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『ランブルフィッシュ』:1983、アメリカ

 不良高校生のラスティー・ジェームズがベニーのビリヤード場で仲間と遊んでいると、黒人のミジェットが現れた。彼はラスティーに、「ビフが捜してる。お前を殺すと言ってる」と告げる。ラスティーが「口先だけさ」と軽く言うと、彼は「今夜10時にペットショップの裏で対決する段取りだ」と話す。
 ラスティーは向こうが1人じゃないと聞き、「俺も仲間を連れて行く」と口にした。仲間のスティーヴは「それをやると、みんなが巻き添えだ」と反対し、スモーキーは「決闘なんて何年もやってない」と難色を示した。

 仲間のBJは行く気満々で、スモーキーを弱虫呼ばわりする。スモーキーが「俺は行くが、モーターサイクルボーイの言葉を思い出せ」と告げると、ラスティーは「消えて2ヶ月だぞ。その話はするな」と声を荒らげた。スティーヴが「戻って来たら?」と訊くと、ラスティーは「兄貴はいつ戻るか分からない。待ちたきゃ待ってろよ」と苛立った。
 外へ出たラスティーは、同級生と歩く恋人のパティーを見つける。ラスティーはパティーを連れ出してキスをすると、「今夜行くから、歓迎しろよ」と告げた。

 その夜、ラスティーは決闘を前にして、パティーの家を訪れた。両親は出掛けており、家にはパティーと妹のドナだけだった。パティーは久しく連絡が無かったことに不満を抱いていたが、ラスティーが「会いたかった」とキスをすると喜んだ。
 ラスティーはパティーと楽しい時間を過ごしている内に、眠り込んでしまった。目を覚ました彼が慌てると、パティーは「また喧嘩なの?なぜお兄さんの真似をするの」と訊く。ラスティーは「兄貴は最高だぜ」と告げ、仲間の元へ赴いた。

 ラスティーは仲間と合流し、ビフの一味と対峙した。ビフはヤクをやっており、ハイになっていた。ラスティーが「殴って来いよ」と挑発すると、ビフはナイフを構えて襲い掛かる。ラスティーは板切れでナイフを叩き落とし、ビフを何度も殴り付けた。
 そこへバイクに乗ったモーターサイクルボーイが現れ、「また輝ける王国の戦いか」と微笑した。ラスティーが驚いていると、ビフはガラスの破片で彼の腹部を切り付けた。モーターサイクルボーイはバイクを突っ込ませ、ビフを弾き飛ばした。

 モーターサイクルボーイがスティーヴと共にラスティーを連れ出そうとすると、警官のパターソンが姿を見せた。彼はモーターサイクルボーイを睨み付け、「帰らん方が皆のためだっただろうに」と不快感を示した。
 モーターサイクルボーイはアパートへラスティーを運び、スティーヴと2人でベッドに寝かせた。彼は酒を見つけると、ラスティーの傷口に浴びせた。スティーヴが「医者に診せよう」と言うと、ラスティーは「こんなの平気さ」と告げた。

 モーターサイクルボーイはラスティーから「どこへ行ってた?」と訊かれ、「カリフォルニアだ」と答えた。カリフォルニアへ行ったことの無いラスティーは、雑誌で得た情報を口にした。
 いつの間にか眠り込んだ彼が夜中に目を覚ますと、兄は部屋に留まっていた。彼は弟に、「家が恋しくてさ」と告げた。翌日、ラスティーはパティーの元へ行き、「今夜、コンサートに行こう。その後で、2人きりになれる場所を探そう。7時か8時に迎えに来る」と告げた。

 ラスティーがアパートへ戻ると、代理教師で住人のカサンドラと遭遇する。挨拶されたラスティーは不快感を示し、「兄貴が戻った途端、これだ。兄貴のことが分かってない。別に惚れちゃいない」と言う。するとカサンドラは寂しそうに、「彼は私のこと、好きじゃないわ」と漏らす。
 ラスティーはカサンドラがヘロインをやっていると気付き、「兄貴はやらない。俺の女がやってたら腕を折る」と告げた。カサンドラは「依存症じゃないわ。気を紛らわせたかったの」と釈明した。

 その夜、ラスティーはスモーキーや大勢の女たちと共に、湖畔へ出掛けた。彼らは他人の別荘に忍び込み、乱痴気騒ぎで盛り上がった。次の朝、酒浸りの父が戻り、モーターサイクルボーイを見て「久しぶりだな」と告げる。モーターサイクルボーイは「昨日からいた」と言うが、昨晩に帰宅していた父は気付かなかったのだ。彼は弁護士だが、生活保護を受けていた。
 翌日、遅刻して高校へ赴いたラスティーはハリガン校長に呼ばれ、「明日からクリーヴランド高だ。それまで停学だ」と通告される。ラスティーは憤慨し、「上等じゃないか。友達がいるから来てただけさ。停学だって。辞めてやる」と吐き捨てて立ち去った。

 ラスティーはパティーを見つけて話し掛けるが、冷たい態度で拒まれる。パティーが昨晩のことを友人から聞いたと明かすと、ラスティーは「パーティーぐらい普通だろ」と悪びれずに言う。パティーが「他の女と寝てるくせに。勝手にすればいい」と突き放すと、「お前こそ、くたばれ」とラスティーは言い放った。彼は書店へ行き、兄と会った。
 兄は自分の写真が掲載された雑誌を読んでおり、ラスティーは「みんなに教えなきゃ」と口にする。兄が「やめとけ。あまり知られたくない。もう笛吹き男扱いは、たくさんだ」と言うと、ラスティーは「意味は分かるぜ。みんな兄貴に付いて来た。今もそうだ」と述べた。するとモーターサイクルボーイは、「人を率いるなら、目指す場所が無くちゃな」と口にした。

 ラスティーとモーターサイクルボーイが書店を出ると、パターソンの姿があった。彼はモーターサイクルボーイに、「なぜ戻った?分別が無いのか」と非難めいた口調で告げる。ラスティーが「なぜ兄貴を嫌うんだ」と訊くと、彼は「お前らガキが買い被るからさ」と答えた。
 その夜、ラスティーは兄とスティーヴの3人で、川の向こうへ遊びに出掛けた。人々が踊っている広場に立ち寄ると、カサンドラがいた。兄がカサンドラと一緒に踊る様子を見て、ラスティーは不機嫌になった。

 場所を移動したモーターサイクルボーイは、ラスティーに「カリフォルニアでお袋と会った」と打ち明けた。「生きてたのか」と驚いたラスティーに、兄は「映画の製作者と一緒に住んでた」と教える。
 ラスティーが「兄貴に会って喜んでたか?」と尋ねると、彼は「ああ。一緒に暮らそうと言われた。カリフォルニアは、面白い所だ。ここより、いい場所かもな」と述べた。プールバーで悪酔いしたラスティーは転寝してしまい、気が付くとモーターサイクルボーイは姿を消していた。

 ラスティーがスティーヴとプールバーを出て兄を探していると、強盗2人組に襲われた。ラスティーたちが暴行を受けているとモーターサイクルボーイが駆け付け、2人組を撃退した。
 翌朝、苛立ったスティーヴはラスティーに「何がギャングだ。戯言だよ。お前の妄想だ」と告げ、モーターサイクルボーイに「アンタが言え」と要求する。モーターサイクルボーイが「意味が無かった」と言うと、ラスティーは「無意味なもんか。兄貴がボスだった」と口にした。

 モーターサイクルボーイはラスティーに、「最初は最初は楽しかったが、すぐ退屈になった。俺が乱闘を鎮められたのは、みんなが退屈を分かっていたからに過ぎない。ほとんどの人間は楽しんでいなかった。怯えが勇気と誤解された」と話す。ラスティーがベニーの店に行くと、パティーが現れた。ラスティーが話し掛けてもパティーは無視し、スモーキーと仲良く喋り始めた。
 ラスティーはスモーキーを外へ連れ出し、激しく責めた。するとスモーキーは冷静な口調で、「ギャング団が出来たら、俺がボスでお前はナンバー2だ。知恵が無ければ誰も付いて行かない。誰も死にたくねえ」と述べた…。

 監督はフランシス・フォード・コッポラ、原作はS・E・ヒントン、脚本はS・E・ヒントン&フランシス・フォード・コッポラ、製作はフレッド・ルース&ダグ・クレイボーン、製作協力はジャン=カルロ・コッポラ&ローマン・コッポラ、製作総指揮はフランシス・コッポラ、撮影はスティーヴン・H・ブラム、美術はディーン・タヴォラリス、編集はバリー・マルキン、衣装はマージ・バウアーズ、音楽はスチュワート・コープランド。

 出演はマット・ディロン、ミッキー・ローク、ヴィンセント・スパーノ、ダイアン・レイン、ダイアナ・スカーウィッド、デニス・ホッパー、ニコラス・ケイジ、ドミノ(ソフィア・コッポラ)、クリストファー・ペン(クリス・ペン)、ローレンス・フィッシュバーン(ラリー・フィッシュバーン)、トム・ウェイツ、ウィリアム・スミス、マイケル・ヒギンズ、グレン・ウィズロー、ハーブ・ライス、メイベル・ウォレス、ノーナ・マニング、ジオ(ジャン=カルロ・コッポラ)、S・E・ヒントン、エメット・ブラウン、トレイシー・ウォルター、ランス・グエシア他。

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 S・E・ヒントンの小説『非行少年 ランブルフィッシュ』を基にした作品。監督は『ゴッドファーザー』『地獄の黙示録』のフランシス・フォード・コッポラ。脚本は原作者と監督が共同で担当している。
 ラスティーをマット・ディロン、モーターサイクルボーイをミッキー・ローク、スティーヴをヴィンセント・スパーノ、パティーをダイアン・レイン、カサンドラをダイアナ・スカーウィッド、父をデニス・ホッパー、スモーキーをニコラス・ケイジ、ドナをソフィア・コッポラ(ドミノ名義)、BJをクリス・ペン(クリストファー・ペン名義)、ミジェットをラリー・フィッシュバーン(ローレンス・フィッシュバーン名義)、ベニーをトム・ウェイツが演じている。原作者のS・E・ヒントンも、ストリップをする売春婦役で出演している。

 この作品はモノクロの映像で作られているが、ランブルフィッシュだけはカラーで表現されている。それはモーターサイクルボーイが色盲という設定であることに絡めた演出だ。ただ、それなら「モーターサイクルボーイの視点による映像」じゃないと筋が通らないはず。
 でも実際は違っており、むしろラスティーがメインに配置されているので、演出にズレを感じる。実験的なことをやりたかったんだろうとは思うけど、ちょっと策士が策に溺れちゃったかなと。

 ラスティーはスティーヴやスモーキーが兄のことを口にすると、激しく苛立った様子を示し、「そのことは言うな」と要求する。しかし彼は、決して兄を嫌ったり疎んじたりしているわけではない。その証拠に、パティーから「なぜお兄さんの真似をするの」と質問されると「兄貴は最高だぜ」と言っている。
 彼にとって兄は、憧れの存在なのだ。だからこそ、真似をして不良になり、喧嘩に明け暮れるのだ。そんな兄が町から消えて戻らないことに、ラスティーは寂しさを感じ、だから苛立っている。まるで兄が自分を見捨てたような、そんな気持ちにさせられるからだ。

 いきがって喧嘩や遊びに明け暮れているラスティーだが、所詮は井の中の蛙に過ぎない。しかし彼は外の世界を知らないから、お山の大将であることに気付いていない。かつてのモーターサイクルボーイも、ラスティーと同じだった。
 だが、彼はカリフォルニアへ行き、外の世界を知った。彼は「自分より強い奴がいる」という形で、井の中の蛙だと気付いたわけではない。不良として大勢の若者を従えている自分が「イケている」と思い込み、酔っていたことが、いかに愚かだったかってことに気付いたのだ。

 だからカリフォルニアから戻って来たモーターサイクルボーイは、以前の彼とはすっかり別人に変貌していた。ラスティーやスティーヴは戸惑うが、モーターサイクルボーイは全く気にしない。なぜなら、「かつての自分は間違っていた」という確信があるからだ。
 二度と昔の自分には戻りたくないと思っているから、モーターサイクルボーイが「不良グループの憧れる男」として行動することは無い。ラスティーが窮地に陥った時は助けるために暴力も振るうが、積極的に暴れることは無い。

 カリフォルニアへ行く前のモーターサイクルボーイがどういう奴だったのかは、まるで描かれていない。台詞で触れられることも少ないため、「以前の彼と帰郷してからの彼の違い」が分かりにくいってのは難点だ。しかし話の構成を考えると、序盤でカリフォルニアへ行く前の様子を描いておくことも、後から回想シーンとして挿入することも、あまり上手いやり方とは言えない。
 だから描かないのが望ましいとも言えるわけで、難しいトコロではある。ただ、そこに限らず、全体的に雰囲気を重視している傾向が強く感じられるので、「かつてのモーターサイクルボーイ」に関しても詳しく描く必要はないのかなと。「何となく雰囲気で察する」ってことでいいのかなと。

 ともかくラスティーとしては、モーターサイクルボーイが戻って来た時、「以前と同じ兄貴」であることを当然ながら期待していたはずだ。そんな兄にラスティーは憧れ、真似をしてきたわけだから。
 ところが実際のモーターサイクルボーイは、すっかり気の抜けたような状態に変貌していた。本人としては、どこか達観したような、悟ったようなところがあるのだが、ラスティーからするとギラギラした輝きを失ってしまったようにしか思えない。

 ラスティーにとってのモーターサイクルボーイは、時に嫉妬心さえ抱くようなヒーローであり、いずれは自分もそうなりたいと思う目標でもあった。それなのに兄がすっかり変わってしまったことに対して、ラスティーは怒りや失望ではなく、寂しさを感じる。そんな弟を失望させてしまったことを、モーターサイクルボーイは分かっている。そして、そのことに対して申し訳ないという気持ちも持っている。
 だから終盤、彼は「お前が望む兄になりたかったが、なりたい自分になりないんだ」と吐露している。彼は弟への最後のメッセージとして、バイクで海へ向かうよう指示する。そこには「外の世界を見て自由になれ」という意味が込められていたのかもしれない。

 終盤、モーターサイクルボーイはペットショップから闘魚の一種であるランブルフィッシュを盗み出し、川へ逃がしてやろうと考える。彼は魚を盗むと決めた時点で、既に「死」を見据えていたのだろう。彼はピーターに撃たれて命を落とすが、それは実質的に自殺だ。
 正直なところ、なぜモーターサイクルボーイが死への道を辿ろうとしたのか、具体的にどういう心境の変化があったのか、それは良く分からない。だけど、そこも雰囲気で何となく察してほしいってことなんだろうな。
 なので雰囲気だけで推測するに、「かつてはギャング団の結成に向けて燃えていたが、外の世界を見て戻って来た時、すっかり気持ちが冷めてしまった。そして気持ちが冷めた時、自分が空っぽだと分かった。そこで閉塞感に絶望し、短絡的に死へ向かったのかなと。

(観賞日:2017年4月21日)

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