短編251.『作家生活25』〜文豪こそ反社だろ篇〜
今が何本目なのかよく分からなくなってきた。
今年の一月から始めた【短編小説チャレンジ】の本数のことだ。
そりゃ一日二回〜三回、短編小説の初めにナンバリングを付け続けているので数は分かっている。勿論。
ただ、その数字が単なる記号としてしか(自分にとっては)機能しなくなってきている、というか。
以前なら「もうすぐ百本いくぞ!」とか「二百本超えたぜ」などと思っていたのだが今は「それがどうだっていうんだろう」という気持ちの方が強い。
マイルズ・デイビス風に言えば「So What!?」というやつだ。
それどころか、「なんでこんなことをやっているのか」すらよく分からなくなってきた。
空気を吸って吐くことが生物にとっての当たり前のように。
「なんで呼吸しなきゃならないんだろう」なんて考えながら生きることが(病人以外では)あり得ないように。
あらゆるものが削ぎ落とされている、ということなのだろうか。
欲に代表される、煩悩が。
その証拠に評価や閲覧数すら最早、どうでも良くなり始めている。
それが良いことなのか果てしなき退行なのかは知らないが。
*
提出した今月分の原稿を口からスキャニングした担当AI君は言った。
「コレはライターズ・ハイと呼ばれる状態デスね」と。「ソレはひとえにランナーズ・ハイみたいなものデス」
「確かにどこまでも書いていられるような気はするね。でも気持ち良くて、疲れすら感じないのはコレのおかげかもしれない」
私はポケットからブラントを取り出し火を点けた。甘い香りが辺りを漂う。
「違法薬物デス。違法薬物デス。違法薬物デス」
AI君からサイレンが鳴り始めた。間を置いて耳をつんざく高音。それはビート。
「違うよ。これは脱法やめろ説教おれの原稿こまる減俸もうごめんだアルバイト」Yo!「編集長によく言っときな!お前の蛮行に激昂、辞さないぜ乱闘!練る戦法は天和(テンホー)で最高!聞かせろよ悲鳴代わりのハイトーン。届く朗報、湧く雀荘。街角に立つHOE!Say Ho〜!レペゼン野方(ヤホー)、リスペクトD.Oだってハナシだメ〜ン」
挨拶代わりに『OU』で韻を踏みまくった。脳のあらゆる筋肉が緩み、その溝から言葉が溢れ出してくる。まさにブラントの効果
「ソンナこと言ってたら反社認定されてシマイますヨ。ソレは損だ」
「お、『SON』で踏んでるね。そしたら”Son of a Bitch”も付けたら良い」
AI君の金属製の頬が赤く熱を帯び始めた。すごい技術の進歩だ。
「反社は会社のコンプライアンス的にNGでアリマス」
「でも、作家なんて反社みたいなもんだろう。歴代の文豪、文壇の人間達の痴態は、才能があればこそ赦されているだけで」
アル中、ヤク中、遊郭中毒。不倫、借金、盗み、ストーキング。「刺す」という脅迫、未成年への淫行、ギャンブル狂い、自殺幇助、変態。生原稿の売り払い、DVに暴力に度重なる失踪。
…人間のクズしかいない。
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