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【365日のわたしたち。】 2022年3月24日(木)
それは数日前から感じていた。
ここ2週間ほど、夜の帰り道で必ず一緒になる人がいる。
というか必ず数十メートル後ろを歩いている人がいる。
最初は全く気づいていなかったのだが、携帯の充電が切れていたある日、自分の後ろを歩く人の足音が気になったのだ。
おそらく帰る方角が同じなのだろうと自分を納得させる一方で、申し訳ないがなんとなく不気味に感じて早足で家に帰った。
その次の日から自分の背後が気になるようになったのだが、なんと、その人は毎日、私の後ろを十数メートル離れて歩いているということがわかった。
同じ電車に乗っていて同じ駅で降りているのだとしたら、私の方が後をついていく形になってもおかしくないはずなのに、なぜかいつも「私が前でその人が後ろ」の配置になるのだ。
おかしい、とは思っても、ただ早歩きで帰るしかなかった。
そのうち、残業を利用して電車の時間をずらしてみたりもしたが、彼はいつも私の後ろをついてきていた。
怖かった。
いつかいきなり背後から刺されて、もしくは部屋に押し入られて殺されるんじゃないか、と生きた心地がしなかった。
そして今日、ついに限界がきた。
怖い!
怖い!
怖い!
怖い怖い怖い怖い怖い!
全速力で家まで帰り、後ろを何度も振り返りながらオートロックを開け、自分の部屋の前まで階段を駆け上がり、走った。
すると私より先に帰ってきていたと思われるお隣さんが、ちょうど鍵を開けて部屋に入ろうとしているところだった。
「こんばんは〜」
そう言って部屋の中に消えていこうとするお隣さんに、私は叫んだ。
「あのっ、助けてください...!」
私の叫び声にびっくりしたお隣さんは、そのまま数秒固まって、
「...どうかしました?」と返してくれた。
「はぁ...あの、数週間前から、男の、人が、はぁはぁ...後ろをついてきていて、怖くて。あの、だから。」
話している途中で、お隣さんに言ってもどうしようもないことに気がついた。
お隣さんは、私を見つめながらしばらく考えているようだった。
そして、廊下の塀から少し身を乗り出してマンションの周囲をぐるっと見渡したあと、私の方へ数歩近づいていた。
「それは怖いね。今見る感じ、変な人は見当たらなかったけど、数週間続いてるなら勘違いじゃない可能性の方が大きいね。」
髪の毛もボサボサに乱れ、額にはじんわり汗をかいていて、はぁはぁと息遣いの荒い私の方が、お隣さんにとって恐怖の対象だったと思う。
「まずはファミレス行って状況を整理しようか。それから警察行くかどうかも含めて一緒に考えよう。私の家に入れてあげたらいいのかもだけど、私もあなたのことを深く知っているわけじゃないから、ちょっとそこまでは今思い切れなくて。こんな時にこんなこと言ってごめんね。」
身体の力がどっと抜けて、私はその場にへたりこんでしまった。
そして、大泣きした。
まだ何も解決はしていないけれど、なんだかとてもホッとしてしまった。
そんな私の背中を、お隣さんは優しくさすってくれていた。
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