【365日のわたしたち。】 2022年2月22日(火)
「ねぇ。生まれ変わっても私と結婚したい?」
彼の骨張った手をさすりながら、私は問いかけた。
若干乾燥気味の彼の手は、サラサラしていてとっても触り心地が良いのだけれど、きっとそのうち「ささくれ」放題になるだろう。
私は自分のカバンからハンドクリームを取り出して、彼の手の甲に絞り出す。
その手の輪郭を撫でるように、
なぞるように、
何度も何度も彼の手の上を往復する。
「やだよ。俺は絶対やだ。」
彼は窓の外を眺めながら、微かな息とともにそう答えた。
「俺は、お前にこんなことをさせるために結婚したんじゃない。
お前を幸せにするために、結婚したんだ。
毎日毎日、仕事終わりにここに駆けつけて、
家に帰ったら家事をこなして、
子供たちの面倒を見て。
…お前も痩せたよ。
人のこと言えないけど、お前、本当に痩せちゃったよ。
そんな風にするために、お前と結婚したんじゃないのに。」
さすっていた手が小刻みに震え始めた。
彼の手から目線を上げた。
彼の表情は、陽の光に反射していてよく見えない。
しかし、彼の頬の上を水滴が一本の線のように連なって流れ落ちていき、顎の先でふるふると、必死になってぶら下がっているのはわかった。
それでも耐えきれず落ちた水滴は、白い布団カバーの上に染み滲んでいった。
私は生まれ変わってもあなたと結婚したいよ。
今更そう言ったとして、それが彼にとってなんの意味を持つのだろう。
生まれ変わった未来を想像した時点で、
その空想を彼に問いかけた時点で、
私は彼の心を、ズタズタのボロボロに傷つけたのかもしれない。
ほんの冗談まじりで、無神経に質問を投げかけたことをひどく後悔した。
疾うの昔に彼の皮膚の奥へと消えていったハンドクリームをまだ塗り込んでいるかのように、私は彼の手を必死でさする。
どうか、
どうか、と。
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