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「詩のボクシング」

当時ブログに書いた文章をnoteに載せてみたくなりました。

=2005.01.30の記事=
「詩のボクシング」

詩のボクシングが1月22日NHKで放送されました。今回は第4回全国大会。第1回こそ見逃しましたが、第2回から欠かさず放送を見る機会に恵まれました。

詩のボクシングとは、白いリングの上に、青コーナーと赤コーナーに分かれた詩人が交互に自作の詩を朗読して、どちらがより観客の心に届いたかをジャッジが判定して、競い合うトーナメント競技。1人の持ち時間は3分。準決勝までは自作の詩を用意できますが、決勝は、用意した自作の詩と、レフェリーが出すテーマでの即興詩の2ラウンド制でチャンピオンを決めます。

この詩のボクシング、なかなか面白いです。

自分のスタイルで自作の詩を朗読するのですが、そのパフォーマンスが楽しいやら、おかしいやら。もちろんふつうの人もいます。でもウケの良い人が勝ち上がる傾向にあります。今回はどんな人が登場するのだろうと思ってたら、すごい人が出ました。

山口県代表の林 木林(はやし きりん)さんです。
この人が今回のチャンピオンになりました。

猫背でメガネの彼女。うつむき気味に朗読するため、顔に髪が振りかかり、よけい地味な印象を感じさせます。詩のボクシングはクセ者揃いなので、わざとこういったキャラクターにしてるのかもしれません。が、これが面白い。消え入りそうな声でおどおどと「よろしくお願いいたします・・」と言うだけで、観客からは笑いが起きてました。

1回戦では「わがふるさとのうた」という詩を朗読しました。山口を地味で目立たない県と言い、ふるさとを自虐的に紹介しながら、それでいて愛着も感じさせる作品でした。

2回戦は「伝説の祖父」という詩。マキを切ってお風呂を入れる祖父をこれまた面白おかしく、淡々とシュールに読み上げます。

3回戦は「私の来世」という詩でした。もし来世があるのなら、私はおじさんになりたいという彼女。飲んだくれるおじさんは楽しそうというのがその理由。宮沢賢治の「雨ニモマケズ」のパロディ作品になっていました。「そういうおじさんに来世こそ私はなりたい」と締めくくるまで、おかしくって笑ってしまいました。

ここまで3回戦とも7人のジャッジの全票を集めて完勝!その個性あふれるセンスと存在感に脱帽です。

そして決勝。今度はどんな手で笑わせてくれるのだろうと思っていたら、びっくり。素晴しい自作の詩を朗読してくれました。「水と木と」という詩です。これまでの笑いを誘う詩は、決勝に勝ち上がるまでの作戦だったのではないかと思いました。それほどこの詩は素晴しい。

「幼い頃、水という漢字を木と読んでいたことがありました」と語り始めた彼女。誰にでもありがちな小さな勘違いが、彼女の手にかかれば、豊かなイメージと広がりを見せます。「川に木が流れる。木を入れたバケツ。冬の木は冷たい。今でも私は水を見ていると木に見えてくることがあります」

彼女独自の世界です。水のイメージと木のイメージを次々に置き換えていきます。水の波紋が年輪に見えたり、木の家が水に揺らぐ家になったり。目を閉じるとその光景が次々に浮かんできます。それは今までにない新鮮な体験でした。水たまりから始まったイメージの置き換えは、やがて海にまで広がります。そして最後の言葉は「地球は木の星です」。

すごい。思わずうなりました。詩が持つ言葉の力を感じます。地球は水の星という固定観念がくつがえされる心地よさ。

自己満足だったり、自分を見つめるような内向きな詩が多い中で、この詩は外に向かって聴く者に訴えかけるイメージがありました。発想の素晴しさと豊かなイメージ、そして広がる世界。優れた詩は世界を変える力を持っています。

林さんのこれからの活躍に期待します。


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