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スウェーデン留学記#45 唐揚げを食べる会

海外留学において、留学先で知り合った日本人との距離感の保ち方は難しい。留学に来ているのだから語学力を向上させようと思えば、なるべく現地の人と関わってどんどん現地語脳に切り替えていくのが一番だ。その場合、日本人同士で固まっていると現地の人と関わりづらくなる。現地の人からしてみても、よほど日本に興味があるのでなければ日本語で喋っている集団にわざわざ入っていこうとは思わないし、話しかけづらい。
かといって日本人と全く関わらないというのも変な話だ。留学先で「あ!日本人だ!」とお互い分かれば、会釈ぐらいするし何度も会っていたら話しかけないのも気まずい。避け続けていたら嫌っているみたいになる。
じゃあ日本人でもそうでなくても関係なく色々な人と関わればいい、というのが理想論だが、一度日本人の知り合いができるとどうしても日本語で会話しがちだし、そうなると外国人と関わるのが難しくなるというのが現実だ。

そこらへんの微調整が下手だった私はスウェーデン留学時、最初は日本人を徹底的に避けた。なるべく英会話力を向上させたいと焦っていたし、色々な外国の人とひたすら英語縛りで会話し続けた。おかげで英語脳は最初の数ヶ月でずいぶん向上したように思うし、日本人以外の友人がたくさんできた。一方、現地にいた日本人とは逆に関わりづらくなっていた。そんな中、授業が一緒で仲良くなってくれたのがAちゃんとI君だ。後から聞いてみると、私があまりにも日本人コミュニティに顔を出さないので、日本人だと思ってなかったらしい。それはそれで構わないのだが、日本人と関わらないことで逆に情弱になっていたことにも気づいた。例えば、ルンド大学には日本に興味があるスウェーデン人サークルがあって、毎週その人たちとスウェーデン語で会話できる場が設けられていることや、一般市民向けのスウェーデン語教室が街で開かれていて無料で参加できることなどは初耳だった。

総合的に考えてみると、やはり日本人とも現地の人ともバランスよく付き合っていくスキルが大事だ。現地での日本人同士の交流は日本人にとって必要な情報交換の場ともなるし、異国の地で長期間過ごしていると時折突如として訪れてくるホームシックの時に慰め合える仲ともなる。

さて、新年早々私とAちゃん達が日本人として共有した思いは「唐揚げ食べたい」だった。スウェーデンのスーパーで、寿司などの一部日本食はゲットできるが唐揚げは売っていない。自分で作るしか唐揚げを食べる方法はない。ちなみに余談だが、ルンドにはLockan ABというアジアン食材専門店があり、普通のスーパーでは入手できないアジアン食材がここで手に入る。例えば、豆腐、シマヤのかつお出汁粉末、納豆、もやしや白菜などの野菜、胡麻ドレッシング…などと例を挙げるとキリがないが、驚くほど品揃えが豊富なのでルンド在住で日本食が恋しくなった日本人はぜひ一度訪れてみてほしい。
そこで私たちは唐揚げを中心とした居酒屋メニューを作って食べる会を行うことにした。他に食べたい日本食メニューを思案していると、3人ともアイデアが出てくる出てくる。半年近くも日本食をほぼほぼ食べていない。でも、わざわざ自分一人分を調理するのは面倒でなかなか作らないものだ。
こうして、私たちのテーブルには2~3時間かけて分担して作った唐揚げ、みそ汁、焼きおにぎり、だし巻き卵、春巻き(これはスーパーで売られている冷凍春巻きを揚げただけ)、なすの揚げびたし、ポテトサラダ、そしてスウェーデンのビールが並ぶことになった。なかなかの圧巻だ。

久々に食べた唐揚げの味は、涙が出そうなほど美味しかった。唐揚げは調理が面倒という以外にも自分で作りにくい事情があった。ヨーロッパにはベジタリアンが多く、私が住んでいたシェアハウスの住人も半分がベジタリアンだった。さらにスウェーデンは特にベジタリアン文化の風潮が強く、もともと菜食主義ではないハウスメイトも影響されて肉食を控えていた。私もその一人だ。肉も魚も大好きで日本では気兼ねなく食べていたが、ベジタリアンの前で肉を裁くのはなんとなく気が引けるのだ。ベジタリアン当人達は「気にしないで」と言ってくれたが、皆が野菜のみ調理している中、一人で肉をさばいていると、自分が野蛮人みたいな気分になる。こうして肉を食べる頻度は泣く泣く減らした。
だが、今夜は日本人同士。気兼ねなく腹いっぱいになるまで唐揚げを頬張った。その他の日本食もシマヤの出汁が効いていて、ほっとする故郷の味だ。
日本食を食べているときは、日本に生まれてよかったと思う瞬間の一つだろう。そして遠い異国の地でその思いを一緒に分かち合える友人がいるというのも幸せなことなのだなと、胸に染み入った夜だった。

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