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『ハッピー・デス・デイ』:2017、アメリカ

 9月18日。ベイフィールド大学の学生寮で暮らすツリー・ゲルブマンは、男子寮の部屋で目を覚ました。彼女は前夜のパーティーで悪酔いし、名前も知らない男子学生の部屋に上がり込んでいたのだ。ツリーは住人のカーター・デイヴィスから頭痛薬を貰い、冷たい態度で去る。
 彼女が校内を歩いていると、1度だけデートしたティム・バウアーが声を掛けて来た。「メールを返してよ」とティムが告げるとツリーは「返す必要が無い」と言い放ち、罵って去った。

 ツリーが女子寮に戻ると、玄関前にいた学生のエミリーが笑顔で挨拶した。ツリーは冷たく無視し、寮に入る。ソロリティー「カッパ会」代表のダニエル・ボーズマンは、ツリーの朝帰りを咎めた。
 ルームメイトのロリ・シュペングラーはツリーが誕生日と知り、小さなケーキを用意していた。ツリーはロウソクの火を吹き消し、ケーキをゴミ箱に捨てた。「手作りなのに」とロリが言うと、彼女は「炭水化物禁止のよ」と馬鹿にした態度で部屋を去った。

 ツリーはカッパ会のランチ会議に参加し、食事を持ち込んだベッキー・シェパードに嫌味を浴びせた。彼女は父から何度もメールが受けていたが、それを無視した。ツリーが大学病院へ行くと、ロリが働いていた。
 「まだ続いてるのね。余計なお節介かもしれないけど、こんなことしてたら報いが来るわよ」とロリに忠告された彼女は、「ええ、お節介よ」と見下す態度を取った。彼女は不倫相手であるグレゴリー・バトラーの部屋へ行き、セックスを求めた。しかし彼の妻であるステファニーが来たので、ツリーは部屋を去った。

 夜、トンネルを歩いていたツリーは、『ハッピー・バースデイ』の曲が流れるオルゴールが置いてあるのを見つけた。誰かのイタズラだと感じたツリーは周囲を見回して呼び掛けるが、誰もいなかった。しかし彼女がオルゴールに歩み寄ると、仮面の人物が背後に現れた。
 仮面の人物はツリーに襲い掛かり、包丁で刺し殺した。しかしツリーが目を覚ますと、カーターの部屋にいた。カーターやティムたちと話したツリーは9月18日に戻っていることに気付くが、なかなか受け入れることが出来ずに混乱した。

 女子寮に戻ったツリーは、ロリから手作りケーキを渡された。彼女はロウソクの火を吹き消さず、ケーキを机に置いて部屋を出た。病院へ赴いたツリーは、グレゴリーに「朝からずっと変なの」と相談しようとする。
 グレゴリーは構わずにセックスを始めようとするが、そこへステファニーが来たのでツリーは去った。夜、ツリーはトンネルにオルゴールを発見し、慌てて寮へ戻る。すると生徒たちは、サプライズで誕生日パーティーを用意していた。

 ニックがツリーと楽しそうに話す様子を見て、彼に好意を寄せているダニエルは嫉妬心を抱いた。しかしツリーはダニエルへの気遣いなど全く見せず、ニックに誘われて部屋で2人きりになった。そこへ仮面の犯人が現れてニックを始末し、ツリーは抵抗するが殺された。
 彼女が目を覚ますとカーターの部屋にいて、また18日の朝に戻っていた。カーターに邪険な態度を取って部屋を出たツリーは寮に戻り、ロリに「今日を2回生きてる。これから起きることが分かる。今夜、私は殺される」と話すが全く信じてもらえなかった。

 その夜、ツリーはドアを施錠して窓に板を打ち付け、部屋に閉じ篭もった。テレビを付けると、殺人鬼のジョン・トゥームズが警官を射殺して逃走したニュースが報じられていた。そこへ仮面の犯人が現れ、ツリーを殺害した。また18日の朝に戻ったツリーは、カーターに罵声を浴びせて部屋を飛び出した。
 カーターは彼女が忘れた服や靴を持って、追い掛けて来た。ツリーは食堂に移動し、詳しい事情を説明した。するとカーターは、「今日が繰り返される理由があるはずだ」と語る。誕生日だと知った彼は「それだよ」と言うが、ツリーは「誕生日に特別な意味は無いわ」と述べた。

 カーターは「何かの象徴だよ。犯人は君の誕生日を知ってる」と言い、殺害の動機がある人物について尋ねた。するとツリーの口からは、次々に名前が挙がった。そこでカーターは、タイムリープを繰り返して犯人を見つけ出すよう提案した。
 ツリーはティムの家を覗き込み、彼がゲイだと知った。ティムが容疑者から外れて安堵したツリーが振り返ると、犯人が立っていた。犯人に刺殺された彼女は、カーターの部屋で目を覚ました。

 ツリーはティファニーを張り込み、彼女の容疑が晴れた直後に犯人が現れて殺された。ツリーはカーターの部屋で目覚め、今度はダニエルを調べることにした。ダニエルとキャンパスで喧嘩を始めた彼女は、走って来た車にひかれて死んだ。
 カーターの部屋で目を覚ました彼女は、その夜に誤ってベッキーを撲殺してしまった。犯人に撲殺されたツリーはカーターの部屋で目を冷ますが、ダメージが残っていたので意識を失ってしまった。

 夜になってツリーが目を覚ますと、病院のベッドにいた。カーターが心配して付き添っていたが、グレゴリーが「面会時間は終わりだ」と追い払った。ツリーが寮に帰ろうとすると、グレゴリーは病室に留まるよう促した。グレゴリーが席を外した隙に、ツリーは病室から抜け出した。
 彼女は寮に帰るため、グレゴリーの車を勝手に拝借しようとする。車の鍵を盗むためにグレゴリーの部屋へ忍び込んだツリーは、仮面を発見した。ツリーが廊下に出ると、グレゴリーが現れた。その背後から仮面の犯人が近付き、グレゴリーを殺害した。

 ツリーは犯人から逃走して駐車場に辿り着き、グレゴリーの車で病院から脱出した。パトカーに停止を要求された彼女は、牢屋に入れば犯人から避難できると考え、わざと警官に逮捕される。しかし犯人が車で警官をひき殺し、ツリーはパトカーごと爆死させられた。
 18日の朝に戻ったツリーは、カーターの前で苛立った様子を見せた。カーターが気になって「暇だから話を聞く」と言うと、彼女は冷たく部屋を去った。カーターが追って来ると、ツリーは「前回も相談したけど、何も解決しなかった」と吐き捨てた。

 ツリーが同じ日を繰り返していることを話すと、カーターは全く信じなかった。しかしツリーが今から起きることを次々に言い当てると、彼はダイナーに移動して詳しい説明を求めた。ツリーが父からの電話に出ようとしないので、カーターは「無視するの?」と訊く。
 ツリーは「会っても気まずいだけ。楽しいフリをして」と言い、母が3年前に亡くなっていることを明かす。「ママが今の私を見たらガッカリするわ。これは当然の報い」と彼女が漏らすと、カーターは「変わるのに遅すぎることは無い。君の話が本当なら、新しい今日が来る度に成長すればいい」と語った。

 ダイナーのテレビでは、6人の女性を殺して5ヶ月も逃亡していたトゥームズが銃撃戦で警官を殺して大学病院に収容されたニュースが報じられていた。それを見たツリーは、仮面の犯人がトゥームズだと確信する。彼女は病院へ走り、トゥームズを始末しようとする。だが、トゥームズは見張りの警官を殺して病室を抜け出していた。
 トゥームズは看護師のディーナを射殺し、逃げるツリーを追った。カーターが駆け付けてツリーを助けるが、トゥームズに殺害された。ツリーはトゥームズを殴り倒すが、そのまま止めを刺すとカーターが死んだままになることに気付いた。彼女はカーターを救うため、自ら死を選んで18日の朝に戻った…。

 監督はクリストファー・ランドン、脚本はスコット・ロブデル、製作はジェイソン・ブラム、製作総指揮はアンジェラ・マンクーゾ&ジョン・バルデッチ&クーパー・サミュエルソン&ジャネット・ヴォルトゥーノ&セス・ウィリアム・メイアー、共同製作はライアン・トゥレク&ベアトリス・セケイラ&フィリップ・ダウ、撮影はトビー・オリヴァー、美術はツェツェレ・M・デ・ステファノ、編集はグレゴリー・プロトキン、衣装はメーガン・マクラフリン・ラスター、音楽はベアー・マクレアリー、音楽監修はアンドレア・フォン・フォレスター。

 出演はジェシカ・ローテ、イズラエル・ブルサード、ルビー・モディーン、レイチェル・マシューズ、チャールズ・エイトキン、ローラ・クリフトン、ジェイソン・ベイル、ロブ・メロ、ラムジー・アンダーソン、ブレイディー・ルイス、フィー・ヴ、テネア・イントリアゴ、ブレイン・カーン3世、カレイラ・スミス、ジミー・ゴンザレス、ビリー・スローター、ドナ・デュプランティエ、ジジ・エルネタ、リンゼイ・スミス、デイン・ローズ、カレブ・スピルヤーズ、ミシー・イェーガー、トラン・トラン他。

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 『パラノーマル・アクティビティ/呪いの印』『ゾンビーワールドへようこそ』のクリストファー・ランドンが監督を務めた作品。脚本は『チアガールVSテキサスコップ』の原案を手掛けたスコット・ロブデル。
 ツリーをジェシカ・ローテ、カーターをイズラエル・ブルサード、ロリをルビー・モディーン、ダニエルをレイチェル・マシューズ、グレゴリーをチャールズ・エイトキン、ステファニーをローラ・クリフトン、デヴィッドをジェイソン・ベイル、トゥームズをロブ・メロが演じている。

 あるジャンルでアイデアが枯渇した場合、他の要素と組み合わせて新たな道を模索するってのは、映画界では良くあることだ。「殺人鬼が次々に若者を殺害する」というスラッシャー映画は『13日の金曜日』や『ハロウィン』を始めとして、幾つも作られている。
 また、「何度もタイムリープを繰り返す」というアイデアも、『恋はデジャ・ブ』や『バタフライ・エフェクト』、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』などで使われている。しかし、この2つを組み合わせた作品は、今までありそうで無かった。

 なので、「タイムリープを繰り返すスラッシャー映画」というアイデアを思い付いた時点で、充分にヒットが期待できそうだ。だが、この映画が優れているのは、そこで思考停止に陥らなかったことだ。そこに本作品は、「ヒロインらしからぬヒロイン」という要素を加えている。
 ツリーは性格が悪くて生活がだらしなく、一言で表現するならば「クソビッチ」である。スラッシャー映画では真っ先に殺されるようなタイプの女性が、ヒロインなのだ。
 ただ、たぶんこれは元ネタになった『恋はデジャ・ブ』から思い付いたアイデアだろう。「性格の悪い主人公がタイムリープを繰り返す中で自身の言動を反省し、更生していく」ってのは、全く同じ流れだからね。

 粗筋では触れていないが、「ツリーがカーターの部屋を出て行く時、ルームメイトのライアンと遭遇する」「寮に戻る途中、温暖化阻止の署名を女子生徒から求められる」「夜、一瞬だけ寮が停電になる」などのイベントもある。そしてタイムリープを繰り返す中で、ツリーの対応も状況も少しずつ変化する。
 コメディーのテイストがかなり強いので、純粋にスラッシャー映画としての面白さを求める人には向いていない。表面的にはスラッシャー映画だけど、残酷描写も大したことが無いしね。

 ツリーがカーターの提案で犯人を見つけるためのタイムリープを始めると、そこはテンポ良くサクサクと進められる。このパートは特に、コメディー色が濃くなっている。ティムの部屋を覗いていたツリーが振り向くと、すぐに殺される。どうせリープするからってことで、髪を染める。
 ティファニーを監視していたツリーは犯人に襲われて噴水に落ち、溺死させられる。カーターの部屋で目を覚まし、大量の水を吐く。ダニエルとはキャンパスで喧嘩を始め、走って来た車にひき殺される。もはや犯人の仕業ではないのに死んでいる。どうせリープするからってことで、ツリーは全裸で楽しそうにキャンパスを歩く。

 ツリーはカーターが命懸けで自分を助けてくれた後、初めて自分のためではなく他人のために行動しようと考える。カーターを救うため、初めて犯人に殺されるのではなく、自らの意思でタイムリープする。そして18日に戻ると、今までとはガラリと変わった態度を取るようになる。カーターにもライアンにも笑顔で対応し、温暖化阻止の署名を喜んで引き受ける。
 スプリンクラーで濡れる学生たちに事前に教えてあげて、失神する野球帽の男子のために頭に枕を置いてあげる。ティムには「女は嫌いでしょ。正直になって、いい男を見つけて」と助言し、ダニエルには「まだカーターとはやってないけど、今日を生き抜いたら彼の子を産む」と宣言する。

 部屋に戻ったツリーは、ロリに今までの態度を詫びる。グレゴリーの元へ行って別れを告げ、妻を大事にするよう促す。ランチ会に参加し、ベッキーの味方をする。父親と会って素直な気持ちを吐露し、関係を修復する。
 急激な変化だが、それをマイナスだとは全く思わない。その豹変ぶりが、ものすごく心地良いのだ。その変化には「善人になればタイムリープの問題が解決できるはず」という目論みがあるので、決して純粋とは言えないが、そういう事情があっても心地良さは充分にある。

 深夜の停電は明らかに意味がありそうなのに、ループの中で大きな意味を持つことは無いままで話が進んで行く。どこで使うんだろうと思っていたら、終盤になって「トゥームズに襲われてピンチに陥ったツリーが逆転する」というトコで使われていた。
 なお、その停電は不自然さがあるが、原因は明らかにされないままだ。別に原因解明が不可欠とは言わないが、出来れば答えはあった方が望ましいだろう。そう思った貴方に朗報があって、続編の『ハッピー・デス・デイ 2U』では停電の原因が明らかにされている。

 完全ネタバレを書くが、トゥームズは犯人ではない。いや、病院でツリーを襲ったのは間違いなくトゥームズだが、その時だけ犯人に利用されただけだ。だからトゥームズを退治してもタイムリープは終わらず、ここでツリーは真犯人の正体に気付く。ツリーが真犯人の正体に気付いたり、犯行の詳細を指摘する辺りは、突然の超推理になっている。
 犯人の動機は弱いし、最終対決は凡庸だ。犯人の正体が判明してから振り返った時に、「常にツリーの前に現れるのは無理があるだろ」という印象も否めない。ただ、そういう粗さも最終的には幾つか出て来るが、B級ホラー映画としては相当に出来がいい。

(観賞日:2022年9月24日)

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