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『ブラック・クランズマン』:2018、アメリカ

 白人至上主義者のケネブルー・ボーリガード博士は講演を行い、黒人とユダヤ人を激しく罵った。1972年、黒人のロン・ストールワースはコロラド・スプリングス警察を訪れて警官の面接試験を受けた。黒人警官は前例が無く、アドバイザーのトゥレンティーンは酷い侮辱に遭うリスクを教える。
 ロンが「必要なら我慢します」と約束すると、トゥレンティーンは採用を決めた。ブリッジス署長はロンに、「支援はするが、限界がある。重荷は独りで背負うつもりでいろ」と告げた。

 資料課に配属されたロンは、黒人をカエル呼ばわりする白人警官たちと一緒に仕事をする。ロンはブリッジスと情報課のトラップ課長に「潜入捜査官にしてください」と訴えるが、「手始めとしては最適だぞ」と資料課の仕事を続けるよう言われる。しかしブリッズは電話を入れて「気が変わった」と言い、麻薬課に来るよう指示した。
 ロンが出向くとユダヤ系のフリップ・ジマーマン刑事と主任のアンディー・ランダースが待っており、ブリッジスはブラック・パンサーの元最高幹部であるクワメ・トゥーレの演説会に潜入する仕事を命じた。ロンは破壊分子の反応をモニターしろと言われ、フリップは彼の胸に盗聴器を仕掛けた。

 フリップとアンディーは外で待機し、ロンは会場となるクラブへ赴く。パトリス・ダマスという女性に声を掛けたロンは、彼女がクワメを招待した黒人学生自治会の会長だと知った。クワメはブラックパワーについて説明し、団結して戦うよう熱く訴えた。ロンが「黒人と白人の戦争は避けられないですか」と質問すると、クワメは「武装して備えるんだ。革命は必ず来る」と答えた。
 ロンはパトリスを飲みに誘い、クワメをホテルに送ってから会う約束を交わした。バーでパトリスと会ったロンは、白人警官に停車させられて屈辱的な目に遭ったことを聞かされた。ロンとパトリスは音楽に合わせて、一緒に踊った。

 ロンはトラップに報告を入れ、「クワメたちは革命を起こさない」と告げる。フリップとアンディーも同調し、ブラックパンサーへの調査は終了することになった。情報課に異動になったロンは、新聞でKKK支部の広告を見つけた。すぐに彼は電話を掛け、資料が欲しいと話す。
 すぐに支部長のウォルターから連絡が来て、ロンは白人至上主義者を装った。ウォルターは彼を気に入り、会うことになった。ロンはフリップたちから、本名を使った失態を指摘された。

 ロンはトラップに、自分が電話担当を務め、白人警官が会う仕事を担って2人で「ロン・ストールワース」を演じる作戦を提案した。会う仕事をフリップが担当することになり、ロンは自分の喋り方を真似るよう彼に指示した。
 フリップが指定された場所へ行くと、ウォルターは「場所を変更する。万が一に備えて俺の車で行く」と述べた。ロンは尾行するが、ウォルターに気付かれた。ウォルターは車に積んであった銃をフリップに渡し、弾丸を込めるよう指示した。

 プールバーに着いたウォルターは、支部員のフェリックスとアイヴァンホーにフリップを紹介した。ウォルターは会員になるための書類をフリップに渡し、手続きについて説明した。フェリックスは執拗にフリップをユダヤ人として疑い、ウォルターに諌められた。
 フリップはアイヴァンホーの「今年はドカンと花火を上げる」という言葉に着目し、ロンはトラップに継続調査を求めた。ロンは素性を隠したまま、パトリスとレストランでディナーを取った。

 ロンはウォルターから電話を受け、土曜日にフェリックスの家で皆に紹介すると告げられる。トラップはロンに、「デヴィッド・デュークがKKKを大きく変えてる。全米理事を名乗り、政界進出を狙ってる」と教えた。
 土曜日、フリップはフェリックスの家へ出掛け、彼の妻のコニーや支部員と会った。ロンは外で張り込み、コニーの姿を盗撮した。フェリックスは相変わらずフリップを疑い、嘘発見器に掛けると言い出した。彼は銃を向けて脅しを掛けるが、ロンが外から投石して妨害した。

 警察署に戻ったフリップは、ロンに「お前は聖戦だと思ってるが、俺にはただの仕事だ」と告げた。ロンはKKK本部に電話を掛け、「支部のイベントに出たいが、会員証が届いていない」と話す。電話に出たのはデュークで、「何とかする」と約束した。
 ロンはランダースの言動から、トゥーレの車を停めたのは彼ではないかと疑った。フリップが「奴は悪徳だ。黒人少年を撃ってる」と教えると、ロンは「なぜ許す?」と訊く。フリップが「俺たちは家族だ」と答えると、彼は「某団体と同じか」と吐き捨てた。

 フリップはウォルターたちと共に、射撃練習に出向いた。スティーヴとジェリーという見慣れない男たちも参加していたが、フリップが正体を尋ねてもウォルターは教えようとしなかった。フェリックスはロンの家を突き止め、ドアをノックした。
 パトリスと一緒にいたロンがドアを開けると、彼はニヤニヤしながら「間違えた」と立ち去った。フリップが支部の集まりに出向くと、フェリックスは「電話帳で家を調べたらニガーがいたぞ」と告げる。フリップは「電話帳に住所は載せてない」と言い、違う住所を自宅として教えた。

 ロンの元にはKKKの会員証が届くが、それを見せられたフリップは「要らない」と冷めた態度を示す。KKKはパトリスの周辺に、彼女を脅すビラを撒いた。ロンはデュークと電話で話して気に入られ、「君の入会式に参加するため、コロラド・スプリングスへ行く」と言われる。ロンはウォルターから電話を受け、新しい支部長になってほしいと要請される。
 集会に参加したフリップは、「親父が病気で通わなきゃいけなくなった」と説明して推薦を断った。フェリックスはウォルターに内緒で支部員を集め、「1週間後、デュークを迎える時に戦争が始まる」と語る。彼はコニーと共に、新たなるボストン・ティーパーティーを起こそうと企んでいた…。

 監督はスパイク・リー、原作はロン・ストールワース、脚本はチャーリー・ワクテル&デヴィッド・ラビノウィッツ&ケヴィン・ウィルモット&スパイク・リー、製作はショーン・マッキトリック&ジェイソン・ブラム&レイモンド・マンスフィールド&ショーン・レディック&ジョーダン・ピール&スパイク・リー、製作総指揮はエドワード・H・ハムJr.&ジャネット・ヴォルトゥルノ&マシュー・A・チェリー&マーシー・A・ブラウン、共同製作はチャーリー・ワクテル&デヴィッド・ラビノウィッツ、撮影はチェイス・アーヴィン、美術はカート・ビーチ、編集はバリー・アレクサンダー・ブラウン、衣装はマーシー・ロジャース、音楽はテレンス・ブランチャード。

 出演はジョン・デヴィッド・ワシントン、アダム・ドライバー、ローラ・ハリアー、トファー・グレイス、コーリー・ホーキンズ、ハリー・ベラフォンテ、ヤスペル・ペーコネン、ライアン・エッゴールド、フレデリック・ウェラー、ポール・ウォルター・ハウザー、アシュリー・アトキンソン、アレック・ボールドウィン、イザイア・ウィットロックJr.、ロバート・ジョン・バーク、ケン・ガリート、ダマリス・ルイス、アトー・ブランクソン=ウッド、ブライアン・タランティナ、アーサー・ナスカレラ他。

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 ロン・ストールワースによる同名の回顧録を基にした作品。カンヌ国際映画祭グランプリやアカデミー賞の脚色賞、ロカルノ国際映画祭の観客賞などを受賞した。監督は『セントアンナの奇跡』『オールド・ボーイ』のスパイク・リー。
 ロンをジョン・デヴィッド・ワシントン、フリップをアダム・ドライバー、パトリスをローラ・ハリアー、デュークをトファー・グレイス、クワメをコーリー・ホーキンズ、ターナーをハリー・ベラフォンテ、フェリックスをヤスペル・ペーコネン、ウォルターをライアン・エッゴールド、アンディーをフレデリック・ウェラー、アイヴァンホーをポール・ウォルター・ハウザー、コニーをアシュリー・アトキンソンが演じている。

 オープニングで写し出されるのは、『風と共に去りぬ』の映像だ。これが名作として世界的に有名な大ヒット映画であることは、言わずもがなだろう。しかし奴隷制や人種差別を肯定しているという作品ということで、黒人からは批判の対象にもなっている。次に出て来る映像は『國民の創生』で、こちらはKKKを英雄として描いている作品だ。
 ここで登場するボーリガードをアレック・ボールドウィンが演じているのは、彼がドナルド・トランプの物真似を得意としているからだ。ボーリガードがスピーチの途中で何度も言葉を間違えるのも、トランプを意識してのことだ。

 ロンの入会式と黒人たちの集会は、カットバックで描かれ。黒人たちの集会では、老人のジェローム・ターナーが若い頃に友人が無実の罪で白人たちに惨殺された出来事を語る。一方、ロンの入会式では、KKKの面々が自分たちの主張の正しさを堂々と語る。この対比によって、白人至上主義者の異常性をより強調しているわけだ。
 ターナーは事件が起きた大きな要因として、その前年に公開された映画『国民の創生』の影響を挙げる。同じ頃、KKKは『国民の創生』を観賞して絶賛している。白人たちは「ホワイトパワー」と連呼して団結し、黒人たちは「ブラックパワー」と連呼して団結する。KKKは「アメリカ・ファースト」というスローガンで盛り上がるが、まさにドナルド・トランプと支持者の集会そのものだ。

 いかにもスパイク・リー監督の作品らしく、黒人差別の問題に深く切り込んで鋭いメッセージを発信しようとする作品だ。ただし、全体的にはユーモラスなテイストで描かれており、監督の初期作品のように激しい怒りが煮えたぎっている印象は無い。
 アフロの黒人が軽妙なノリで行動し、たまに法を破るようなこともやりつつ活躍する。まるでブラックスプロイテーション映画のような雰囲気も感じさせる。だが、少しずつシリアスな雰囲気が高まっていき、映画の最後には大きな仕掛けが用意されている。スパイク・リー監督の怒りが、剥き出しの形でストレートに表現される。

 完全ネタバレだが、全てが解決した後、ロンは自宅でパトリスと口論になる。ドアがノックされたので、2人は銃を持って警戒しながら玄関へ向かう。するとドアの向こうでは、KKKが十字架を燃やす儀式を行っている。ここから実際のニュース映像に切り替わり、2017年にシャーロッツヴィルの極右集会で起きた出来事が写し出される。
 しかし残念ながら、その表現方法は中途半端に思える。どうせやるなら『幕末太陽傳』の当初の予定のように、「ロンとフリップが外へ飛び出したら現代のアメリカで」というぐらい振り切った方が良かったんじゃないか。

 とは言え、ラストで急にロンとフリップが現代へ飛ぶ展開を用意した気持ちは良く分かる。下手をすると作品のバランスを破綻させる羽目になりかねない演出だが、スパイク・リー監督はリスクを負ってでもドナルド・トランプが招いたアメリカの分断を糾弾したかったのだ。
 ロンとフリップの物語は過去に起きた出来事だが、「黒人差別は終わった問題ではなく、現在も全く変わっちゃいない」と主張する必要性を感じたのだ。不恰好になっても、声高に訴えたかったのだ。強い怒りが、スパイク・リー監督を突き動かしたのだ。

(観賞日:2021年12月7日)

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