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今昔物語「木の葉に詩を書いて川に流した女御の話」 を読んで

みなさん、こんにちは。光文社古典新訳文庫の「今昔物語集」に収録されている「木の葉に詩を書いて川に流した女御の話」を読んだ感想を書いていきます。

あらすじです

※ネタバレを含みます

中国のとある国に呉招孝という人がいました。頭が賢く、人柄も優れている男性でした。招孝が若い頃、王宮から流れている川のほとりで散歩をしていました。そのとき、一枚の木の葉がどんぶらこ、どんぶらこ、と招孝の目の前に流れてきました。彼はその木の葉を拾いました。

おやおや、これはラブレターかな?

招孝が拾ったのは、紅葉した柿の葉でした。よく見ると、女性が書いたものだと分かりました。その表面には詩が書かれていました。

これは運命の出逢いかもしれん。

どんな女性が書いたのか。その女性の人柄や姿を想像していると、招孝は次第に、この詩を書いた女性のことを好きになってしまいました。

そこで招孝は

「こんな私で良ければ、あなたと仲良くしたい。よろしくお願いします」

的な詩を思いつき、流れてきたものと同じような柿の葉に書きました。

俺の思いが届きますように……

そう祈りを込めて、柿の葉を王宮内へ流れる川へ流します。その後、招孝はその女性のことばかり考えるようになります。

それから月日が経った頃。王宮内では、ある問題がありました。それは、そこに住む女御たちの結婚問題です。多くの女御たちは皇帝からのアプローチを受けることなく、出逢いもないまま、王宮の奥で過ごされていました。

それを見た帝は言いました。

とりあえず、ここを出て、婚活でも始めてくれ。

という感じで、帝は王宮にいた数人の女御を故郷に帰らせました。

一方、招孝もいい青年となりました。相変わらず、柿の葉の書いた女性に思いを寄せています。そんなあるとき、彼の両親から一人の女性を紹介されます。その女性は最近、王宮を出た女御です。王宮を出た女御の中では、美しいとのことです。

しかし、招孝は

嫌だ、嫌だ。俺は親が決めた結婚なんて、まっぴらごめんだ。俺が好きなのは、あの女御、たった一人だ。

という感じで、柿の葉の書いた女性以外の結婚は考えていない様子でした。

バカなこと言ってんじゃないの! そんな名前や顔、性格なども分からない女御と一緒になるなんて、戯言もいい加減にしなさい。おそらく、その女御はあなたを騙して、金や時間を奪うのが、オチなのよ。

当時は、親が決めた人と結婚するのが普通でした。両親の反論に骨が折れて、招孝は仕方なく、両親から紹介された女性と結婚することになりました。

しかし、招孝にとって、この女性は理想的で価値観が一致しました。一緒に過ごすうち、段々と愛おしくなっていきます。やがて、柿の葉の書いた女性のことを考えなくなりました。

ある日のこと

あんた。以前、どこか遠くを見て、よくニヤニヤしていたけど、何見てニヤニヤしてたの?

いやぁ~昔好きだった女御のことを思い出していたんだよ。

誰、そいつ? 包み隠さず、言いなさい。

そんな感じで、妻が紹孝に対し、気になっていたことを言いました。

妻の気迫に負けたのか。紹孝は白状します。

今はお前がいるから、その女御のことはいいんだ。

それを聞いた妻は

私、気になったんだけど、その詩に書かれていた内容って、覚えていたりする?

招孝は詩の内容を言いました。それを聞いた妻は「返事は書いたの?」と深掘りしてきました。

おそらく、王宮の中にいる女御が書いたものだ。と思ったんだよ。もしかすると、その人が見てくれるかも。ってね。

招孝は赤裸々に語り、返事を書いたことを告白しました。

あーこれね、この柿の葉に書いたのは、私よ。

妻はそう言って、柿の葉を招孝の前に出しました。招孝はそれぞれの柿の葉を見比べると、確かに妻の筆跡でした。

あの頃は、皇帝からのアプローチもないし、ずっと王宮の奥にいるから、出会いもなかったのよ。時間だけが過ぎていったのね。それで、人恋しく寂しかったから、川のほとりに行って、自分の思いをその辺の柿の葉を使って、書いたのよ。すると、後日行ったら、返事が返ってきてね、思わず、嬉しくなった。

そんな感じで、妻は柿の葉を大事そうに持って、そう言いました。

招孝と妻は、その日から「まるで、深い宿縁のようだ」と感じ、仲が深まりました。

感想です


今で言うと、SNSのコメント欄に投稿した人を好きになり、ずっと思いを寄せている。そして何年か経ち、誰かと結婚するが、実はその相手が思いを寄せていた人だと発覚する。まるで、運命の出逢いのようで素敵に思えました。遠くのどこかで、誰かと結ばれているんだなと思います。

今はコロナ下で対面といった出逢いが少なくなっています。男女とともに、この話に出てくる王宮の奥にでも、いるような感覚に近いです。

寂しい気持ちが募りますが、招孝の妻のように、詩のようなものを書いてみるのもいいかもしれません。もしかすると、誰かが見てくれている。そう思います。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

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