子の知人・阪東夫人が去るところだった。欣子は、阪東夫人の雇い人が辞めたことを真美に語る。真美は「阪東夫人、新宿で助けていただいた方をお雇いにならないかしら」と口にした。
 「何をおっしゃるの。あの人はマトモな方じゃないんですよ」と欣子が驚くと、真美は次郎が足を洗ってカタギになっていると嘘をついた。「お仕事ぐらい探してあげても。何かしてあげたいんです」と懇願する真美を見て、欣子は阪東夫人に話してみると告げた。

 次郎は組に内緒でポン引きまでやって、金を稼ごうとした。だが、それを刑事に見つかり、彼はデート当日に売春斡旋容疑で逮捕された。
 横浜駅に次郎が現れなかったため、真美は何かあったのではないかと心配して手紙を書いた。だが、次郎は収監されているため、その手紙は無人のアパートに届いた。その後も真美は何通も手紙を送るが、全て無人の部屋に投函されただけだった。

 釈放された次郎を、父に内緒で密かに差し入れをしていた和枝が温かく迎えた。次郎は塚田から、「花井がお前の保釈金のために、ヤクの捌きで危ない橋を渡った」と叱責された。
 花井は「そんなことより、塚田組の若いモンが銭にがっついてるのは聞こえが悪い。オヤジさんの顔はどうなる」と、次郎をたしなめた。塚田は「その女と切れろ。妙なスケにハマり込んでみろ。稼業のための意地もハリもとろけて無くなるのがオチだ。吠えるのを忘れた犬を飼っておくわけにはいかねえよ」と告げた。

 塚田は、次郎が簡単に保釈されたことから、警察が泳がせるために出したのではないかと疑っていた。彼は「署長に探りを入れてくる」と言い、その場を去った。
 花井は次郎に、塚田邸へ真美が訪ねてきたことを告げた。アパートにいなかったので、こちらへ来たのだ。花井は真美が出した手紙を次郎に見せると、「誰も読んでいない。お前も読むな」と言い、目の前で燃やした。

 身分違いの恋をするなと花井に諌められた次郎は、納得できない気持ちを抱えて塚田邸を出た。ミシシッピーへ行くと、美津は伊豆へ旅行に出掛けていた。次郎は他の女給から、美津が結婚することを知らされた。
 アパートへ戻ると、真美が待ち受けていた。彼女が「もう嫌なんです、貴方が警察なんかに入れられてしまうの」と言うので、次郎は「ヤバいことは、もうやめたよ。固い仕事に就こうと、ブタ箱の中で随分考えたよ」と告げた。すると真美は、「私にお仕事探させてください」と申し出た。

 真美は次郎に、来週の日曜に欣三の誕生日パーティーがあり、そこに阪東夫人も来ることを話した。真美は阪東夫人と引き合わせるため、次郎をパーティーに招待した。
 だが、邸宅に来た次郎を見た欣子は真美を呼び寄せ、「あの人を阪東夫人に紹介できると思ってるの」と叱り付けた。次郎は腹を立てて邸宅を飛び出した。真美は母に怒りをぶつけ、次郎の後を追った。

 次郎がバーで女給と踊っていると、真美が現れた。次郎が「何しに来たんだよ」と怒鳴ると、真美は真っ直ぐな目で「好きなんです。貴方が好きなんです」と訴えた。
 うろたえた次郎は、「俺は町のダニだ。それを見せてやる」と口にした。彼は女給を押し倒し、激しく拒む彼女の服を破って犯そうとする素振りを見せた。真美は悲痛な表情で顔を背け、店から飛び出した。

 花井は次郎を呼び出し、「お前がドジってから、ヤクの上がりがサッパリだ。サツは数日中にガサ入れをすると張り切っている。これからのヤクザは計算も要るぞ。どうだ、2、3年、行ってこねえか。ガサ入れの出鼻くじいて自首するんだ」と持ち掛けた。次郎は承諾した。
 一方、真美はアルジェリアへ行くことが決まったが、割り切ったわけではなかった。アパートに戻った彼が準備していると、真美が現れた。次郎は真美を連れてアパートを飛び出し、2人で逃げることにした…。

 監督は中平康、原作は藤原審爾、脚本は馬場当、企画は大塚和、撮影は山崎善弘、編集は丹治睦夫、録音は片桐登司美、照明は高島正博、美術は大鶴泰弘、ボクシング指導は川口養治、技斗は渡井嘉久雄、特殊技術は金田啓治、音楽は黛敏郎、主題歌「泥だらけの純情」唄は吉永小百合。

 出演は吉永小百合、和泉雅子、浜田光夫、滝沢修、小池朝雄、細川ちか子、武智豊子、清水將夫、河上信夫、弘松三郎、平田未喜三、宮阪將嘉、新井麗子、杉江弘、嵯峨善兵、小泉郁之助、星ナオミ、高島稔、日野道夫、野呂圭介、片桐恒男、市村博、鈴木瑞穂、堺美紀子、三井真澄、村田寿男、久松洪介、亀山靖博、英原譲二、野村隆、柳瀬志郎、三船好重、有田双美子、早川名美、高田栄子、漆沢政子、高山千草、武内悦子、谷川玲子、久遠利三、川村昌之、東郷秀美、石崎克己、守屋徹、石丘伸吾、市原久照、古部利夫、二木草之助、水城英子、北出桂子、松谷好美、金谷正一、ゾロ・ムジカ弦楽四重奏団ら。

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 藤原審爾の同名小説を基にした作品。『はだしの青春』という1964年の韓国映画は、本作品をそのまんま模倣しているらしい。
 真美を吉永小百合、和枝を和泉雅子、次郎を浜田光夫、清水を滝沢修、花井を小池朝雄、欣子を細川ちか子、大山を清水将夫、浦上を河上信夫、塚田を平田未喜三、森原を宮阪将嘉、阪東夫人を新井麗子、美津を星ナオミ、信次を高島稔が演じている。

 日活グリーン・ラインの吉永小百合、和泉雅子、浜田光夫が顔を揃え、「身分差にこだわる周囲に反抗を続け、現実の厳しさに悩み苦しむ若い男女」という構図を描いている。
 純情で可憐なお嬢様と、血気盛んなアウトロー。住む世界の違う男女の悲恋物という古典的な題材を、『狂った果実』『危いことなら銭になる』の中平康監督が、明るさと切なさを含有した青春純愛映画として仕上げている。

 次郎と真美は冒頭で会った後、再会までにしばらく時間が掛かる。「あのスケを引っ掛けてやるんだよ」と言って次郎が横浜へ行くので、ようやく再会するのかと思いきや、発見できずに帰ってしまう。そうなると前半は、おのずと真美の出番も多くない状態になる。
 浜田光夫がピンで主役を張り、その相手役が吉永小百合ということなら、それも仕方が無いかと思うんだが、クレジット上は違うんだよな。むしろビリングトップは吉永小百合なんだよな。

 で、そこでは「お嬢様ヅラしてるあのスケを」とか言っていた次郎だが、アパートに真美が来ると、嬉しそうな表情を浮かべる。もう完全に、金で済ませようとしたことへの反発は消え失せている。そこは、もうしばらくブルジョアへの反発を示すべきじゃないのか。
 で、突っ張った態度で接していたけど、真美の純真な気持ちにキュンとなって、ぶっきらぼうな中にも優しさを見せるようになっていくという方がいいんじゃないか。真美を目の前にした途端に、あまりにも態度が変わりすぎでしょ。

 逃げ出した真美と次郎が雪山で戯れる場面、カメラは楽しそうな2人の姿を映し出すが、そこに流れてくるのは物哀しいBGMだ。それは2人が選んだ悲劇的結末の予兆である。
 2人が愛を全うするために選んだのは、心中という形だった。それは純白の雪景色が象徴するように、純粋な想いの結晶だったのだ。ラストの葬儀シーンは蛇足と思えなくもないが、それぞれの葬儀を映し出すことによって、身分の違いを強く描き出したいという意図があったのだろう。

 当時18歳だった吉永“永遠のアイドル”小百合の愛くるしさは、まさにアイドルと呼ぶにふさわしい。佐伯孝夫が作詞し、吉田正が作曲した主題歌 「泥だらけの純情」も彼女が歌っている。歌唱力は、アイドルだからどうでもいい。
 浜田光夫は、プチ石原裕次郎とでも言いたくなるような感じで、威勢のいい跳ね返りの若者を演じている。彼は真面目な好青年を演じるより、オツムのよろしくない半端な野郎とか、兄貴分に仕えるチンピラとか、そういう役柄の方が合っている。

 福井が死んだ事件で次郎に自首を勧める際、花井は「少し痛い目に遭って、この稼業から足を洗う気になってもいい。覚えとけ、ヤクザでのたすつもりなら、死に水の味は美味かねえ」と告げる。これは、ものすごく含蓄のある言葉だ。
 その後も彼は、何かと次郎を擁護する立場を取り、葬儀のシーンでも沈痛な表情を見せる。いつも卑劣な悪党ばかり演じている小池朝雄だが、今回は善玉ではないものの、珍しく筋の通った真っ当なキャラを演じている。

(観賞日:2010年3月11日)

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