『情婦』:1957、アメリカ
ロンドンに住む老齢の弁護士のウィルフリッド・ロバーツが、病気療養から戻った。ウィルフリッド卿は看護婦のプリムソルから、酒とタバコを禁止される。そんな彼の元を、知人のメイヒューが1人の男を連れて訪れた。その男の弁護を頼みたいというのだ。
男はレナード・ヴォールという名で、未亡人のエミリー・フレンチを殺害した容疑が掛けられていた。レナードはエミリーが残した8万ポンドの遺産の受け取り人となっており、しかも彼のアリバイを証明してくれるのは妻のクリスティーネだけだった。やがて刑事が事務所に現れ、レナードはウィルフリッド卿の目の前で連行されて行った。
ウィルフリッド卿は弟子のブローガン=ムーアと共に、レナードの弁護を引き受けることにした。ウィルフリッド卿はクリスティーネに面会するが、彼女はレナードを全く愛していない様子だった。それでも彼女は、レナードのアリバイは確かなものだと語った。
レナードの裁判が開始された。公判が続く中、検察側は最後の証人として、レナードの妻クリスティーネを指名する。クリスティーネは、レナードが自宅に戻った時刻が事件よりも後のことで、事件の夜に彼が殺人を自白していたと証言する。
その夜、ウィルフリッド卿の元に、クリスティーネに関する物品を売りたいという女性からの電話が掛かった。ウィルフリッド卿は指定された場所に出向き、その女から1通の手紙を入手した。それは、裁判の行方を大きく変える手紙だった…。
監督はビリー・ワイルダー、原作はアガサ・クリスティー、脚本はビリー・ワイルダー&ハリー・カーニッツ、改作はラリー・マーカス、製作はアーサー・ホーンブロウ・Jr.、撮影はラッセル・ハーラン、編集はダニエル・マンデル、美術はアレクサンドル・トラウナー、ディートリッヒ用衣装はエディス・ヘッド、音楽はマティー・マルネック。
出演はタイロン・パワー、マレーネ・ディートリッヒ、チャールズ・ロートン、エルザ・ランチェスター、ジョン・ウィリアムズ、ヘンリー・ダニエル、イアン・ウルフ、トリン・サッチャー、ノーマ・ヴァーデン、ユナ・オコナー、フランシス・コンプトン、フィリップ・トング、ルタ・リー他。
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アガサ・クリスティーの短編小説『検察側の証人』を基にした舞台劇を映画化した作品。
レナードをタイロン・パワー、クリスティーネをマレーネ・ディートリッヒ、ウィルフリッド卿をチャールズ・ロートン、プリムソルをエルザ・ランチェスターが演じている。
シリアスな話の中に、ウィルフリッド卿とプリムソル看護婦の存在がユーモラスな雰囲気を持ち込んでいる。
言葉や行動がギャグになっているというわけではないのだが、2人の台詞回しや間の取り方、表情などが、何とも言えない可笑しさを醸し出す。
この作品には、原作を読んでいるか、何かの情報でオチを知っているか、どちらかでない限り、まず読み解くことは困難であろうと思われるドンデン返しが待ち受けている。
最後には、「結末は絶対に口外しないでください」というテロップが出る。
キャストのクレジットでは、レナード役のタイロン・パワーとクリスティーネ役のマレーネ・ディートリッヒが、ウィルフリッド卿を演じるチャールズ・ロートンよりも先に来る。
しかし、話の滑り出しを観る限り、明らかにウィルフリッド卿が主役だと取れる。
だが、実は最初のクレジット順が正しかったことが、終盤になって明確になる。主役は間違い無く、レナードとクリスティーネだった。ウィルフリッド卿は裁判を主導していると見せ掛けて、実は巧みに利用されているだけだったことが、終盤になって分かる。
ウィルフリッド卿も、彼が主役だと思わされた観客も、最初から罠に落ちているのだ。
ウィルフリッド卿の元にレナードが現れたシーンから、もうドンデン返しに向けた伏線が張られ始めている。
「献身的な妻の証言は信用されない」というウィルフリッド卿の言葉は、法律が障害となったと思わせて、その法律を利用するという計画に繋がる。
ウィルフリッド卿が向けたレンズの光から目を反らさず、無実を主張するレナード。すぐに手で遮り、カーテンを閉じて光を消し、夫のアリバイを証言するクリスティーネ。
クリスティーネは冷たい表情で、夫への愛情の無さを感じさせる。一方のレナードは、妻が自分を愛していると確信していることを示す。
それらも全て、ドンデン返しに繋がる。
ドンデン返しに大きく関わってくるのは、ウィルフリッド卿に電話を掛けてくる女である。この女の姿を隠そうとせず、ハッキリと顔を見せているのが凄い。
それは、かなり危険な演出であるはずだ。
しかし、あまりに大胆だったせいか、まるで気付かなかった。
実は、謎を解く鍵は、何も包み隠さずに観客に堂々と提示されている。にも関わらず、ドンデン返しが前の段階でバレることなく、見事に決まってしまう。
そして、最初から謎が明かされていたことに気付くことで、さらにドンデン返しの衝撃が大きくなるのだ。
(観賞日:2003年3月29日)
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