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スウェーデン留学記#21 Fika、そして本格パキスタンカレーの手ほどき

私が留学して間もなくできて友達の中に、パキスタン人のリダ、オーストリア人のヴィッキー、台湾人のツァイジェがいた。彼女たちとは留学生向けの交流プログラムの一環で、カヌー体験をした際に出会ったのだ。


その場のノリで仲良くしてくれただけで、このまま自然消滅してしまうかも…という心配は無用で、その後も連絡を取り合いFikaしようという話になった。Fikaとはスウェーデンの独特な文化の一つで、大雑把に言うと甘いものとコーヒーなどをとる時間のことを指す。仕事の合間の休憩時間にコーヒーとおやつをみんなでつまむ時間も、友達や家族とカフェに行くのもFikaなので、「コーヒーブレイク」とか「お茶の時間」とか「おやつの時間」を全部ひっくるめた概念である。Fikaは名詞としても動詞としても使えるので、「Fikaしよう!」などのような言い回しができる。この素晴らしい風習のためか、スウェーデンにはシナモンロールやカルダモンロールなど最高に美味しいスウィーツがごまんとある。お洒落なカフェもたくさんあり、ルンドも例外ではない。

私達はEbba's pantryという名のカフェに集まった。こじんまりとしたカフェで入ってすぐのところにケーキやサンドイッチが入ったショーケースがある。各々好きなケーキを選び、コーヒーを注文すると可愛らしいお姉さんがマグカップにコーヒーを注いでくれた。どこでも座っていいわよと言うので、中庭が臨める少し日差しがあるテーブル席に着いた。私はチョコレートソースとココナッツパウダーがかかったケーキを選んだ。ケーキにはラズベリーソースと生クリームがたっぷり添えられている。

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甘いケーキに頬を緩めながら、私たちはお互いのことや、恋バナ、スウェーデンやヨーロッパで旅行してみたい場所などについて語り合った。食べ物好きの4人が集まったので、話は自然と料理の話になる。せっかく多国籍の人材が集ったので、今度お互いの国の料理を作る料理会をしようということになった。

ということで、後日私たちは買い出しのためにスーパーに集まった。メインディッシュはリダが作る本格パキスタンカレーだった。副菜としてヴィッキーがオーストリア風のポテトサラダ、デザートにツァイジェが台湾風のクレープを作ってくれる。とりあえずこの日、私の出番はなしとなり、私はアシスタントとしての務めを精一杯果たすことになった。リダが骨付きのチキン、玉ねぎ、トマトなどをカゴに放り込み、その他の人もジャガイモやチョコレートソースなど各自必要なものを次々と放り込んでいく。一通り、揃うと自転車でツァイジェの寮に向かった。

ツァイジェの寮に着くと、さっそくキッチンでリダが料理を始めた。本格パキスタンカレーを作るにあたり、最も肝心なのがスパイスである。しかし、リダは自分のスパイスセットを自国から持ってきているので、残念ながら何が何だか分からなかった。何が入ってるのかと尋ねると、色々入ってるのだという。秘伝のレシピなのだ。仕方がない。赤色のパウダーだけはかろうじて見た目から唐辛子だとわかった。他にオレンジや茶や黄色のパウダーがあった。きっとターメリックやら何やらが入っているのだろう。

リダはみじん切りにしたニンニクと玉ねぎをあめ色になるまで炒め、そこに秘伝のスパイスをざっと入れた。さらに炒め、鶏肉を全て放り込むと塩胡椒しながら炒め続ける。終始強火で、煙が立つのも気にしない勢いだ。そこへ細かく切ったトマトと水を適当にジャバっと入れ、強火でぐつぐつと沸騰させると蓋をし、しばらく煮込んだ。最後にヨーグルトをざっと和えて出来上がり。レシピを聞くと、そんなものはない、適当に入れていけばできる、これが母から教わった本格パキスタンカレーなのだと言う。細かいことは分からないが、きっとその適当さと火の勢いこそが本格パキスタンカレーの肝なのだと心に刻む。

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一方ヴィッキーはオーストリア風ポテトサラダに苦戦していた。ヴィッキー自身は作ったことがないのだと言い、ネットでレシピを調べながら作っていた。じゃがいもを大量に茹で、皮剥きをし、潰す。そこに刻んだ紫玉ねぎを和え、マヨネーズと砂糖とお酢をどんどん加える。「この味どう思う?」と聞かれ、味見をさせてもらった。もう少し酸味が欲しいと答え、さらにお酢を加えるとツァイジェが味見をして酸っぱすぎる!と叫んだ。では、とさらに砂糖を加え、お酢を加え、としているうちにひたひたのポテトサラダが出来上がった。きっとこれは本場のオーストリア風ポテトサラダではないが、ヴィッキーのポテトサラダは酸味と甘味が絶妙な加減の絶品だった。

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ツァイジェは器用にクレープを焼いていくと、手際良くそれを皿に乗っけた。そこにバニラアイスを乗っけ、くるっと巻き込む。上からチョコレートソースをかけ、ジャムを添えて出来上がりだ。台湾で流行っているクレープなのだそうだ。

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みんなで各国料理を盛り付けたその一皿はそれぞれの個性と努力が光って感慨深げだった。パキスタンカレーはトマトと玉ねぎの旨みがぎゅっと濃縮され、そこにヨーグルトの酸味が効いて、最高に美味しかった。それぞれおかわりもしてあっという間になくなった。ヴィッキーの個性的なポテトサラダもツァイジェのお洒落なクレープも皆を口福にし、楽しい料理会はあっという間に終わった。

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帰国後、私はあの味をもう一度食べたい、という強い想いを胸に本格スパイスカレー作りに励んだ。今や私の一番の手料理はスパイスカレーだと家族に言わしめるほどだ。しかしそうした努力も虚しく、私は二度とリダのパキスタンカレーを再現できなかった。

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