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『アデル、ブルーは熱い色』:2013、フランス

 パスツール高校2年生のアデルは仲良しの3人から、「トマが夢中よ」と言われる。アデルもトマの視線を分かっており、意識していた。バスで一緒になった時、アデルはトマに話し掛けられた。3年生のトマは、「卒業したら音楽の仕事がしたい。レーベルを立ち上げて、プロダクションを作る」と言う。彼は現在も、アマチュアで複数の楽器を演奏していた。
 アデルが「音楽は好きだけど、ハードロックだけは好きじゃない」と告げると、トマは軽く笑いながら「やってるのはハードロックだ」と口にした。アデルはトマと音楽の話で盛り上がり、デートの約束を交わした。

 デートの日、アデルは待ち合わせ場所の公園へ向かう途中で、女性と肩を組んでいる青い髪のエマという女性に目を奪われた。すれ違う時、エマもアデルに視線を向けた。アデルはトマと会い、ケバブを食べに行く。アデルは本が好きだが、トマは1冊を読み切ったことが無いと話す。
 彼は授業で『危険な関係』だけは読まされたと言い、「教師が細かく分析するのは面白かった」と述べた。するとアデルは、「私は逆。細かく分析されるのは好きじゃない」と述べた。映画館へ出掛けたアデルはトマからキスされるが、まるで気持ちが高まらなかった。帰宅した彼女は、エマの姿を思い浮かべながら自慰行為にふけった。

 翌日、登校したアデルは、トマを避けた。トマから「焦ってるように見えたかもしれないけど、本当に君が好きなんだ」と言われた彼女は、自らキスをした。彼女はトマの家を訪ねてセックスに及ぶが、やはり気持ちは全く高まらなかった。
 彼は親友のヴァランタンに相談し、「私は彼を騙してる。何かが欠けてる」と吐露する。サミールは「悲しくなるんだったら理由があるんだ。自分を苦しめるのはやめろよ」と助言し、アデルはトマに別れを告げた。家に戻った彼女は、ベッドに倒れ込んで泣いた。

 アデルは学友のベアトリスと煙草を吸っている時、「アリスは美人ね。お尻の形がいい」と言われる。ベアトリスは「貴方も美人よ」などと話し、不意にキスをした。
 翌日、アデルとトイレでベアトリスを見つけ、今度は自分からキスをした。するとベアトリスは困惑した様子を見せ、「ゴメン。昨日のことは、ただ盛り上がっただけ。誤解させたみたい」と告げた。元気が無いアデルを見たヴァランタンは、ゲイ・バーへ連れて行く。エマが恋人のサビーネと一緒にいるのを見たアデルは、後を追って店を出た。

 アデルはエマを追い掛け、レズビアンが集まるバーに足を踏み入れた。エマはアデルに気付き、声を掛けた。アデルは「たまたま入っただけ」と言い、レズビアンであることを否定した。エマは美大の4年生だと自己紹介し、「醜い芸術は無い」と告げた。
 そこへ仲間たちが来ると、エマはアデルを従妹と紹介した。アデルはエマの仲間たちに体を寄せられ、露骨に不快感を示した。エマの仲間がクラブに誘うと、アデルは断った。エマは仲間と共に、クラブへ向かった。

 後日、試験を終えたアデルが友人たちと学校を出ると、エマが待っていた。エマから「近くまで来た。飲みに行こう」と誘われ、アデルは彼女に付いて行く。アデルを見送った友人たちは、エマに対して露骨に嫌悪感を示した。エマは公園へ行き、アデルをモデルにした絵を描いた。
 「サビーネを待たせてるから、行かなきゃ」と彼女が言うと、アデルは「彼女とは長いの?」と尋ねる。エマは「2年ぐらい」と答え、アデルに電話番号を教えた。「必ず電話して」とアデルは告げ、エマと別れた。帰宅したアデルは、すぐにエマから電話が来たので喜んで会話を交わした。

 数日後、アデルは友人たちから、「あの青い髪の女はレズビアンでしょ?」「貴方もレズビアンでしょ」と責めるように追及された。彼女は否定するが、誰も受け入れようとしなかった。1人が侮辱的な言葉を浴びせて罵ったので、アデルは腹を立てて掴み掛かった。
 アデルはエマに誘われて美術館へ出掛け、公園で昼食を取った。エマはアデルの質問を受け、初めて女性とキスしたのは14歳だと答えた。「女の方が好き?」とアデルが訊くと、彼女は「両方試したけど、やっぱり女が好き」と告げた。2人は煙草を吸い、キスを交わした。

 アデルはエマに誘われ、ゲイ・パレードに参加した。エマはアデルを自宅に連れて行き、母と義父に紹介した。アデルは義父から将来について問われ、幼稚園の先生になりたいと述べた。
 アデルは18歳を迎え、両親や友人たちにパーティーで祝福された。彼女はエマを自宅に招き、両親には「哲学を教わっている友人」として紹介した。エマはアデルの両親から質問を受け、彼氏がいるフリをする。アデルは両親に気付かれないよう、自分の部屋でエマと肉体関係を持った。

 数年後、アデルは髪の色を変えたエマと同棲し、ヌードモデルを務めた。アデルは幼稚園で働き、子供たちに自分の作った物語を聞かせた。同僚のアントワーヌから仲間と飲みに来ないかと誘われた彼女は、「家族と食事なの」と断った。しかし「後から来ないか」と誘われると、「やってみる」と答えた。
 エマが自作を披露するためのホームパーティーを開き、アデルは来客のために料理を用意した。エマの知人や友人が次々に訪れ、彼女は妊娠中のリーズとの再会を喜んだ。

 エマが友人たちと絵画について喋る中、アデルはパスタの配膳に動き回った。サミールという男に「ずっと前から女性が好きだったの?」と訊かれたアデルは、「エマが初めてよ」と答えた。サミールはアデルが幼稚園の先生だと知り、「子供が欲しくならない?」と質問する。アデルは黙ってうなずき、サミールの仕事を尋ねた。
 サミールはアクション俳優だと言い、アメリカでの仕事について語った。アデルはサミールに誘われて踊るが、リーズといるエマに何度も視線を送る。しかしエマは彼女を全く気にする素振りが無かった。

 パーティーが終わった後、エマはアデルに「好印象を与えた。特にジョアキムに」と告げた。エマはジョアキムが大画廊のオーナーであること、作品を選ばれたら栄光が保証されることを教える。「貴方も選ばれるわ。友人でしょ」とアデルが言うと、エマはジョアキムが仕事に関してはドライな考え方の持ち主だと話す。
 「貴方も短編小説か何か書けばいいのに」と彼女が提案すると、アデルは「雑記を見せようとは思わない」と告げる。「創作のことを言ってるの。自分の好きな道を選んで。料理や家事もいいけど、幸せになって」とエマが語ると、アデルは「私は幸せよ」と述べた。アデルが「リーズは元恋人?」と訊くと、エマは「違うわ。彼女も画家よ」と告げた…。

 監督はアブデラティフ・ケシシュ、原作はジュリー・マロ、脚本はアブデラティフ・ケシシュ&ガリア・ラクロワ、製作ブラヒム・シウア&ヴァンサン・マラヴァル&アブデラティフ・ケシシュ、製作総指揮はロランス・クレル、共同製作はジュヌヴィエーヴ・レマル&アンドレス・マルタン、製作協力はフランソワーズ・ハッサン・グエラ、撮影はソファニ・エル・ファニ、編集はカミーユ・トゥブキス&アルベルティーヌ・ラステラ&ガリア・ラクロワ&ジャン=マリー・レンジェル&ソフィー・ブルネ、美術はジュリア・ルメール、衣装はパロマ・ガルシア・マルテンス。

 出演はレア・セドゥー、アデル・エグザルホプロス、サリム・ケシゥシュ、オーレリアン・ルコワン、カトリーヌ・サレ、ベンジャミン・シクソウ、モナ・ヴァルラヴェン、アルマ・ホドロフスキー、ジェレミー・ラウールト、アンヌ・ロワレ、ベノワ・ピロ、サンドール・ファンテック、ファニー・モーリン、メイリス・キャベゾン、サミール・ベラ、トム・フリエル、マノン・ピエット、クエンティン・メドリナル、ペテル・アソグバヴィー、ウィズドム・アヤノウ、フィリップ・ポティエ、ヴィルジニー・モルグニー他。

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 ジュリー・マロのグラフィック・ノベル『ブルーは熱い色』を基にした作品。監督は『クスクス粒の秘密』『黒いヴィーナス』のアブデラティフ・ケシシュ。脚本も同じく『クスクス粒の秘密』『黒いヴィーナス』のアブデラティフ・ケシシュ&ガリア・ラクロワ。カンヌ国際映画祭でパルム・ドールとFIPRESCI賞を受賞した。
 エマをレア・セドゥー、アデルをアデル・エグザルホプロス、サミールをサリム・ケシゥシュ、アデルの父をオーレリアン・ルコワン、アデルの母をカトリーヌ・サレ、アントワーヌをベンジャミン・シクソウ、リーズをモナ・ヴァルラヴェン、ベアトリスをアルマ・ホドロフスキー、トマをジェレミー・ラウールトが演じている。

 アデルはトマが夢中だと親友たちに言われ、まんざらでもない様子を見せる。この段階では、まだ彼女は自分が異性愛者だと思っている。トマに話し掛けられたアデルは嬉しい気分になり、デートの約束を交わす。ところが彼女はエマを見た途端、同性愛への目覚めが起きる。
 そうなると、もうトマへの気持ちは完全に冷める。そもそも彼女は、そんなにトマを好きだったわけではないのだ。ただ「年頃の女性として、周囲の面々も恋愛の話をするし、自分も恋をしたい」という思いから彼に意識が向いただけなのだ。

 それでも、まだアデルの中に「自分はレズビアン」という確固たる気持ちがあるわけではない。迷いや揺らぎがある状態なので、トマから改めて「本当に好きなんだ」と言われると、彼との交際を続けようとする。自らキスをして、肉体関係も持つ。
 だが、どんなに頑張っても、彼女の気持ちは高まらない。だから彼女はヴァランタンの助言を受け、トマに別れを告げる。その後、彼女はベアトリスにキスされると、「好きなのかも」と感じる。トマに別れを告げたことで、女性との交際に対して前向きになっている。

 この段階では、まだアデルは「同性愛に目覚めた」というだけであり、「相手はエマでなくちゃ」という強い気持ちになっているわけではない。しかし一時的ではあっても、ベアトリスに惹かれたことは確かだ。だから彼女に軽く拒絶されると裏切られた気分になり、すっかり落ち込んでしまう。
 初めてゲイ・バーへ出掛けたアデルは男同士のキスを見て動揺するが同時に刺激を受ける。中年男性から「恋は性別を超える。幸せなら、それでいい。本物の恋なら」と言われ、彼女は前向きな気持ちになる。

 アデルはエマを見つけても、積極的にアプローチする勇気は持てない。だから追い掛けて遠くから姿を見ているだけだったが、幸運にも向こうが気付いて声を掛けてくれる。
 エマは美術や文学に造詣が深く、トマと違ってアデルとは話も合った。ちゃんと自分の考えを持っており、アデルを感心させる言葉も口にした。アデルが理解できない哲学についても、エマは詳しく解説する。知識が豊富であることが、ますますアデルを引き付ける。

 まだアデルは自分がレズビアンであることを全面的に受け入れたわけではなく、そのコミュニティーに足を踏み入れたばかりなので慣れていない。だからエマの仲間が来てフランクに接して来ると、嫌悪感を隠し切れない。
 アデルにとってエマは仲良くしたい相手だが、決して同性愛者のコミュニティーに入りたいわけではないのだ。それどころか、自分がレズビアンであることを恥ずかしいと感じており、だから友人たちの前では全面的に否定する。

 アデルはエマと一緒にいても、自分のジェンダーが定まっていないので、不安が何度も顔に出る。しかもエマと違ってアデルは女性との性的な交際を内緒にしているので、それが不安に拍車を掛ける。やがてアデルはエマと同棲生活を始め、ここで2人の関係は深まったはず。
 ただし、アデルはエマのコミュニティーに入りたいと思っているわけではない。それに、エマの仲間は芸術や文化に造詣の深いインテリばかりなので、アデルは全く話題に付いて行けない。それに、全員が金銭的に何の不自由も無い面々ばかりで、そういう意味での住む世界の違いも感じる。

 根本的な問題として、アデルからするとエマの仲間たちは全て初対面の人ばかりだ。それに加えて、自分の知らない話で盛り上がっているわけで。そうなると、そもそも人付き合いが上手とは言えないアデルにとっては、かなりハードルが高い。
 そこに輪を掛けるのが、エマの対応だ。彼女は自分の仲間たち、特にリーズとの再会に気持ちを喜び、そっちと楽しく話すことに夢中になる。だからアデルが寂しそうにしていても、まるで気付かずに放置してしまう。アデルは疎外感を覚えるが、エマは全く気付かない。

 アデルにとっては「エマとの生活」が世界の全てだが、エマには画家として成功したいという野心があるし、アデルにも「自分の道」を進んでほしいと思っている。自立心と強いエマと依存心の強いアデルには、生き方や幸せに対する考え方の大きな相違がある。
 そんな違いが、アデルの寂しさに繋がっている。そして彼女は寂しさを埋めるため、同僚と浮気してしまう。エマは仕事が上手く行かず、心に余裕が無かったこともあって、アデルの裏切りを許せない。アデルが必死に謝っても、彼女は冷たく追い出してしまう。

 久々に再会した時、まだアデルはエマへの未練が強く残っている。しかしエマは気持ちが切り替わっており、リーズや彼女の子供たちとの新生活を始めている。エマにも寂しさはあるし、もうアデルのことは許している。しかし彼女は新しい家族との生活を捨ててまで、アデルと復縁する気持ちになれない。彼女が選んだ道は、リーズとの生活だったのだ。
 アデルは心が取り残されたまま、寂しさから抜け切れずに生きていくことになる。誰かに依存したがるアデルと、自立心の強いエマの違いが、そこでもハッキリと現れている。

(観賞日:2021年12月5日)

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