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幸せな落書きに包まれた小学校の話

落書きが人の気持ちを幸せにすることがあります。ストリートでグラフティを発表し続けるバンクシーのようなアーティストもいますが、今回お伝えするのは、校舎に描かれた落書きの話です。学校で落書きをしたら怒られそうですが、苫小牧市立樽前小学校は授業で落書きをしたのです。

目の前に太平洋が広がり、背後には樽前山という秀峰がそびえる苫小牧市の西端にある樽前地区。地域唯一の小学校は、校区外からでも通える特認校で、全校児童約30人の小さな学校です。

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すっかり落葉した森に囲まれた平屋の校舎に、2020年12月10日、いつも以上に賑やかな声が響きました。全校児童が「落書きアート」に取り組んだのです。私たちNPO法人樽前artyプラスが企画した授業です。地元にアトリエを構える樽前artyプラスディレクターの藤沢レオが講師を務めました。

「落書きアート」は、自由にデザインした型紙を切り抜き、壁や窓に型紙をあてながら空間の部分に色づけし、絵を描く表現です。児童たちは教室でまず型紙作りに取りかかりました。紙皿に思い思いの絵を描きました。鳥、魚、花、若葉など自然をモチーフにしたデザイン。ハート型や好きなプロ野球チームの帽子。自分の掌を描いた児童もいました。

型紙切り (2)

イラストを切り抜いて、型紙は完成。児童たちは廊下に駆け出しました。大きな窓ガラスに型紙をあて、絵の具を染み込ませたスポンジでペタペタと色づけしていきます。赤、青、黄、緑、黒、紫。。。型紙を外すと、学校中に歓声が響きました。窓がどんどんカラフルな絵で彩られていきました。

色づけ③ (2)

全員が最初から思い切り落書きできたわけではありません。窓に絵を描くのをためらう児童もいました。授業とはいえ、校舎に落書きするなんて大胆な行動です。少し気が引けていた児童も、藤沢や先生たちが声を掛けながら色づけを始めると、次第に夢中になっていきました。

45分の授業に終わりを告げるチャイムが鳴りました。みんな次々と作品を描いていて、手を止めようとしませんが、泣く泣く後片付けをしました。そんな子どもたちの姿を見て、教頭先生は「もっと時間を取ればよかったですね」と話していました。

「一人一人が夢中で描いた落書きは不思議と調和の取れたアート作品になっていたように思います。屋外とも繋がった風景が出現していました」

藤沢はそう実感しました。

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樽前artyプラスは、10年以上前から樽前小学校でワークショップを行っています。私たちにとって活動拠点の地域にある学校から、授業を依頼されることはとても喜ばしいことです。転勤により、先生が何度も代わっていますが、その度に「artyのワークショップ」は引き継がれてきました。今では運動会や学芸会と同じような年中行事となっています。そのような関係を育んできたことで、大型連休や夏休みに教室や体育館を使った展覧会を開くこともできています。

今回の「落書きアート」も先生たちには広い心で受け入れてくれました。消せる絵の具を使っているとはいえ、校舎に絵を描くという企画に抵抗感があっても不思議ではないのですが、児童たちがアートに親しんでいる土壌があるからこそ実現したのだと思います。

「落書きアート」は、コロナ禍で生まれた表現でした。2020年7月に苫小牧市内で予定されていたアートフェスティバルが中止になりました。樽前artyプラスは運営にも携わっていたのですが、ただ中止にして終わるのではなく、文化的インパクトを作りたいと考えました。イベントの中止を告知する作品を制作し、文化芸術を発信する企画を行うことにしました。札幌のアーティスト、森迫暁夫さんに依頼し、苫小牧市美術博物館の大きなガラス窓に型紙を用いてイラストを描きました。

そのプロジェクトを「落書きアート」と名付け、型紙の作り方から色づけまでの工程をまとめた動画を発信しました。「ステイホーム」をしていても、誰もがアートに親しめると考えたからです。活動は地元で広がり、幼稚園やお店などが落書きアートを窓に描きました。

落書きアートはシンプルに誰もが楽しめる表現であり、樽前小学校の児童たちにも体験してもらいたくて授業に持ち込みました。

樽前小学校は2022年に開校100周年を迎えます。そして、苫小牧市は老朽化した校舎の建て替えも検討しています。長い歴史を歩んできた学び舎は、小さな集落のシンボルです。

落書きアートは樽前の風土の中で育まれた子どもたちの感性が、校舎というキャンバスで表現された作品です。冬休みに入っても、校舎の窓はカラフルな作品で彩られています。

#樽前artyプラス #アート #落書き #教育 #図画工作 #苫小牧

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