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スウェーデン留学記#46 セムラの日

最近日本で流行りのマリトッツォはイタリア由来のパンに大量の生クリームを挟んだお菓子だが、スウェーデンにも似たような見た目のお菓子があり名を「セムラ」という。
セムラはカルダモン風味のパンにマジパンとホイップクリームを詰め込んだお菓子で、その甘さがコーヒーと抜群の相性だ。
スウェーデンでは昔イースターの前に断食をする習慣があり、その断食に入る前に栄養価の高いセムラを食べていたようだ。今ではもう断食の習慣はないが、イースター前にセムラを食べる習慣は根付いていて、全国民に愛されるお菓子となっている。しかも、「セムラの日」なるものがあり、その日はスウェーデン人が一日に何個ものセムラを食べるほどの愛されっぷりだ。

スウェーデンに留学しているのであれば、せっかくならセムラを食さねばと思っていたのだが、私はマジパンもホイップクリームもあまり好きではない。マジパンは小さい頃、クリスマスケーキのトッピングとして食べたことがあった。あの粘土のような生地をこねくり回して、動物やらサンタやらを作ってケーキの上に載せたはいいものの、いざ食べてみると風変わりなアーモンドの味がして「まずい!」と思って以来、一度も食べていなかった。ホイップクリームは甘さ控えめなものを自分で泡立てれば食べれるが、お店で売っているような甘ーいクリームは苦手だ。ましてや、日本に比べて甘いものが多いスウェーデンのお菓子となればさぞ甘かろう、とセムラを食べるのは断念しようとしていた。
ところが、現地在住の日本人いわくセムラはお店によってパンやクリームの味、形にいたるまで全く多種多様で甘さ控えめで美味しいものもたくさんあるらしい。スウェーデンでセムラの日にセムラを食べるチャンスなんてもう一生ないかもしれない、と思い私はセムラに挑戦することにした。
さて、肝心なのはどこのお店のセムラを食べるかだ。確かにルンドのパティスリー、パン屋さん、コンビニ、カフェでは多種多様なセムラが売られていた。せっかくならなるべく美味しいセムラを食べたかった。となれば、やはりセムラはパンなのだからパン屋のが一番美味しいだろう。と当たりをつけて、セムラの日、私はBroder Jakobs Stenugnsbageriというパン屋さんに入った。ここのパンが美味しいことはこれまでの経験で知っていた。シナモンロール、カルダモンロールなどの焼き立てパンは格別の美味しさだった。
「セムラをください」と言って、セムラを一つ入手した私はドキドキしながら家に持ち帰った。コーヒーを沸かしてカップに注ぎ、いざ試食だ。

恐る恐る一口、上の蓋の部分と生クリームを一緒に食べる。「ん???」コーヒーを飲んで、もう一口食べてみる。「あれ???」今度は本体のマジパンが入っている部分にかじりついてみる。「!!!」意外だった。美味しいのだ。想像していた味と違う。正直あまり甘くない。ほんのり甘い滑らかな生クリームとカルダモン風味のスパイシーなふわふわパンが口の中で混ざり、絶妙なハーモニーを奏でる。そして、マジパン。これは私が知っているマジパンではない。マジパンは粘土のような味がするはずだ。なのにこのマジパンはふんわりアーモンド風味の美味しいクリームではないか!これら全部が口の中で合わさり、ふわっと消えてしまう。そしてコーヒーの苦さとの相性たるや!あっという間に、ぺろっと一つ食べてしまった。スウェーデン人が一日に何個も食べれる気持ちが分かった気がする。見た目の濃厚さとは裏腹に想像以上に軽やかなパンなのだ。それでいてほんのりした甘さが余韻に残り、もっと食べたくなる。
一日に何個も食べれるほどの胃袋は持ち合わせていなかったので、これで私のセムラ体験は終わりだった。なので他のお店のセムラが同じように美味しいかは分からない。でも、少なくともセムラが想像とは全く異なり、スウェーデン国民を夢中にさせているのはその実力たるゆえであることは分かった。何事も食わず嫌いせずに挑戦してみるといいことがあるものだ。皆さんも2月にルンドにお越しの際は、ぜひBroder Jakobs Stenugnsbageriのセムラ (とシナモンロールとカルダモンロール) をお試しあれ。



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