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【3分で読める】「又三郎/ヨルシカ」を聴いて、小説のワンシーンを想像した。【歌詞分析・考察】

【あらすじ】
入学式の緊張感とも、受験のストレスとも縁のない高校二年生の私。
学校に通うのは嫌いじゃない。めんどくさいのは朝の登校くらいで、学校に行けば毎日友達と会えて楽しいし、勉強も割と得意だ。

登校の20分前、朝ごはんを食べながらスマホのニュースアプリを流し見する。先月に比べて、ウイルス感染者が増えているとの報道が流れる。

スマホを片手に洗面所に移動し、歯を磨く。
鏡に映る自分の顔は、なんだか自分のものとは思えない。
友達と笑い合う自分は一体どんな顔をしているのだろう、と思った。

「スマホばっか見てないで、早く準備しちゃいなさい」いつものように母の小言が耳に入る。無論、母の言葉を理解せずとも、自分が今すべきことはわかっている。

今日の時間割表を頭の中でイメージしながら、カバンの中身と照らし合わせる。教材一つ忘れただけでも、発言のペナルティが課せられてしまうので、絶対に忘れてはいけない習慣である。

カバンを玄関あたりに放り投げ、朝食の席に座る。50インチの大型テレビではワイドショーが放映されている。すぐにその退屈な内容に飽きてしまい、ポケットからワイヤレスイヤホンを取り出し、耳に装着する。

「またスマホ…。たまにはテレビでニュースでも見なさいよ」
私が開いているのはYoutubeのリアルタイムニュース動画だ。テレビ報道とネット番組で、違いがあるとは思えない。

イヤホンのせいで聞こえないふりをしながら、スマホを横画面にして動画を流し見する。朝ごはんはパンと牛乳。一口齧るとカスがパラパラ服にこぼれてしまうので、前屈みの姿勢でパンにかじりつく。

動画には「速報」という文字と同時に、ウイルス感染者数の遷移図が表示される。先月よりも115人増の統計結果が出ており、未だ油断を許さない状況らしい。

115人が多いのか、少ないのか。私にはよくわからない。
ただ一つだけわかるのは、これが人間にとって”不都合”であるということだけだ。

父は最近、出勤せず自宅で仕事をするようになった。母は洗剤やアルコール除菌剤などを沢山買い置きしているし、私も出かける時にはマスクを二枚常備している。友達はオンラインゲームやSNSアプリなど、非接触で楽しめる娯楽に夢中になっている。

まるで大きな嵐のように、私達人間の生活を飲み込んでいってしまった。
変わらざるを得ない状況に立たされ、それぞれが自分の新しい生活を探してもがいているように思う。

…私は。
私自身は、何か変わっただろうか?オンライン授業になったとか、臨時休校が増えたとか、そういう環境の話ではない。何かもっと私にとって重要な…

「ほらっ、早く歯磨きなさい!!」

中途半端にパンを残し、洗面所に移動する。腕時計の針を気にしながら、急ぎめに歯ブラシを動かす。寝癖があるけれど、目立たないのでそのまま放置しておくことにした。きっと誰も気づかないし、気づいたところでどうなるものでもない。

ふと鏡に映る自分と目があった。
それはいつもと変わらない姿形をしていて、その事実に私は毎日絶望する。
「いっそ別の生物に生まれ変われたら」と何度思っただろうか。

風のままに流されるタンポポの種子や、
本能の赴くがままに狩りをして生きる肉食獣。
アイドルのような人気者にもなってみたいし、
有名な起業家になって世界を旅するのもいい。
とにかく私は、私が、私以外になれないことを理不尽に思うのだ。

歯を磨き終えた私は、カバンを背負い、靴を履く。そろそろ色が剥げてきたので、新しい物を購入しなくてはならないと思いながら、玄関のドアノブを回して扉を開ける。

夏らしくない、ジメジメした風が吹いている。
その中途半端さに不満を覚えた私は、思いっきり駆け出してみることにした。カバンの中身がぐちゃぐちゃに掻き乱れる音が聞こえる。
私にはそれが、心地良いリズムのように思えた。

(End)


最後までご覧いただき、誠にありがとうございました。
今回はヨルシカの「又三郎」という曲を聴いて、オリジナル小説のワンシーンを考えてみました。いかがでしたでしょうか?

ヨルシカの創る曲の歌詞には、全体を通じて大きな「テーマ」や「哲学」が含まれていることが多く、人によって解釈が異なるというのも魅力の一つだと感じています。

「その世界観を壊さないよう、崩さないように、上手く活かすにはどうすれば良いだろう?」と考えた結果、普遍的な日常を描くという結論に至りました。普通の生活のなかでも、意外と人間って、色々なことを考えているんだな、と執筆中に気付かされました。

民奈涼介



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