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『カリートの道』:1993、アメリカ

 1975年、ニューヨーク。殺人で30年の懲役を受けていた麻薬王のカリート・ブリガンテは、刑期5年目に出所のチャンスを得た。弁護士のクレインフェルドが、ノーウオーク検事の不法盗聴を指摘したのだ。
 カリートは判事の前で、「足を洗う」と宣言した。出所したカリートは、クレインフェルドから「またローランドと組むのか」と問われ、改めて足を洗う意思を口にした。

 かつて組織のお抱え弁護士見習いだったクレインフェルドだが、今では裏社会でナンバーワンに成り上がっていた。クレインフェルドはカリートに、サッソという男が営むディスコに投資していることを語り、買い取れるのでオーナーにならないかと勧めた。
 カリートは彼に、数年前に出所した男がバハマでレンタカー屋を繁盛させており、7万5千ドルで譲ると言われていることを話した。カリートは、その話を受けてレンタカー屋に転職するつもりだった。

 街に戻ったカリートは、昔の仲間パチャンガや従弟のグアヒロと再会し、ローランドの手下のウォルベルトと遭遇した。ウォルベルトの案内で、カリートはローランドの元を訪れた。
 コカインで成り上がったローランドは、自分の名を伏せたまま服役したカリートに「借りは返す」と告げ、また組むことを持ち掛けた。しかしカリートは「必要ない」と答え、足を洗う意思を告げた。

 カリートはグアヒロを車に乗せ、伯母の家へ送っていこうとする。その途中、グアヒロは悪党パブロ・カブレラスの手伝いでコカイン売買に絡んでいることを語った。
 グアヒロが仲間に紹介したいというので、カリートは彼の取引に同行することになった。だが、取引相手の連中はグアヒロを殺害し、発砲してきた。カリートは銃を奪って応戦し、金を奪って立ち去った。

 カリートはクレインフェルドの元へ赴き、サッソの店に2万5千ドルを投資すると告げた。彼はクレインフェルドから用心棒の紹介を頼まれ、パチャンガを付けることにした。
 カリートはサッソの店「パラダイス・クラブ」の実権を手に入れ、レンタカー屋を始めるための金を蓄え始めた。かつての仲間のラリーンは検事となり、偵察にやって来た。

 ブロンクスで成り上がったチンピラのベニー・ブランコは、「サッソに貸しがある」と主張して代金の支払いを拒否したが、カリートは「代替わりした」と言って金を出させた。
 カリートは昔の恋人であるダンサーのゲイルを見つけ、声を掛けた。ブロードウェイを目指していたゲイルは、カリートに「去年はベガスのショーにも出演した。今はクラブで踊っている」と告げた。

 クレインフェルドは服役しているマフィアの頭領のタグリアルッチに呼び出され、脱獄の手伝いをするよう要求された。タグリアルッチは1万ドルをクレインフェルドが横領したと考えており、協力しなければ殺すと脅してきた。
 彼はクレインフェルドに息子のフランキーの電話番号を教え、連絡を取るよう指示した。買収した看守のジャクソンの手引きによって脱出し、イースト・リヴァーを泳いで渡り、クレインフェルドがボートで引き上げるというのが彼の計画だった。

 カリートはゲイルが働いている店を訪れるが、ストリップ・クラブだったために少なからずショックを受けた。カリートがパラダイス・クラブでクレインフェルドや従業員ステフィーと一緒にいるところへ、ベニーが現れた。
 ベニーに罵声を浴びせたカリートは、「また店に来たらオダブツだ」と脅した。「覚えてろ」と捨て台詞を吐くベニーを、カリートは殴り倒して追い払った。

 カリートはクレインフェルドからタグリアルッチの脱獄に手を貸すよう頼まれ、恩義があるため承諾した。ゲイルの部屋を訪れたカリートはストリップで誘惑され、チェーンを壊して中に入り、彼女と寝た。
 カリートはゲイルと踊りに出掛け、ニューヨークを捨ててバハマに永住する夢を語った。金は溜まっており、あと一歩の所まで来ていた。一方、クレインフェルドが精神的に追い込まれ、コカインと酒に溺れるようになっていた。

 脱獄決行の当日、クレインフェルドはコカイン漬けで正気ではなかった。深夜、カリートとクレインフェルドはフランキーと合流し、ボートでイースト・リヴァーに出た。だが、クレインフェルドはタグリアルッチとフランキーを殺害し、川に捨てた。
 クレインフェルドが金を横領したと知ったカリートは、「借りは返した」と言って袂を分かつことにした。店に戻ったカリートは、サッソから「パチャンガがベニーに寝返り、アンタの悪口を言いふらしている」と聞かされた。

 カリートはノーウォークに呼び出され、クレインフェルドが刺されて病院送りになったことを聞かされた。タグリアルッチとフランキーの一件で、マフィアの連中が動き始めたのだ。ノーウォークはカリートに、クレインフェルドの取り調べを録音したテープを聞かせた。
 クレインフェルドは「カリートがローランドと組んでコカインを密売している」と虚偽の証言をしていた。クレインフェルドの起訴に協力するようノーウォークから持ち掛けられたカリートだが、即座に断った。

 カリートはバハマへ行くことを決め、ゲイルにグランド・セントラル駅へ行くよう告げた。カリートは病院へ赴くが、クレインフェルドに怒りをぶつけたものの、殺すことは無かった。
 カリートが去った後、マフィアの男が病室に現れたため、クレインフェルドは銃で反撃しようとする。だが、カリートが密かに弾丸を抜いておいたため、クレインフェルドは撃たれて死んだ。

 カリートが店に戻ると、昔の仲間のピートが来ていた。彼はカリートに、仲間のバッタリアやマンザネーロ、そしてタグリアルッチの次男ヴィニーを紹介した。彼らが自分の命を狙っていると察知したカリートは、隙を見て店から逃亡した。
 ヴィニーたちの追跡を受けながら、カリートは駅へと急いだ。駅で一味を撃ち殺したカリートは、ホームで待つゲイルの元へと向かった…。

 監督はブライアン・デ・パルマ、原作はエドウィン・トレス、脚本はデヴィッド・コープ、製作はマーティン・ブレグマン&ウィリー・ベアー&マイケル・S・ブレグマン、製作総指揮はルイス・A・ストローラー&オートウィン・フレイヤームス、撮影はスティーヴン・H・ブラム、編集はビル・パンコウ&クリスティーナ・ボーデン、美術はリチャード・シルバート、衣装はオード・ブロンソン=ハワード、音楽はパトリック・ドイル、音楽監修はジェリービーン・ベニテス。

 出演はアル・パチーノ、ショーン・ペン、ペネロープ・アン・ミラー、ジョン・レグイザモ、イングリッド・ロジャース、ルイス・ガスマン、ジェームズ・レブホーン、ヴィゴ・モーテンセン、エイドリアン・パスダー、ホルヘ・ポルセル、リチャード・フォロンジー、ジョセフ・シラヴォ、フランク・ミヌッチ、ジョン・アグスティン・オーティス、アンヘル・サラザール、アル・イズラエル、リック・アヴィレス、ハイメ・サンチェス、エドモント・サルヴァト、ポール・マザースキー他。

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 元ニューヨーク州最高裁の判事エドウィン・トレスの小説『カリートの道』と続編『それから』を基にした映画。タイトルは前者と同じだが、描かれるストーリーは大半が『それから』の内容から取られている。
 当初、ブライアン・デ・パルマは「ラテン系ギャングの映画は、かつて『スカーフェイス』を撮ってるから」ということで乗り気ではなかったが、スクリプトに惹かれて監督を引き受けたらしい。

 その『スカーフェイス』で主役を務めたアル・パチーノが、コルシカ系プエルトリコ人のカリートを演じている。
 他に、クレインフェルドをショーン・ペン、ゲイルをペネロープ・アン・ミラー、ベニーをジョン・レグイザモ、ステフィーをイングリッド・ロジャース、パチャンガをルイス・ガスマン、ノーウォークをジェームズ・レブホーン、ラリーンをヴィゴ・モーテンセン、フランキーをエイドリアン・パスダー、サッソをホルヘ・ポルセル、ピートをリチャード・フォロンジー、ヴィニーをジョセフ・シラヴォ、タグリアルッチをフランク・ミヌッチ、グアヒロをジョン・アグスティン・オーティスが演じている。

 原題はフランク・シナトラの『My Way』から付けられているが、その歌が劇中で使われることは無い。その代わりというわけではないが、主題歌になっているのはジョー・コッカーの『You are so beautiful』だ。この歌が雰囲気を見事に作る。
 ただし、映画が曲の価値を高めているわけではないことは記しておく(そういう曲も世の中にはある)。この歌は、それ単体でも充分に名曲だ。

 アル・パチーノは、芝居のクドさが鼻に付くことが少なくない。というか個人的には、パチーノとロバート・デ・ニーロは大半の映画において「何をやっても同じクドさが出すぎて正直しんどい」と感じる。
 しかし、例外もある。それがギャング映画だ。このジャンルにおいては、そのクドさが上手くハマる。
 パチーノやデ・ニーロは、時代劇俳優のような存在なのかもしれない。
 時代劇俳優が現代劇に出ると、時代劇特有の芝居のクセが出て浮いてしまうことがある。それと同じようなものなのかもしれない。

 この映画では、アル・パチーノがカリートを演じることが、ある部分でプラスに作用する。
 カリートは「かつて麻薬王と呼ばれた大物」という設定だが、大物として君臨していた時代が描かれることは無い。しかし、回想シーンでフォローすることを必要とせずとも、彼が大物だったことは「アル・パチーノが演じているから」ということで納得できる。
 配役によって説得力が生じているのだ。

 映画は冒頭、カリートが駅で撃たれ、病院に運ばれるというモノクロのスローモーション映像から始まる。最初に死が暗示、というか確定しているわけだ。
 これにより、出所してからのカリートの物語が始まっても、その先に光が無いことは見えている。待ち受けている結末を冒頭で明らかにすることによって、足を洗おうとしても裏社会に引き擦り込まれる彼のやるせなさが強調される。
 その「やるせなさ」という要素は、やがて映画全体を包み込んで行く。

 カリートはゲイルに、「生き残るためには殺すしかない。否応無く、そういう立場に追い込まれる。だが、俺は抜け出す」と告げる。それは自分の心に誓っている言葉だ。
 だが、彼は抜け出せなかった。
 彼は危険を感じ、「誰の話がウソなのか、誰を信用すべきか、見分けが付かなくなったら命がヤバい」と分かっていた。だが、彼は「誰を信用すべきか」という判断を誤ったのだ。

 非情なギャングの世界に絡め取られつつも、カリートはカタギになりたいと強く願っていた。そのせいで、彼の判断力は甘くなっていたのかもしれない。
 彼は「寝返った」というサッソの言葉を信用せず、駅へ行く予定をパチャンガに教えた。だから裏切られ、ベニーに射殺される。
 見分けが付かなくなったら、命がヤバい。自分が考えていた通りの結果が、カリートには待ち受けていた。
 判断を誤った以上、死ぬのは当然だったのだ。

 前半は麻薬取引現場でのトラブル、後半は病院での襲撃という銃撃の見せ場がある。いずれも、銃撃が起きる前に「何かが起きる」ことは分かる演出になっている。そこで「来るぞ、来るぞ」と観客の気持ちを掻き立てておいて、実際に「何か」が起きる部分は短くシャープに決める。
 クライマックスとなる駅でのシーンは、カリートが駅に到着してからヴィニーがエレベーターを上がるまでの約2分半ほどは長回し。
 その場所でカリートが撃たれると分かっていてもハラハラさせる、ツボを抑えた巧みな演出がある。

 カリートのモノローグを何度も挿入するのは、大きなマイナスだと言わざるを得ない。この映画にナレーションなど不要だ。そもそも、そこで喋っていることの大半は、説明が無くても分かることだったり、ちょっとセリフや映像を加えれば済むことだったりする。
 それと、チンピラのベニーが生き残ることで(そして最後のシーンに存在することで)、悲劇のカタルシスが妨害されるのは残念。
 ただしトータルで見ると、良い仕事をしている。それも、かなり良いと言っていい。

(観賞日:2008年2月27日)

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