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【3分で読める】「残機/ずっと真夜中でいいのに。」を聴いて小説のワンシーンを想像した。【歌詞の意味】【チェンソーマン】【二次創作】

ゲームのコントローラーが壁に弾んで、そのまま二つに分かれてしまった。ウヌにはワシが何を言っているのか、理解できんかもしれん。だが、ワシはただ目の前の出来事を言葉にしただけであって、決して頭が狂ってしまった訳じゃない。

「…あー、どうすんだよこれ」

ワシの同居人は、真っ二つになったコントローラーを手に取って、しかめ面になる。コイツの顔は見ていて飽きが来ない。同じアホ面にも100種類くらいのレパートリーがあるからの。正真正銘、コイツはアホ日本代表じゃ。アホのノミネート大賞総取りじゃ。アホ総理大臣じゃ。

「オレぁまだ給料もらってないかんな。お前が自分で買ってこいよ」
「どうしてじゃ!?給料日はたったの一週間前じゃろうが」
「焼肉行ったら全部なくなっちまった。てか、お前のせいだろうが!」
「美味しかったのぉ。やはり人の金で喰う飯が一番じゃ」
「くそっ」

思い出しただけで涎が滴り落ちそうじゃ。やはり肉は厚みのある牛タンに限る。まぁ初めて食べたのだから、”限る”のはおかしな話かもしれないが。

「おいっ、涎垂らすなよ!汚ねぇっ!!」
「大丈夫じゃ、後で掃除する」
「オレは絶対やんないからな。自分でやれよ」

もうゲームコントローラーを壊したことを忘れているらしく、頭をボリボリ掻きながら布団に潜りこむ。ワシはその様子を見送りながらも、頭の中はゲームのことで一杯になった。

テレビ画面にうつる残機は「2」。始めた頃には吐き捨てるほどにあった主人公の命も、もはやワシらと同じになってしまった。いや、ワシは無敵だから、同じではないか。

アイツの分のコントローラーをこっそりと手に取って、ゲーム機に差し込む。壊れた方の処分については、まぁ、後で考えることにしよう。

ゲームスタート。
主人公がバッサバッサと敵を踏み潰していくのは、爽快だった。身体がぶつかった程度でキル扱いにされるのは、納得がいかない。けれど、紆余曲折ありつつゴールした時の達成感は、現実には味わいがたいものがある。

もう少しで、ゴール。あと少しじゃ…。
興奮で、血の巡りが早くなるのを感じる。
血以外のモノに、温かさを、熱量を感じるのは初めてじゃ。

「ぎゃあああああーーーーーーーーーぁ!!」
「うっさい、黙れ!!!」

残機「1」。
絶体絶命な夜。
健康的で、夢見たような、居心地の良い夜。


〜Fin〜



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