”桃太郎”を読んで  3年 T.S

“桃太郎”とは完全犯罪の話だ。

 あらすじを簡単に説明すると、桃から生まれた桃太郎が猿、犬、雉をお供に連れて鬼を退治する物語である。
この話を読んで疑問は4つある。

1“何故おじいさん、おばあさんは桃太郎一人で鬼退治に向かわせたのか”、

2“なぜ桃太郎は鬼に勝てたのか”、

3“なぜ桃太郎は鬼と戦ったのか”、

4“桃太郎の出生について”、

この4つの疑問点についてそれぞれ詳しく述べる。

まず一つ目の疑問 “何故おじいさん、おばあさんは桃太郎一人で鬼退治に向かわせたのか?”
桃太郎は鬼が村を困らせている噂を聞き、鬼退治を決意した。その意向をおじいさんたちに話したはずだ。おじいさんたちはどう思ったか、反対したいに違いない。鬼退治に行くのは死ぬのと同義だ。大切な我が子なら止めるのは猶更である。だがそう考えると不思議なことが一つ。
“なぜ桃太郎は一人で討伐に向かったのか?”
おじいさんたちの反対空しく桃太郎の意志は強かったのだろう。おじいさんたちも渋々納得したに違いない、そこまではいい。ならどうしておじいさんたちは一人で行かせることを認めたのか。一人で討伐するよりも何人かの大人を引き連れて行った方が賢明ではないのか? 村に戦えるほどの大人がいなかったとしても、なぜ桃太郎は一人で戦うことにこだわるのか。鬼が島の本拠地を叩くのではなく、おびき寄せて自分たちの村でゲリラ戦をした方が勝算がある。だが桃太郎は単身で本拠地を叩いた、そこには必ず理由があるはずだ。

 次に2つ目の疑問は“なぜ桃太郎は鬼に勝てたのか”だ。
桃太郎は道中、猿、犬、雉を仲間に入れている。鬼退治の報酬がきび団子という、かなり桃太郎側に有利な雇用条件な気もするがその話は今は止めておこう。桃太郎の勝因、それは鬼たちの油断である。桃太郎が鬼が島に到着したとき、鬼たちは酒盛りの真っ最中であった。桃太郎は奇襲を仕掛け勝利したのである。不意打ちなんて卑怯だと思われたかもしれないが僕はそうは思わない、不意打ち・奇襲は立派な戦略である。ただ疑問なのはこの奇襲が桃太郎も意図していなかったことだ。桃太郎たちは鬼たちが酒盛りをしているのを見て奇襲を仕掛けた。つまりこの奇襲には計画性が無いのだ。たまたまチャンスが来たから仕掛けたのである。鬼たちが酒盛りをしていなかったのなら桃太郎はどうしていたのかはなはだ疑問である。
 桃太郎には鬼に勝てる確信があったことは第一の疑問で確定している。第二の疑問の中で桃太郎は奇襲する作戦が無かった可能性が高いことが分かった。これらの疑問から一つの仮説が浮かぶ。桃太郎は鬼に正々堂々と勝てる自信があったのではないかという仮説だ。奇襲は手っ取り早かったからしたのであって本当は奇襲をせずとも勝つ自信があった。お供の人間がいないのも足手まといが増えるのを嫌ったと考えれば辻褄は合う。状況証拠しかないが可能性は高いと考える。

 3つ目の疑問は“なぜ桃太郎は鬼と戦ったのか”である。戦う以外の選択肢、和平交渉では駄目だったのか? 
 桃太郎は鬼退治の後、鬼が島にある金銀財宝を村に持ち帰った。いわゆる、賠償金だ。ここで注目すべきなのは鬼の方が財力がある点だ。鬼が金銀財宝を持っていた理由について、人間からの略奪品の可能性は低い。
 まず桃太郎の住んでいる村にそのような金銀財宝があるとは考えられない。おじいさんとおばあさんは自給自足の生活をしている。もしあの村全体が裕福なら、おじいさんとおばあさんももっと豪邸に住んでいるはずだ。おじいさんとおばあさんの家だけ貧しい可能性も捨てきれないが、村全体が裕福ではない可能性の方がずっと高い。次に鬼たちは他の村から金銀財宝を強奪した可能性もある、だがこの話の中で一切そのような描写は出てこない。鬼が島に白骨死体が在ったり、昔に大勢で討伐に向かったなどの話は皆無だ。描写がないイコール存在しないという訳では無いが、もしそのような事実があったのなら誰かしら言及するはずだ。これらの理由から、鬼が島の金銀財宝は鬼たちのものであると言う結論が出る。これは鬼が人間よりもずっと栄えていることを意味する。鬼が島は離島であるため、おおよそ貿易などで栄えているのであろう、人間たちとの交流もあったのかもしれない。
 そう考えると、桃太郎の行動は悪手であるとしか言いようがない。桃太郎は力での征服を行った。鬼からしてみれば、ある日突然桃太郎という殺人鬼(いや殺鬼人とでも言うべきか)がやってきたことになる。これでは今後、鬼との対等な貿易などできるはずがない。それ以上に生き残った鬼たちに復讐心を植え付けたはずだ。桃太郎は鬼とのビジネスチャンスを逃したうえ、後々の禍根を残したのである。浅はかだ。
 個人的見解だが鬼が人間と貿易をしていたと考えると、人間に悪さをしていたのは一握りの鬼だったのだろう。もし鬼全体が人間に悪事を働いていたとすると、貿易などするはずがなく戦争が起きていたはずだ。桃太郎は一部の悪事を働く鬼の話を聞いて、鬼を滅すべきと考えた。善良な鬼の存在を考えもしなかったのだろう。ただこれは桃太郎一人のせいではない、おじいさんとおばあさんも桃太郎の視野狭窄を指摘しなかった。寧ろ村全体が鬼は滅すべしという考えがあったため、桃太郎が洗脳されたと見るべきか。

4つ目は“桃太郎の出生について”だ。
 第一、第二の疑問から桃太郎は鬼に正々堂々と戦って勝つ自信があったと言う結論が出た。それは何故か。僕は桃太郎の出生が鍵になると思う。桃太郎は川の上流から大きな桃に入って流れくる。この桃と言うのは何かの隠喩だろう。実際に赤ん坊が入る桃など存在しない。では何の隠喩か? 僕の見立てでは金銀ではないかと思う。桃太郎は本当は何かの籠に入っていたのではないか。そのかごには生活費とばかりに金銀財宝が入っていた。おばあさんが拾ったのもその財宝に目が眩んだからという可能性もある。
 桃太郎は捨て子だったのだ。では誰の捨て子か? ここで桃太郎の謎の自信が鍵になる。鬼に勝てるという自信から少なくとも鬼以上の存在なのだと自覚していた。人間ではないはずだ。桃太郎は鬼、もしくは鬼と人間のハーフであったのではなかろうか。そうなると桃太郎の自信も肯ける。ただそれと同時にこの仮説が正しいとすると大きな悪意の存在に気付く。それはおじいさんとおばあさんについてだ。おじいさんとおばあさんは桃太郎が鬼の血を引くことを本当に知らなかったのか。それの可能性は低い。むしろその逆だったのではないか。つまり鬼であることを知っていたのはおじいさんとおばあさんはで、桃太郎は自分が鬼であることは自覚していなかった可能性だ。
 おじいさんたちは桃太郎を育てるうちに桃太郎が鬼であるのを知り、ある計画を思いついた。それは桃太郎を利用して鬼が島の金銀財宝を強奪する計画である。桃太郎は鬼の血を引くものであり、人が侵略するよりも成功する可能性が高い。あとは桃太郎が一人で鬼が島に行くようレールを敷くだけでよかった。鬼が村を襲うと言う噂を桃太郎に吹き込み、桃太郎に単身で討伐しに行くように洗脳する。自分が鬼の血を引くことを知らない無垢な桃太郎は育ての親の言葉を真に受け鬼退治に向かった。桃太郎に一人で行かせたのは同伴者がいると桃太郎の洗脳が解けてしまうと思ったに違いない。鬼は悪者でなくてはいけないのだ。
 桃太郎が甲冑を着て鬼と戦っている絵を見たことがあるかもしれないが、あれの本当の目的は身元を隠すことであったのだと思う。

 ここまでの考察でこの物語の本当の勝者の存在がおじいさんとおばあさんであることは間違いない。計画はうまくいった。桃太郎は鬼が島から金銀財宝を持ち帰った。さぞ嬉しかったに違いない、桃太郎の無事よりも金銀財宝の方に喜んだはずだ。桃太郎の帰還後のおじいさんとおばあさんの立ち回りは非常にうまい。何と金銀財宝を村の人間に分け与えたのである。この行為は財宝を独り占めするよりもずっと賢い。皆に配ることで人心掌握かつ村人たちからの嫉妬のリスクを下げた。おじいさんたちは一躍、村の英雄になった。さて、あと対処しなければならないのは桃太郎だ。もう用済みの桃太郎はおじいさんとおばあさんにとっては目の上のたんこぶである、始末しなければ。物語では桃太郎がどうなったか書かれていない。僕は彼は自殺したのだと思う。おじいさんとおばあさんは桃太郎の出生を明かしたに違いない、桃太郎が鬼であることについて。桃太郎は同族殺しという大罪から自責の念で自殺したのだろうと個人的には思う。もちろん証拠はどこにもない、ただの妄想である。
 桃太郎の物語は、ある一文で終わる、『そして、おじいさんとおばあさんはいつまでも幸せにくらしましたとさ』だ。桃太郎については一切の言及がないのだ。これは何故か、桃太郎が少なくとも幸せな生活を送れなかったことを暗示しているのではないかと思う。

桃太郎”という物語は、おじいさんとおばあさんの完全犯罪の物語と言える。この物語の教訓は“本物の鬼は人の心の中に存在する”ことだと僕は思った。

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