短編141.『440番目の公道』
自転車にしろモーターサイクルにしろ、二輪に乗るなら荒狂ってなければならない。
それが持論だ。
サイドスタンドが無ければ自立すら出来ない不安定な乗り物に跨り、我が身を破壊せんとするありとあらゆる危険に身を晒し、尚且つ、そこへ猛スピードで突っ込んでいかなければならない。
そんなこと、狂ってなくちゃ出来ない。
冷静に考えたら恐ろしいことだ。何も守ってくれるものはない。プロテクターを付けたところで路上に叩きつけられたら終わりだ。アスファルトは硬い。それだけが真実。
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その日も雨の中の配達だった。雲は空を覆い隠し、見上げれど梅雨空。雨の日の運転は慎重になるに越したことはない。ただ、慎重になればなるだけ時間はかかり、稼ぎは減る。その場にいることさえ出来れば金が貰える時間給に馴染んだ身には、毎時変動する賃金に左右される生き方はどこか忙しなく、刹那的だった。
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事故は突発的に起きた。全ての事故がそうであるように。
片側二車線の公道。
交差点を左折する為に車の間をすり抜けて走っていた時だった。路肩に連なって停まる軽自動車。その一台が後ろを確認せずにドアを開けた。そこはコンビニ前だった。おにぎり、でも買うつもりだったのだろう。十二時だった。
私は右に体重をかけ、間一髪でドアとの衝突を避けた。本来、交わるはずのないものが一つになる瞬間というのは気持ちが良い。タイヤは足に、手はハンドルに変わる。人馬一体。噴き出したアドレナリンは私を良い気持ちにさせた。さながら映画の中のワンシーンのようだった。それは私を興奮させ、ペダルを漕ぐ脚に力を入れさせた。
右目の端に黒い影が映った。
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四四〇番目の公道のガードレール傍に花が手向けられていたのなら、それは私がかつて生きた証だ。
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