【365日のわたしたち。】 2022年3月13日(日)
日曜日の朝はホットケーキを焼く。
なんてことはない、市販のホットケーキミックスを使った簡単なホットケーキだ。
仕事に、プライベートに、何もかもに疲れ果てていた時、スーパーで見かけた「ふんわり、ふっくら、優しい甘さ」の文字に吸い寄せられ、しばらく眺めたあと、私はその紙箱をコトンっとカゴの中に入れた。
その翌日の日曜日の朝、私は子供のように朝早く起きて台所に向かった。
昨日買ったホットケーキミックスを取り出す。
なんだかこの箱のなかには、幸せが詰まっているような気がして、箱を眺めながら、口角が少しずつ上がる。
必要なのは、卵と牛乳の二つ。
冷蔵庫から取り出したら、その二つをボウルで混ぜ合わせる。
あとはこのホットケーキミックスを入れて混ぜるだけ。
ペリペリペリ...と開けた箱の中には、なんてことはないビニールに入った白い粉が入っているだけだった。
でもそれがよかった。
この粉を幸せの種にするか、ただの白い粉にするか、それは自分にかかっている。
幸せは自分で作るものだ、なんて、
なんだか励まされているような気分にもなる。
もったりとした生地はいよいよ、熱く熱せられたフライパンの上に広がる。
その様子をずーっと眺めていた。
ポツポツと次第に空いてくる表面の穴が、少し気持ち悪くて、でもなんだか幸せへのカウントダウンのような気もして、待ち切れない。
バフッ。
ひっくり返されたホットケーキの裏側は、まだらな柄をしていた。
そう簡単には完璧な仕上がりにはならないか...。
裏面も焼き上がったのを確認した私は、
落とさないように慎重に、ずりずりとフライパンから皿に移す。
ここで、バターとメープルシロップを買い忘れたことに気が付く。
結局、今回は素のホットケーキをいただくことにする。
ナイフとフォークで小さく切ったホットケーキの欠片からは、ほわほわと湯気が立ち上っている。
ほわふ。
と口に含んだ瞬間、湯気は口の中に充満し、耐え切れず鼻に流れてきた熱気がバニラの香りを運んできた。
舌でその欠片を叩いてみると、弾力のあるバウンドをして、また元の形に戻るのだった。
ふわふわで、ふっくら。甘い。
本当だ。
言葉通りの味わいを、噛み締める。
なんだかようやく幸せのカケラを掴んだ気がした。
来週はバターとメープルシロップを用意しよう。
焼き目ももう少し工夫したら、パッケージのようになるかもしれない。
幸せは、自分で作る。
そう唱えながら、ホットケーキを噛み締めた。