統計データから現状を読み解き、働き方の未来予想図を考える
東京都の2020年5月1日時点における推計人口が、初めて1400万人を超えたことが明らかとなった。また、厚生労働省が発表した2019年の人口動態統計によると、出生数は過去最少の86万5234人となっている。
東京都やその周辺地域および都市圏へ、人口や企業等の集中はさらに進むのか。また少子化の流れは止まらないのか。日本が抱える課題は少なくないが、このような変化に応じて、私たちの生活も変容していくだろう。
日経COMEMOでは、#これからの働き方の新モデルとは というテーマの意見募集をしていた。
本文では、産業構造や就業者数の変化などからこれからの働き方の新モデルを検討し、働き方の未来予想図について考えることとしたい。
1 産業構造を確認する
これからの働き方の新モデルの検討を行う上で、まず統計データから産業構造等を確認することとする。
1.1 産業別の企業数について
はじめに、総務省および経済産業省による調査「経済センサス」をもとに、産業大分類別の企業数を確認する。2009年および2016年の「経済センサス」の調査結果より、産業大分類別企業数を可視化したものが下図である。
まず、2009年には「卸売業・小売業」が1,059,676企業(全産業の23.6%)と最も多く、次いで「宿泊業・飲食サービス業」の606,517企業(同13.5%)となっている。さらに、「建設業」の520,473企業(同11.6%)、「製造業」の450,966企業(同10.1%)の順となっている。また上位4つの産業の企業数の合計が、全産業の58.9%を占めていた。
2016年も同様に、「卸売業・小売業」が最も多く842,182企業(同21.8%)となっているが、2009年と比較すると企業数の減少および全産業に占める割合は低下している。また、「宿泊業・飲食サービス業」は511,846企業(同13.3%)、「建設業」は431,736企業(同11.2%)、「製造業」は384,781企業(同10.0%)となっており、「卸売業・小売業」と同様に企業数の減少および全産業に占める割合は低下の傾向にある。なお、2016年にこの上位4つの産業の企業数の合計が全産業に占める割合は、2009年と比較すると低下しており、56.3%となっている。2009年と比較すると、2016年に企業数が増加している産業は限られているが、「医療・福祉」の企業数は10%弱の増加がみられる。
企業数の増減から産業構造の変化を予想すると、(ここでは確認していないが)市場の集中度を表すハーフィンダール=ハーシュマン指数(HHI)の上昇により、多くの産業で寡占化が進み、独占度高まっていることも考えられるかもしれない。また、市場における規制緩和によって参入障壁が下がり、ある産業においては企業の新規参入が増加していることも考えられるだろう。2009年と2016年を比較して、ある産業の企業数が全産業に占める割合の大幅な変化はみられないかもしれないが、今後、緩やかに産業構造の変化が進むことは確実だろう。
1.2 産業別就業者数について
続いて、総務省の「労働力調査」より、産業別の就業者数を確認することとする。まず、2005年および2019年の産業別就業者数を可視化したものが下図である(2005年における「学術研究_専門_技術サービス業」および「生活関連サービス業_娯楽業」はNAとなっている)。
男性の場合、2005年に最も多かったのが「製造業」の762万人(全産業の20.5%)である、次いで、「卸売業・小売業」の572万人(同15.4%)、「サービス業(他に分類されないもの)」の529万人(同14.3%)、「建設業」の494万人(13.3%)、「運輸業・郵便業」の260万人(同7.0%)の順となっている。また、上位5つの産業における就業者数が、全産業の就業者数の70.5%を占めている。2019年も同様に「製造業」の就業者数が最も多く、その数は763万人(同20.5%)となっている。次いで、「卸売業・小売業」の512万人(同13.7%)、「建設業」の413万人(同11.1%)、「運輸業・郵便業」の277万人(同7.4%)の順となっている。また、「医療・福祉」は2005年の129万人から2019年は213万人になり、65.1%の大幅な増加となっている。
男性に対して、女性の場合、2005年には「卸売業・小売業」の581万人(同22.1%)が最も多くなっている。次いで、「医療・福祉」の427万人(同16.2%)、「サービス業(他に分類されないもの)」の411万人(同15.6%)、「製造業」の360万人(同13.7%)、「宿泊業・飲食サービス業」の205万人(同7.8%)の順となっている。また、上位5つの産業における就業者数が、全産業の就業者数の75.4%を占めている。2019年は「卸売業・小売業」に代わって「医療・福祉」の就業者数が最も多くなり、その数は642万人(同21.5%)となっている。男性と同様に、女性も「医療・福祉」の就業者数が大幅に増加していることが分かる。次いで、「卸売業・小売業」の557万人(同18.6%)、「製造業」の324万人(同10.8%)、「宿泊業・飲食サービス業」の267万人(同8.9%)、「教育・学習支援業」の196万人(同6.6%)の順となっている。
産業別の就業者数を確認した上で、就業者数が増加している産業や就業者数が多い産業は、現時点では対面や対人による業務が多く、テクノロジーの実装が進んでいない産業が多いと予想される。これらの産業においても、今後、デジタル化された働き方により就業者の働き方が効率的に変化していくことも考えられる。その際、就業者数の減少も予想されるが、産業構造の変化によって就業者の働き方が望ましい方向に進んでいくことが期待される。
2 都道府県人口およびテレワーク実施率について
2020年に発生したCOVID-19による影響を受け、テレワークによる働き方が注目され、多くの企業や就業者がテレワークを実施することになった。ここでは、都道府県人口とテレワーク実施率の関係を可視化してみる。
テレワーク実施率が最も高いのは「東京都」となっており、約半数の企業において実施された。次いで、「神奈川県」、「千葉県」、「埼玉県」の順となっており、地域ブロックでみると「関東」における都市圏の割合が高くなっている。また「近畿」もテレワーク実施率が高くなっている。一方、福岡県等の例外はあるが、「北海道・東北」、「中国」、「四国」、「九州・沖縄」ブロックのテレワーク実施率は低くなっている。
産業構造等からテクノロジーの実装が進んでいない産業やテレワークになじまない産業があることは当然に考えられる。
したがって、#これからの働き方の新モデル を考える上では、地域や産業構造、就業者数等から、異なるモデルを検討する必要がある。全国総合開発のような画一的なモデルではなく、シン・日本列島改造論も求められる。戦後、終身雇用や年功制が一般的になったが、就業者も新しいレールを自ら考えていく必要がある。さらに、人材を育成する県、スタートアップが盛んな県、育児がしやすい県など、自治体もリーダーシップによる自治への変化を迫られる。地域毎に異なる文化的特性などによって、就業者は異なる働き方を選択していくことになるだろう。テクノロジーの活用は、変化への障壁を低下させる。
3 働き方について考える
工業化社会では、たとえば、フレデリック・テイラーが20世紀初頭に導入した「科学的管理法」により、画一的・集団的な管理がなされた。そして、「科学的管理法」によって、大量生産・大量消費型の社会が生まれた。消費の拡大や投資への刺激は総需要を拡大させ、経済は成長した。しかし、情報化の進展は、管理のあり方も変容させる。また、ロナルド・イングルハートが述べる「脱物質主義的価値観」も普及した。さらに、自律性が高いホワイトカラー労働者や専門性が高い技術労働者も増加した。
これからの働き方のモデルは、従来の労働時間というインプットによって評価されるのではなく、産出物であるアウトプットの価値が高まることも予想される。現在、フリーランス型の働き方やプロジェクト型の働き方を選ぶ者も増えているが、これらの働き方は労働時間のみによって評価されるのではない。しかし企業では、労働時間の長さと昇進する確率には正の相関があるとする研究もある(たとえば、Kato, Kawaguchi and Owan(2013))。これからの働き方を考える上では、企業に新しい評価制度を導入していくことも重要である。
さらに、これからの働き方では、「場所」、「時間」、「公と私」などの境界が溶けていくことも予想される。たとえば、SNSはインフルエンサーを、コンピュータゲームはeスポーツという産業を誕生させ、多くのプロゲーマーが生まれた。失業して家賃の支払いに困っていたデザイン学校卒業生から生まれた米国のスタートアップ企業もある。これからの働き方のモデルのいくつかは、辺境から生まれるだろう。
また、働き方のモデルが変化することで、対立や分断が生じることも考えられる。従来の働き方のモデルを維持し続ける就業者と、新しい働き方を導入していく就業者間での、企業内や企業を超えた民主主義の危機も予想される。したがって、変化の波に乗れない就業者に対するセーフティーネットの整備は重要である。就業者間の格差が拡大することで、生産性を停滞させることのない働き方を構築していく必要もあるだろう。
4 働き方の未来予想図
昨今、AI(人工知能)により、人の仕事が無くなるのではないかとの懸念もある。2013年に発表された英国オックスフォード大学のマイケル・オズボーン氏による論文『雇用の未来』では、10年後には今ある職種の約半分が無くなると予言された。今ある職種が無くなることも考えられるが、反対に、今ない職種が生まれることも考えられる。
たとえば、『週刊少年ジャンプ』で1976年から連載された『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の主人公である両津勘吉氏は、1982年に「わしはTVゲームのプロになるんだ!」という夢を語っている。任天堂のファミリーコンピュータが発売されたのが1983年である。当時、TVゲームのプロになると言っていた人は、ほとんど存在しないだろう。しかし現在では、最も稼ぐプロゲーマーの推定年収は4億円を超えている。
未来を予想することは出来る。しかし、現実は予想通りにはならないことも少なくない。だから、これからを生きることは楽しいのかもしれない。
働き方の未来予想図は、楽しむこと、新しいことを学び続けることがこれからの働き方の新モデルであると考える。遊ぶように働くことが、社会を発展させる原動力となる。
5 おわりに
戦後、日本は高度成長を遂げ、世界第2位の経済大国となった。当時の人は、右肩上がりの経済の先にはより良い社会になるという希望があったはずだ。しかし、バブル経済崩壊以降の日本経済は停滞を続け、現在の人には今後、より良い社会になるという希望は見えない。さらに、日本国内は多くの課題を抱える。これからますます負担が増えることも確実である。これからの働き方の新モデルは、日本に新たな火を灯すことを期待したい。
変化を楽しみ、希望を持ち続けられる国であるように。
【参考文献】
総務省「労働力調査」
総務省・経済産業省「経済センサス」
パーソル総合研究所「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」
リー・ギャラガー(2017)『Airbnb Story』関美和訳、日経BP