見出し画像

天球の夜空

当時ブログに書いた文章をnoteに載せてみたくなりました。
※北九州(小倉)に住んでいたころのお話。

=2007.09.18の記事=

「天球の夜空」

頭上の夜空を見たことがありますか?夜空を見たことがあるのは当たり前。でも真上はどうでしょう?見たことありますか?

ふつう空を見上げる時の角度はせいぜい45度。真上を見ようと思ったらかなり無理な体勢を強いられることになります。ということは、寝転がって見るのが一番自然な姿勢だと言えます。芝生に寝転がって空を眺めたことがある人は、きっとたくさんいるでしょう。でもそれは昼の青い空。これが夜空だったら?みなさんは経験ありますか?

我が家には屋根裏部屋があり、明り取りの窓から外に抜け出すと、マンションの屋上に出られます。そこは眺めがよくて大好きな場所なのですが、安全柵がなく、代わりに膝上ぐらいのでっぱりがあるだけです。だから万一を考えて、子どもの前では絶対屋上に出ないようにしています。でも子どもが寝たあとなら大丈夫。屋上に出て夜景を眺めるのが、私の楽しみの一つです。

子どもに対しては心許ないでっぱりですが、大人にとってはちょうどベンチ代わりにも使えます。危なくないかって?大丈夫。このでっぱりの先にも床は続いてるので、転げ落ちる心配はありません。このでっぱりに腰を下ろし、街の灯を眺めています。

ある日のこと。このでっぱりに寝そべってみました。そこから見た夜空は今まで見たことがないものでした。視界がいつもと違い、さえぎるものが全くありません。夜空の黒、星の点。立体感のない平べったい雲が、視界をすべるように流れて行く。真上を見てるはずなのに、見下ろしてる感覚。ドキドキしてきました。何十年も生きてきて、初めて見る景色です。

私はそれまで夜空をこんな風に見たことがありませんでした。考えてみれば当然です。見るとすれば、夜の芝生で寝転ぶか、酔っぱらって道で大の字になるかぐらいでしょう。そうそうあるもんじゃありません。意識しない限りは、見たことがないことさえ、気がつかないのではないでしょうか?

視界をさえぎるものがないという経験は、日常あまりないことにあらためて気がつきました。地平線を見ることなんてめったにありません。建物や山にさえぎられて、ひどいときは数メートルで視界を障害物に阻まれてしまいます。だから頭上の夜空を見たときの驚きは新鮮でした。今見えるこの星と私を隔ててるものは何もない。気の遠くなるほど遠い星なのに。小雨のパラつく日、真上から降りてくる雨を体で受ける。この雨は空から私に向けて降ってきたものだ。なんて不思議な感覚。ドキドキしてきます。他に何もないから。自分と空しかないから。見ているうちに自分の意識が夜空に拡散するような気分になります。

寝転がって見る夜空。視線を真上から地上に下ろしていくと、空の丸さを感じることができます。ぐるりとそこから視線を360度めぐらしてみてください。街の灯が地平線を教えてくれます。地平線が分かつ空と大地。それは広角レンズを通して見たような世界でした。まさに天球の夜空。こんな世界があるなんて今まで知りませんでした。

ちょっと視線を上に向けるだけで、知らない世界がそこにはある。そう考えると本当に不思議です。大人になって何でも知ってるようなつもりだったのに、実は何も知ってないことに気づかされてしまったのですから。

まだ自分は何も知らないのだというところから、またスタートしたいと思います。そのほうがずっと楽しい。天球の夜空を眺めていると、そんな気持ちになるのです。


= こちらのnoteもおすすめ =
【宇宙の広がりと果てしなさに思いを馳せるアンソロジー】

【アンソロジーここまで】

◇ お ◇ ま ◇ け ◇

【アンソロジー(補稿)】※テーマに合う記事を見つけたら順次追加します ♪


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?