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アルベルト・モラヴィア 部屋に生えた木 を読んで

みなさん、こんにちは。光文社古典新訳文庫の、アルベルト・モラヴィアの「薔薇とハナムグリ シュルレアリスム・風刺短篇集」に収録されている「部屋に生えた木」を読んだ感想を書いていきます。

あらすじです 


※ネタバレを含みます

人工物や合理的主義を好む夫と自然を愛する妻が暮らしていました。彼らは金持ちではありませんが、中流階級で、ある程度の贅沢ができるぐらいの生活をしていました。あるとき、彼らの家に約50センチの木が戸棚と暖炉の間に、にょっきと生えてきました。その木を見て、夫はへし折ってやろう。と考えました。火かき棒を手にし、木に触れようとした瞬間、妻が帰ってきます。

「きゃー、何やってんの、バカぁ」

妻は喚きながら、夫のいるその木に向かって走り寄ったおかげで、木は一撃を免れます。しかし、火かき棒が戸棚に当たってしまい、ガラスが粉々になってしまいます。

「あーもう、本当にあなたは、バカね。木も神聖な生き物なのよ。こんなことも分からないぐらいなら、小学生からやり直したほうがいいわ」

こういった感じに、妻は今まで溜まってきた鬱憤を爆発させるための引き金を、木が与えてくれたのでしょう。その言葉に、自然主義など、どうでもいい夫はネチネチと文句を言っていきます。

「お前、あれ・・・あれ、だぞ。この木が家の中から生えてくるのは、家の水道管が、いきなり破裂して、床が水浸しみたいになるのと変わらないのだぞ。水道管を直して、水を外に出すように、木も切って、当然だろう」

といった感じの文句を言い、その後、夫は「木には色々ある」と説明していきます。例えば、月桂樹、オリーブの木などといった、役に立つものです。別に困ることはないが、この木は名前も分からないし、奇妙だ。と主張します。それを聞いた妻は負けじと、反論します。

「別に、あなたに迷惑をかけてないじゃない。犬のように、あなたに向かって吠えたり、あなたの書棚におしっこやうんちをしているわけないし、この木はお利口さんよ」

言い争いは続きますが、妻がひろゆきさんのように、ことごとく夫の意見をねじ伏せていました。妻の威圧的な態度のぐいぐいと迫る理屈に、夫はとうとう諦めました。

「これだから、女は」

夫はぶつぶつと独り言を言うように、書棚に入っていきました。

数日経ち、その木はめきめきと育ち、家の中を覆うようになっていきます。妻は子どものように木に対して愛情を費やし、頭の中は木のことで一杯になっていました。木が成長していくのにつれて、立派な樹木だと分かります。妻の友達が「奥さんの家に木が生えているらしいから、見に行ってみよう」と話のネタになりそうな気持ちで見に行くのですが、実際に実物を見た瞬間、唖然した様子をしていました。

「うわあ、この家はもう、森じゃないの。ここまで、ほったらかしになるのは、奥さんの夫が頼りないからよ。いやーね」

夫はあれほど、妻に口出ししていたのに、もう文句を言わなくてなっていました。しかし、書棚にいると、文句と愚痴ばかり言っていました。結局、独り言のようにつぶやき、妻に対してアクションを起こしていないので、友達の間では「尻に敷かれいる、軟弱な夫」と噂される始末になりました。

やがて、木は天井を突き抜けるぐらい高くなったり、二人のベッドまで覆いつくすようになりなります。木に生えている葉も、人間の髪の毛みたいにボーボーになっていました。妻は樵を雇って、剪定してもらいます。

「さっぱりしたでしょ。カッコイイでしょ」

妻は子どもが散髪した後、自慢する親のように、夫に見せびらかします。

「あーうん、うん、いいんじゃないの」

夫は木を見ながら褒めて、そう言いますが、実は、心のこもってない調子でそう言いました。

ちなみに、夫の頭の中では・・・

「あーもう、どうでもいいや」

と、半ば諦めている様子です。


感想です

夫婦関係のなかに、子供やペットが出来たら、どうなるか。について考えて読んでいくと、面白いです。夫は書棚を汚されることなく、何もしなければ、あとはどうでもいいたちです。妻に対して、尊厳があまりないように思えました。おそらく、二人の間に子供が生まれると、妻は子どもに愛情を注ぐことは間違いないでしょう。しかし、子どもが成長していくのにつれて、悪いことやいたずらに対し、夫が「ダメじゃないか」と言っても・・・

「子どもがすることだから、大目に見てあげてもいいじゃない」

と言って、妻は子どもを甘やかすかもしれません。わがままの子に育ち、言うことをきかず、本当のことを言えなくなるのが、予想されます。

私は結婚しておらず、子どももいないため、偉そうなことを言える立場ではありませんが・・・

自分の意見を言える尊厳を持つ大人あるいは、親になることも、時には必要なのかもしれません。

結局、子どもは親の背中を見ている。そう思います。

最後まで、読んで頂きありがとうございます。

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