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【コラム】「立会人型」の電子署名って、そこまで責任取れるんでしょうか?

こんにちは! 久しぶりの投稿です。

久々になった理由は、第一は、家の断捨離と整理整頓が忙しすぎて、物理的に疲弊していたこと です。 これも後日ネタで書こうと思うのですが「断捨離無くして、快適なテレワークなし」ということを痛感し、思い切った断捨離を実行中です。

あと、日常的にペーパーレスの話題がされるようになり、もうネタがありすぎて、むしろ何を書こうか優先順位付けが難しいという嬉しい状況もあったりします。

とはいえ、今日の日経の記事で電子契約に携わっている者としてスルーできない記事が出てきたので、触れようかと思います。

今日の日経記事(2020年5月28日)

#COMEMO #NIKKEI

記事の中身は、リンク先を拝見してもらうとして(有料記事なので、有料サービスに入っていないと、一部しか見られません)、内容をざっくり要約すると

・ 今、普及している電子契約が法的裏付けが曖昧だということで普及していないので、法的裏付けをして欲しいという「法改正」を求める声がある。
・ 現在普及している電子契約の多く(クラウドサインなど)は、当事者同士が電子署名をせず、契約に電子上で立ち会ったサービス提供者が「当事者間で契約を締結したことを確認した」ということで契約書が作成される。
・ 上記の方法は、契約当事者が電子証明書を取得しなくていい代わりに、本人による電子署名ではないため、日本の現行法では、契約書が真正に成立したとは認められない可能性が高い。
・ 欧米では、立会人型のクラウド上の電子契約が認められるため、日本でもそれを認めろという話。
・ ただ、規制改革推進会議内では、「第三者(立会人)の署名を認めてもいいのか?」という議論もある。

日本組織内弁護士協会が、規制改革推進会議 成長戦略WG宛に提出している提言書が以下のリンクから参照できます。

何が論点なのか?

論点としては、「今の立会人型の電子署名では、電子署名法でいうところの書類が真正に作成されたということが認められない状況だから、法改正して認めてくれないか?」というところが最大の争点 です。

一見聞くと、第三者が印鑑を押すのって、契約の仲介者(不動産会社とか)であれば理解できるのですが、全く契約の当事者ではない第三者がその契約に対して承認するというのは、もう完全に「公証」の世界ではないかな? と思います。ただ、公証ではないので、「私的な第三者」(たとえば、クラウドサインの場合はその運営会社である「弁護士ドットコム」が承認する ということになります。これが「ありかなしか」ということですね。

これは弁護士さんが始められた弁護士ドットコムのサービスだからなのかなと思うのですが、弁護士さんが行う「契約締結時の立会人業務」を電子上で行おうとしているのかな という意図を感じます。 ただ、これも実際には弁護士が立会人になっているわけでなく、実質な立会人は「弁護士ドットコム」という法人です。これも有効なのかな というところかと思います。

私のスタンス

  そこで、私のスタンスですが、電子署名法の改正という形でこの話を持っていこうとするのは、ちょっと無理があるのではないかなと感じます。

  確かに民法上、契約は当事者同士の合意があれば成立するものです。正直、口頭でも成立します。ただ、後で問題になったあとで「言った」「言わない問題」にならないように、合意する内容を文書化して、それに対して契約当事者が合意をしたという確かな証拠として「契約書」を作るという話です。

  電子署名法は、その中でどういう形にすれば、その書類が、作成当事者により「真正に作成・承認された」という証拠になるのか ということが取り決められた法律です。契約書の場合は、どうすれば「紙で作成したものと同等のもの」として認められるのか ということです。

  そこで、「本人しか署名できない形を整えた上で、電子署名がされている書類であれば、真正に作成された書類であると認めましょう」というスタンスが決まったわけです。

  立会人による契約の認証で、上記の内容を認めろ という場合、この「本人性」の確保(間違いなく契約当事者が、当事者だけがアクセスできる仕組み上で契約書に対して署名を行った)という点をどう確保するのか という点に疑問が残ります。

  最大の理由はメールアドレスや手書きの署名では契約当事者に「なりすます」リスクが払拭できないことです。法人のメールアドレスの場合、大企業などであれば、きちんと会社のメールアドレスを適切な業務プロセスで発行しており、メールアドレスと本人であることとの繋がりは確認が容易であると思います。そのため、、特に中小企業や個人事業主の場合、メールアドレスに無料で作成が可能なメールアドレス(Yahoo!メールやGmailなど)を利用している場合も散見され、そのメールアドレスだけで本人であることが確認できるかどうか、とてもグレー(正直黒に近い)と考えます。また、そのメールアドレスの発行に関して、厳重な本人確認を行うということも現実的ではありません。この点をカバーするにはプラットフォーマーである「仲介人」に契約当事者の本人確認を適切に行わせることを義務付けることが不可欠ですが、その場合、「立会人」に対する業務上の義務・責任をどこまで求めるのか、ということを検討する必要があります。
  一つの選択肢としては、現在弁護士が行っている契約締結の際の「立会業務」というものがあり、プラットフォーマーが弁護士事務所などと業務提携をすることが考えられます、弁護士資格を持つ人間が、数多く締結されtる電子契約の一つ一つに対してどこまで責任を持つのか、正直負担が大きくなるのではないかという懸念があります。もちろん、第三者の法人に対してその権限を与える場合でもその責任を負わせる必要があります。

  ただし、現在提案している法改正の内容は、「本プラットフォーム上で、自称Aさんと自称Bさんが、契約を締結したこと」とその書類(電子文書に記載された内容)の認証に過ぎず、プラットフォーマーが本人性の確認まで十分に行っているかは不鮮明です。

  手続きが簡単だということは、その逆で重要な契約でも簡単にできてしまうという点で、そこは懸念が残ります。

  もし、立会人の電子署名でも契約が真正に成立することを認めるのであれば、立会人に対して、認定認証業者と同様の契約当事者に対する本人確認などと求める必要があるかと思います。ただ、その場合、電子契約としての利便性が損なわれるのではないかと考えます。

おわりに

以上のように、立会人型の電子契約という形は、弁護士の立会業務のオンライン化のように見えますが、本人性の確認をどう行うのかなど、多くの課題があり、電子署名法の改正というには無理があるかな と思います。

ただ、課題としてあげている「電子契約を普及させる」ということに関しては全く同意するとことろなので、いかに「真正に書類が作成されること」と「本人性」の確保を両立させるかが鍵になると思います。

  僕個人としては、現時点では個人の署名は「マイナンバーカードの署名用電子証明書」、法人に関しては「商業登記に基づく電子認証制度」にて作成される電子証明書が活用できれば、双方とも「実印に値する」電子署名がこれで可能になるので、B2CやB2Bの契約に関しては、これで足りるのではないかと考えます。これらの証明書ををいかに民間での契約行為に活用しやすくできるかが電子契約普及の鍵ではないかと考えます。

あと、契約書などではない注文書などの書類に電子署名をする場合、会社名での電子署名ができればいいですが、それは安価な電子証明書(例:JCAN証明書)を用いた社印・認印的な活用ができれば対応可能です。

  いずれにせよ、こういう形で電子契約や電子署名について議論が巻き起こっていることに関して、とても感慨深い思いがあります。是非議論を広げ、そして深めてもらい、業務と書類の電子化・ペーパーレス化が進めばと思います。


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