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『キャプテン・スーパーマーケット』:1992、アメリカ

 アッシュは西暦1300年頃のブリタニアで奴隷として捕まり、鎖に繋がれて連行されていた。かつて彼はSマートの日用品売り場主任として働き、同僚のリンダと付き合っていた。
 ある夜、アッシュはリンダと共に車で山奥の小屋へ行き、考古学者の残した「死者の書」を発見した。その本によって森の悪霊が目覚め、リンダを襲って殺害した。アッシュは悪霊の憑依した左手首を切断するが、突如として出現した大きな穴に吸い込まれた。

 アッシュは西暦1300年頃のブリタニアへ落下し、アーサー王や側近のゴールド・トゥースたちに包囲された。賢者は「天からの使者です。我々を闇の力の脅威から救ってくれます」と話すが、アーサーはノースアイランド国王であるヘンリーの家来だと決め付けた。
 彼は「穴に落として殺そう」と言い、ヘンリーの一行と共にアッシュを連行した。アーサーが城へ戻ると、シーラという百姓女が兄のことを尋ねた。兄が戦死したと聞かされたシーラは、他の市民に加わってアッシュを殴り付けた。

 ヘンリーはアーサーから「我々が悪魔と戦っている時に、戦いを挑んで来た」と言われ、「戦いを仕掛けたのは貴様らだ。我が民も悪魔に襲われた」と反発した。アーサーは穴を開放し、ヘンリーの家来1名を突き落とした。少し待っていると、穴から血しぶきが吹き上がった。
 怯えた兵士は逃亡を図るが、矢で射抜かれて死亡した。アッシュは「俺は家来じゃない」と訴えるが聞き入れられず、穴に落とされた。すると死人が現れて襲い掛かって来たので、アッシュは反撃した。

 アーサーは家来に指示して死の壁を動かし、アッシュを追い詰める。賢者はチェーンソーを投げ入れ、それを受け取ったアッシュは死人を始末した。彼は新たに現れた死人2名も退治し、穴から脱出した。
 アッシュはアーサーを殴り倒し、見物していた人々を威圧した。彼はヘンリーに「馬に乗って逃げろ」と指示し、彼と家来たちを逃がした。アーサーが剣を構えると、アッシュはショットガンを発砲した。アーサーたちが驚いていると、アッシュは穴から這い上がって来た死人を射殺した。

 アッシュは丁重な扱いを受けるようになり、元の時代へ帰る方法を見つけようと考える。賢者は彼に、「私たちも必要としている死者の書に、元の時代へ帰る方法が書かれています。探して来て下さい」と話す。アッシュは「俺を騙す気だな」と憤慨するが、悪霊に憑依された老婆が「死者の書は渡さないよ」と凄む。
 アッシュが老婆を始末すると、賢者は「死者の書を死人どもに取られたら最後です」と述べた。アッシュは鍛冶屋に手伝ってもらい、戦闘用に特製の義手を用意した。彼はシーラと恋に落ち、関係を持った。

 翌朝、アッシュが馬で城を出発すると、途中まで同行した賢者は「この先の、呪われた墓地に死者の書があります」と言う。彼は持ち帰る際に唱える呪文を教え、アッシュは一人で森へ向かった。しかし悪霊が襲って来たので、慌てて逃げ出した。
 風車小屋へ避難した彼は、鏡に写る自分の姿に気付いた。アッシュは鏡に体当たりして破壊するが、その破片から数名のミニ・アッシュが出現した。アッシュはミニ・アッシュたちに襲われて転倒し、頭を打って気絶した。

 アッシュが意識を取り戻すと、床に縄で拘束されていた。1人のミニ・アッシュが頭上から口の中へダイブし、アッシュは彼を飲み込んでしまった。熱湯を飲んで始末しようとしたアッシュだが、左肩から全く同じ頭部が生えて来た。
 アッシュが小屋を飛び出して抵抗していると、シャム双生児のような姿になった。アッシュが暴れていると左半分が分離し、バッド・アッシュになった。バッド・アッシュが踊りながら楽しそうに殴って来るので、アッシュはショットガンで射殺した。

 アッシュはチェーンソーでバッド・アッシュの頭部を切断し、穴を掘って埋めようとする。バッド・アッシュは「死者の書は渡さんぞ」と強気に言うが、アッシュは構わず埋めた。彼が墓地へ行くと、本は3冊も置いてあった。
 彼は本物を突き止めるが、呪文の最後の一節を忘れてしまった。適当に誤魔化して呪文を唱えた彼は、死者の書を手に取った。すると墓地が崩れ始めたので、アッシュは慌てて逃亡する。同じ頃、城は嵐に見舞われ、落雷が人々を襲っていた。

 アッシュは地中から出現した骸骨の手たちに襲われるが、何とか脱出した。彼が馬で城へ向かっている頃、バッド・アッシュは穴から飛び出して復活していた。アッシュが城に戻ると、賢者は「呪文を正確に唱えないと、死者の軍勢が蘇る」と話す。アッシュは「約束は約束だ元の時代へ帰せ」と要求し、アーサーは承諾した。
 アッシュが自分たちを見捨てると知り、人々は幻滅した。シーラが「私たちを助けてくれるわよね?」と訊くと、アッシュは「俺は偽の使者だ。元の時代へ帰る」と告げる。そこへ翼の生えた死人が現れ、シーラを捕まえて飛び去ってしまった…。

 監督はサム・ライミ、脚本はサム・ライミ&アイヴァン・ライミ、製作はロバート・タパート、共同製作はブルース・キャンベル、製作総指揮はディノ・デ・ラウレンティス、撮影はビル・ポープ、美術はトニー・トレンブレイ、編集はボブ・ムロウスキー&R・O・C・サンドストロム(サム・ライミの変名)、衣装はアイダ・ギアロン、視覚効果撮影はウィリアム・メサ、音楽はジョセフ・ロドゥカ、テーマ曲はダニー・エルフマン。

 主演はブルース・キャンベル、共演はエンベス・デイヴィッツ、マーカス・ギルバート、イアン・アバークロンビー、リチャード・グローヴ、ティモシー・パトリック・クイル、マイケル・アール・リード、ブリジット・フォンダ、パトリシア・トールマン、セオドア・ライミ(テッド・ライミ)、ディーク・アンダーソン、ブルース・トーマス、サラ・シアラー、シーヴァ・ゴードン、ビリー・ブライアン、ナディーン・グリカン、ビル・モズリー、マイケル・ケニー、アンディー・ベイル、ロバート・ブレント・ラッピン、ラッド・マイロ、ブラッド・ブラッドバリー他。

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 「死霊のはらわた」シリーズ第3作。『キャプテン・スーパーマーケット/死霊のはらわた3』『死霊のはらわた III/キャプテン・スーパーマーケット』という別タイトルもある。監督は1作目から通してサム・ライミ。脚本はサム・ライミと弟のアイヴァン・ライミが担当。
 出演者で1作目からの続投組は、アッシュ役のブルース・キャンベルだけ。他は全て新顔で、シーラ役は初のハリウッド作品となるエンベス・デイヴィッツ。アーサーをマーカス・ギルバート、賢者をイアン・アバークロンビー、ヘンリーをリチャード・グローヴ、鍛冶屋をティモシー・パトリック・クイル、トゥースをマイケル・アール・リードが演じている。

 2作目のラストでアッシュは中世にタイムスリップしているが、その時と今回の内容は少し状況が異なる。前作ではタイムスリップしたアッシュが大勢の兵士に囲まれ、翼を持つ悪霊に襲われてショットガンで始末し、「天から来た使者だ」と言われていた。
 しかし今回は、悪霊を退治する手順は無いし、賢者が「天から来た使者」と説明している。だから前作と繋がっているようで微妙に繋がっていないという状態ではあるのだが、その辺りは特に何か考えがあったわけじゃなくて、ただ適当なだけだろう。

 映画が始まると、すぐにアッシュの語りによって「中世のブリタニアへ飛ばされた経緯」が説明される。回想シーンに入ると、アッシュとリンダが山小屋で死者の書を発見し、悪霊に襲われる様子がザックリと描かれる。これは1作目でも2作目でも描かれていた内容と、ほぼ同じだ。
 だから1作目や2作目の映像を使えばいいはずだが、どうやら権利関係で無理だったらしい。そこで全く同じシーンを、新たに撮影している。リンダ役は1作ごとに違うのだが、今回はブリジット・フォンダ。ナレーションベースで簡単に退場する雑な扱いだけど、本人が希望して出演したらしい。

 そんな経緯の説明が片付くと、映画のタイトルが表示される。正式な原題は「Army of Darkness」のはずなのに、画面に表記されるのは「Bruce Campbell vs Army of Darkness」という文字。アッシュという役名じゃなくて、ブルース・キャンベルという役者の名前が出る。
 この時点で、もはやマトモに「死霊のはらわた」シリーズとして作る気が無いことは明らかだ。そもそも1作目からブルース・キャンベルのショーケースという傾向はあったが、すっかり開き直って「ブルース・キャンベルを見てくれ」とアピールしているわけだ。

 城でアーサーが穴に兵士を突き落すと、大量の血しぶきが上がる。だから、どんなに恐ろしい怪物が潜んでいるのかと思ったら、ただの薄汚い格好をした男。まあ一応は死人という設定なんだけど、殴ったり蹴ったりするだけで、そんなに特別なパワーがあるわけではない。
 だからアッシュも、そいつが恐ろしいというよりも、迫り来る「死の壁」の方に焦っている。極端な話、奴隷を殺すのが目的であれば、死人なんていなくても死の壁だけでいい。でも、そういう細かいことは気にしちゃいけない。

 もはやホラーとしてのテイストはすっかり消え失せており、ほぼアクション・コメディーと言っていい仕上がりだ。「アクション」の部分に関しては、アッシュがガラの悪いアウトローなヒーローとして造形されている。チェーンソーとショットガンを武器に、いちいちカッコ付けながら死人や悪霊と戦う。老婆が襲って来た時などは、わざわざ背中を向けた状態でショットガンを撃つ。
 ただしヒーローらしいのは城にいる間だけで、死者の書を探しに行くと、すぐに森で悪霊に追い掛けられてビビってしまう。慌てて逃げ出すが、木の枝に激突して落馬し、坂から転げ落ちるという情けない姿を露呈する。

 「コメディー」の部分に関しては、例えば剣をショットガンで撃ち抜いた時、怯える人々に対して「これはショットガンだ。Sマートのスポーツ用品売り場に置いてある。買うならお得なSマートヘ」と宣伝する。賢者が呪文を教え、確認のために3回繰り返させようとすると「しつこいな、もう覚えた」とアッシュは苛立つ。しかし実際は覚えていないので、最後の一節を咳払いで適当に誤魔化す。
 その辺りは全て、完全にコメディーとしての描写だ。1作目は「ホラーが行き過ぎると笑いに変化する」という可笑しさだったし、2作目も基本的にはそれを踏襲していた。しかし今回は、最初から狙って喜劇を作っている。

 風車小屋に逃げ込んだアッシュは、鏡の破片から出現したミニ・アッシュ軍団に襲われる。しかしミニ・アッシュ軍団の行動は、嬉々としてフォークで尻を突き刺すとか、ホウキを足に絡ませて転倒させるといったもの。もちろん恐怖なんて皆無だし、殺そうとするための行動ではなくイタズラでしかない(かなりタチは悪いけど)。
 また、アッシュが床に縛られるのは『ガリバー旅行記』だったり、頭部が生えて来るのは『Mr.オセロマン/2つの顔を持つ男』だったりというネタも盛り込まれている。

 墓地に本が3冊もあってアッシュが困惑するってのも、完全にコメディーとしての展開だ。どうやって本物を見つけるかというと、オツムの弱いアッシュは1冊ずつ開いて行く。
 1冊目を開くと穴が開いて吸い込まれ、脱出すると顔が異様に伸びているので激しく振って元に戻す。2冊目は表紙に顔が書いてあり、アッシュは腕に噛み付かれて痛がる。3冊目は前述したように、呪文を忘れて咳払いで誤魔化すというアホっぷりだ。

 アッシュは城を出て賢者たちと別れると、しばらくは他の誰とも会わない。彼が城に戻るまでに登場するのは、ミニ・アッシュとバッド・アッシュだけ。どれも全てアッシュだから、つまりブルース・キャンベルのワンマンショー状態なのだ。骸骨の手に襲われるシーンも、言ってみりゃあ一人芝居たいなもんだ。
 その骸骨の手は、アッシュを殺そうとしているわけではなく、鼻の穴に突っ込んだり、口を掴んで開いたり、舌を引っ張ったりという動き。これまた、コメディー以外の何物でもない。そんなこんなで、ブルース・キャンベルのショータイムが20分ほど続く。

 死者の軍勢が蘇ったと知らされたアッシュは、人々を見捨てて自分だけ元の時代へ戻ろうとする。そんなヘタレなアッシュだが、シーラが拉致された途端、怖じ気付く兵士たちに向かって「勝手に逃げろ。俺は逃げたりしないぞ。最後まで戦う」と偉そうに言う。見事なほどの、変わり身の早さだ。
 一方、死者の軍勢の方は、すっかり醜い容貌になったバッド・アッシュがシーラにキスし、彼女を白塗りババアのような姿に変えて仲間に引き入れる。バッド・アッシュを演じるのは特殊メイクのブルース・キャンベルだから、実は「Bruce Campbell vs Army of Darkness」じゃなくて「Bruce Campbell vs Bruce Campbell」だ。

 こうして全面対決が勃発し、アーサー王サイドはアッシュが鍛冶屋と協力して改造した戦闘用車を走らせたり、ヘンリーの軍勢が助っ人に駆け付けたりして敵を全滅させる。アッシュは賢者から薬を貰い、「1滴で1世紀眠るので6滴で元の時代へ戻れる」と説明を受ける。
 シーラと別れて洞窟へ赴く様子が描かれ、最後はシリアスに締め括るのかと思いきや、「1滴、2滴」と数えていたアッシュは5滴目で物音を気にしてしまい、誤って「5」を2度数えてしまう。つまり1滴多く飲むというミスをやらかす。

 ただし、じゃあアッシュのヘマがコミカルに処理されるのかというと、そうではない。1滴多く飲んだせいで元の時代に戻れなくなったアッシュは、目を覚ますと周囲が瓦礫だらけの景色なので「眠りすぎたんだ」と悲嘆に暮れる。つまり、マジなテイストのバッドエンドになっているのだ。
 ただし、これはディレクターズ・カット版のエンディングであり、その暗い結末に難色を示した製作サイドから要望を受けた劇場公開版では「アッシュは間違わずに薬を飲んで無事に元の時代へ戻り、Sマートの同僚とカップルになる。そこへ死霊が襲ってくるが、撃退する」という形になっている。個人的には劇場公開版の方がいいし、映画の雰囲気にも合っていると思うなあ。

(観賞日:2017年8月22日)

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