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音楽の記事を書こうとした #03



谷口です。
ロボットを作ってる会社でスタッフをしています。
音楽の記事を書こうとしたら人生の話になりました。

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#03



解って散れたら


あの夏の初ライブから時が流れた。
屋根のない渡り廊下に凍てつく風が吹きつける。
制服の下に着たユニクロのニットカーデの裾を伸ばして、肩を震わせながら歩く。一人、音楽室へと向かっていた。ギターは持ってこなかった。


最初に組んだあのバンドは、停滞してしまった。


よくあることだ。バンドに限った話ではない。

集合体というのはつくづく難しいもので、同じ目標、同じ熱を持つことだけでも奇跡なのだ。各々の事情や変化でいとも簡単に壊れてしまったりする。



今こうして昔を色々振り返りながら思う。

良い意味でも、悪い意味でも、
それを受け入れたり受け入れられなかったりの連続だ。





そのバンドが停滞する前。

バンドの大会に参加し、スタジオ審査を受けたことがあった。
02で語っていた『閃光ライオット』ではなく、地方都市で開催されるフェスの予選にコピー曲で参加した。


僕がリーダーを務めていたため、スタジオ審査の結果はうちへ届いた。


ドキドキしながら封筒を開く。


あの審査のライブはすごく燃えたし、なかなか良いものを見せれたのではと手応えがあったから、かなり期待していた。


しかし、通過しなかった。


評文が入っていた。


『ギターの子の熱いパフォーマンスが見ていて気持ちが良い。
他のメンバーも同じだけの勢いがあればもっと良かった。』


要約するとこんな感じだった。

通過しなかったことよりも、その評文のほうがショッキングだった。


僕だけが、燃えていた。


薄々自分でも感じていたことだった。

それを、言葉にされてしまった。


早く審査結果が届かないかと郵便配達のバイク音がするたびワクワクしながらポストを確認しに行っていた自分が、とても哀れに思えた。


メンバーはこの結果の知らせを、首を長くして待ってくれているだろうか?


そう考えたら、急に寂しくなった。


そんな想いを見透かすかのように、その封筒にはもう一枚、手書きで書かれた紙切れが入っていた。


『谷口くんへ


あなたが作り出そうとしている世界観は分かるし、伝わったよ。

もしその世界観を実現できたなら、とても良いバンドになると思った。

諦めずに突き詰めてほしい。


でも、実現させるには今のメンバーでは無理だ。

あなたの世界観を理解し、一緒になってやれる子を探したほうがいい。

そしてまた挑戦してください。』



救いと、絶望のメッセージ。


この手紙を読んだ時のことを近くで見守っていた母が覚えていて、
ついこの間電話した時にふいに語りだし、僕は思い出したのだった。


「こっちの手紙はメンバーに見せれん、葬る」と言い、
「他の子と新しくバンド組まないの?」と母が聞くと、
「俺はこのメンバーが好きだから、このまま続ける」そう答えたらしい。


僕は、自分がそう答えたことだけは覚えていなかった。
もしかしたらあの時心の中では違う気持ちがあったのかもしれない。



手紙をくれた審査員の人には、すでに僕の未来が見えていたのだろう。

それから数ヶ月後、僕は新しいバンドを組もうとしていた。





新バンド立ち上げ



もっとバンドがしたくて、それもオリジナル曲をやるバンドがしたかった。

この軽音楽部には、オリジナル曲をやるバンドがいない。
そもそもやりたいと考えている人がいないようだった。
入部当初は部員数こそ多かったものの、この数ヶ月で半数近く減っていた。

誰もやっていなくとも、僕がはじめればいいのだ。奮起した。


バンドメンバーのスカウト。
今音楽室では、お目当の子がバンド練習をしているところだ。

渡り廊下を抜けた。


音漏れってレベルじゃないボリュームで、演奏が聴こえてくる。

その曲は、凛として時雨の『Telecastic fake show』だった。
ご存じない方は是非、聴いてみてほしい。凄まじい曲である。

その曲をコピーしてしまう彼らは、文句なしにうちの軽音楽部で一番上手い子たちの集まりだった。そのドラマーである、Mに会いに来た。


扉の前で聴きながら、練習が終わるのを待つ。


ここに来る前からずっと緊張している。
僕なんかの誘いに乗ってくれるだろうか。


彼は同学年のドラマーで、上手くて、機材オタクということは知っていた。
普段はゆるーい印象を受けるのだが、ドラムを叩く時の顔は凛々しい。
歴はかなり浅いと聞いた。なのに、めちゃくちゃ上手い。
それ以外のことはよく知らない。天才というイメージだった。

もし、僕もギターが超絶上手かったら、仲良くなろうと話しかけていたかもしれない。

だけど軽音楽部に入って思い知った。僕は上手くない。

それに癖もすごい。
スコアを完コピ出来たことはなく、すぐ自己流にアレンジしてしまう。
一見それはすごいことのように思うかもしれないが、実は技術の向上を妨げてしまう。『勉強嫌い』はこういうところで損をする。

みんなより早く楽器を始めていたのが幸いで、同じスタートなら挫折していただろう。
わずか数ヶ月でここまで部員が激減したのも、挫折したり飽きたりしてしまう子が多いからだった。
そんな中で一つ二つ頭が抜けているM。やる気はあるけど下手くそな僕。
今まで交わることがなかった。

その技術と才能、そして叩く姿。
新しいバンドのドラムは彼しか浮かばなかった。
でもそう簡単ではないと思った。
仲が良いわけでもないし、好きな音楽も違う感じがする。
それに今組んでるバンドで十分満足していそうだ。

なにより、誘う僕に頼もしさがない。



そういえば、Mが僕に声をかけてきたことがある。


「親指でタッピングしてるの?」


わざわざ他の教室からやってきて、エレキギターをジャカジャカ弾いていた僕のところにMはやってきた。

タッピングとはギターの奏法のひとつで、ピックではなく指で弦を叩き、その動作を連続させることによって音を奏でる。

以前バンドでコピーした曲の楽譜にタッピングが出てきた。
そもそもタッピング奏法を知らなかった僕はyoutubeで確認するのだが、そこで例の悪い癖が出る。ちゃんと習得しようとせず、自己流に走るのだ。

僕がその曲を演奏しているのを見た、他のギタリストからMに伝わった。

笑顔のMに声をかけられる。「タッピングやってみて」

何事かと戸惑ったが、その場でやってみせると「すげー」と喜んだ。
へへへ照れるなぁ、なんて思った僕は馬鹿だった。


家に帰ってようやく「親指タッピング」に違和感を抱き、演奏方法を改めて調べてみると「人差し指または中指」とあり、猛烈に恥ずかしくなった。


あの「すげー」は「すげー上手い」の「すげー」じゃないのか。うわぁー!


何指だろうが上手に弾けるならいい。プロでも一人くらいいるだろう。
自分の技術に自信がないから、馬鹿にされたと恥ずかしくなるのだ。
Mと一緒にいたギタリストが部内で一番上手い子だったから尚更だった。


そんなこともあって「まぁ、ポンコツはポンコツなりに頑張りますよ」と距離をあけていたのに、今度は僕のほうからMに歩み寄ろうとしていた。


PCで作った自作曲を、Mに聴いてもらう。


オリジナルがやりたいなら、まずは僕が作れることを証明せねば。
頼もしくなさそうな僕だからこそ、誘うための口実にしたかった。



スカウト



寒くて薄暗い音楽室前の廊下で、二人はしゃがみこんだ。

「・・・それでこれ、作ってみたんだけど」

ウォークマンから伸びたイヤホンをMに差し出す。

昨日完成したばかりのDTM(デスクトップミュージック)を再生させた。


奇跡的に曲のようなものが生まれたことはあったけど、作曲なんてまともにやったことがない。

作曲をはじめるにあたって、とりあえずPCで作曲が出来るフリーソフトをダウンロードした。(当時GarageBandを持ってたらなぁ。)

音符が全く読めないため、すべての楽器をTAB譜(押さえる場所を数字化した楽譜)で打ち込こんだ。

ギターは、自分が手癖で弾くコードを強引に繋げてみることからはじめた。

ベースはギターのルート音(ざっくり説明すると、コードの中で一番低い音)を打ち込んだ。

ドラムのことはもっと分からなくて、打ち込んでは数字を変える作業の繰り返し。(そもそもドラムの譜面を数字で打つ人なんていないのかもしれない)

フリーソフトの電子音は無機質で味気ないが、それなりにバンドの譜面らしくみえて感動した。

歌詞やメロディーも考えてみた。でも、音痴な僕の歌声を入れたらマイナスになると思い省略した。

果たしてこの音源は再現できるのか、というは度外視だった。

今回は完成させることに意味があるのだ。

初めてにしては良いものが出来たのでは?と自己満足し、mp3に変換。

作曲、やれば出来るじゃないか。喜びもひとしおだった。


それを今、Mが聴いている。


自信満々に持ってきたはずなのに、
いざ隣にすると言い訳ばかり考えてしまう。

Mがふふっと鼻を鳴らす。どっちの笑いだ。不安が増した。

曲が終わると、はははと笑いながらイヤホンを外しながらこう言った。



「すげームチャクチャだな」


「すげームチャクチャ良いよ」という意味ではないことは、馬鹿な僕にでもすぐに分かった。


でもMの笑いは、どうやら馬鹿にしているわけでもないように思えた。


何度も曲をリピートする。


「ドラムおかしすぎだろ」

「ベースがルート音ばかりでつまらん」

「ここの展開、変じゃね?」


素直で辛口なコメントを出す彼の表情は、どこか楽しげだった。



「他誰やんの?」




Mが、新バンドのドラムを引き受けてくれた。



04につづく。





かつておすすめしてもらった曲を聴くと、教えてくれた人やその時のことを思い出したりする。
音楽にはそんな引力がある。

この曲を聴くたび、僕はドラムのMのことを思い出す。

爆音で聴きたくなった。

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凛として時雨(りんとしてしぐれ) 

Mのいたバンドがコピーをしていて知ったバンドだ。
その後、本家を聴いて改めて手数の多さに驚愕し、それぞれのパートにすこぶる感動した。
バンドの可能性って計り知れねえ・・・おもしれえ・・・と興奮した。

ギター、ベース、ドラムすべてに「なんだなんだ」と度肝を抜かれるが、
「声も楽器として捉えている」とボーカルTKのインタビュー記事を読み、
音楽って計り知れねえ・・・俺はまだ何も知らねえ・・・と思ったものだ。

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NUMBER GIRL (ナンバーガール)

伝説と呼ばれるバンドに疎かった僕は、ナンバガのこともMに聞くまで知らなかった。
ドラマーのMはある日突然、ベースを学校に持ってきた。買ったのか、借りてきたのか。
そしてこの曲メインのベースライン「ドゥドゥドゥドゥ↑ドゥドゥドゥドゥ↓ドゥドゥドゥドゥ↑ドゥドゥドゥドゥ」を弾いてみせた。

一度聴いたら、鼓膜に残って消えない。

それ以来、曲を作っている時「めちゃくちゃかっけーイントロ浮かんだ!」と思うと「いやこれ鉄風鋭くなってじゃん!!!」となる事態が頻発した。さすがレジェンドである。
日本のロックシーンに与えた影響は計り知れない。

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POLYSICS(ポリシックス)

Mの ”こういうノリ” も好きなところが、最高にイケてた。
楽しそうにカラオケで歌っていた姿を思い出す。
Mと出会ったことで好きな音楽の幅も広がって、一層楽しくなったんだ。


M、この黒いバイザー持ってたなぁ。

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谷口


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