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スウェーデン留学記#58 冷やし中華風素麺を食した晩餐会

ルンド大学に留学している間、ハウスメイトであるアメリとヴィエラはドイツ料理の作り方を私に教えてくれた。
今度は日本の料理の作り方を教えてほしいと二人に頼まれた私は何を作るか思案していた。なにせ材料を揃えづらい。「麺とご飯、どちらがいい?」と二人に聞くと、「麺がいい!」という条件付きだ。
季節は夏なので、冷たい麺がいい。冷たいうどん、そば、素麺、冷やし中華など様々な選択肢がある。が、問題はルンドで入手できるお肉の種類である。スウェーデンでは日本みたいに薄切りの肉が売っていないので、自ずと選択肢が少なくなる。パッと思いついたのが、冷やし中華だ。ハムやベーコンはあらかじめスライスした状態でスウェーデンでも入手できるので、薄焼き卵やトマト、キュウリとハムなどを細切りにすればいいだけの冷やし中華は手間がかからなくていい。色とりどりで食欲も湧くし、見た目もきれいでアメリ達が喜びそうだ。
そんなわけで冷やし中華を作ろう!と決めたのはいいが、肝心の冷やし中華用の麺をルンドで入手できなかった。売られているのは、うどんかそばか素麺だ。メニューを変更するという手段もあるが、私の頭の中はもう冷やし中華食べたい!という思いでいっぱいだ。色々考えた挙句出てきた答えが「麺、素麺で代用できないか?」だった。
冷やし中華風素麺なんて、本当の和食ではないし、そんなでたらめの私の創作料理を食べたくないかもしれないと思って、アメリとヴィエラには一応伺いをたてた。「日本の冷やし中華と言う料理をちょっとアレンジして、別の創作料理を作ろうとしているのだけどいい?」と。
アメリ達は私の料理の腕を信用してくれた。「任せる!」と。

さて、そうと決まったら作るしかない!
晩餐会の日、素麺や具材の買い出しをして、アメリ達と一緒に薄焼き卵を焼き、野菜とハムを切るという簡単な作業を済ませた。冷やし中華のつゆは売っていないので、醤油、酢、砂糖などを混ぜて、それらしきものを作ることにした。クックパッドで発見したレシピを参考に、ちょっとずつ味見をしながらこれらの調味料を混ぜていくと、どうやら冷やし中華のつゆができたようだ。
もし、冷やし中華風素麺が美味しくなかったときのための保険として、一応普通のめんつゆも調整して用意し、天ぷらも揚げることにした。具材はなすとかぼちゃだ。ちくわなんかが売っていたら、磯部揚げも作りたいところだが(私の大好物なのだ)、入手できないのでそこは我慢する。
最後に素麺を茹でて完成だ。
シェアハウスのバルコニーのテーブルにアメリとヴィエラがテーブルクロスを敷いて、皿やグラスをセッティングしてくれた。一通り並べると、色鮮やかで豪華で、エキゾチックな和食に見える。ワインやアメリお手製のレモネードも添えられ、なんともお洒落な空間になった。
アメリ達も歓声を上げて、楽しみにしている。私は内心ハラハラだ。
私が夕飯を準備する前に、アメリ達はデザートを作ってくれていた。ブラウニーのバニラアイスとベリー添えである。彼女たちはチョコレートの扱いがとても上手なのだ。アメリのチョコレートケーキやヴィエラのブラウニーはこれまでも何回かもらったことがあるのだが、毎度絶品である。

晩餐会
デザートのブラウニー
アイスとベリーを添えて

結果として、冷やし中華風素麵はとっても美味しかった!もちろん、麺とタレの絡み具合は真の冷やし中華麺と比べると、劣っているように思えた。それでも、長い外国生活をしていて冷やし中華を食べたいのに食べれない状況が続いていた中、創意工夫して作った冷やし中華風素麺は私の冷やし中華欲を満たすには十分"冷やし中華らしさ"を有していた。
一方、アメリとヴィエラは本物の冷やし中華を知らずに、冷やし中華風素麺を美味しい美味しい!と言って食べてくれていた。何なら天ぷらと麺つゆで食べるよりも箸が進むようだった (せっかくなので箸で食べてもらった)。夏だから、やはり酸っぱいのがいいらしい。トマトやキュウリや卵で色鮮やかな見た目も気に入ったらしい。「いつか本物の冷やし中華食べてね。」と小声で謝っておく。が、全く意に介していない様子なのが救いだ。
そして、もちろんブラウニーのアイスとベリー添えは絶品だった!外がカリっとしていて、中がしっとり濃厚なチョコの味わいと冷たいバニラアイスがよく合う。ワインもぐいぐい進んだ。

バルコニーで美味しい料理を食べ、ほろ酔いの私たちは最高に幸せだった。しかもなんせ北欧スウェーデンで最高の季節、夏である。夕方とはいえ、日は長くまだまだ明るく、管理人のアントニーが手入れしてくれている庭には種々の花々が乱れ咲き、美しい限りだ。私たちは上機嫌で庭を散歩した。アメリはお気に入りの花を見つけ、一本庭から拝借した。そして、私が捨てようと思いながらラベルが可愛くてなんとなくとっておいたビールの空き瓶を目ざとく見つけると、もらっていいか?と尋ねた。どっちみち帰国の際には捨てなければと思っていたので、快く渡した。するとアメリはビール瓶を洗い、水をためると収穫したばかりの花を挿した。「今日の記念よ。」と満足そうに微笑むと、自分の部屋に飾っていた。おかげで何とも詩的な光景とともに、印象に残った晩餐会となった。


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