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新規事業担当者・起業家のための事業計画作成のコツー事業計画書の作成編ー

西田 泰典さん著『事業計画に落とせるビジネスモデルキャンバスの書き方』では、資金獲得をめざす新規事業担当者・起業家のために、紙一枚から作る穴のない事業シナリオ「ビジネスモデル・キャンバス」、事業計画書の書き方をご紹介しています。

新規事業想像プロセスの全体像

新規事業を立ち上げるまでのプロセスは、
1.新規事業構想
2.ビジネスモデル設計 前編後編
3.事業計画書の作成
4.投資の意思決定
の4つのフェーズで構成されます。

1.新規事業構想についてはこちら>>
2.ビジネスモデル設計 前編についてはこちら>>
2.ビジネスモデル設計 後編についてはこちら>>

ー3.事業計画書の作成ー

この記事では書き上げたビジネスモデル・キャンバスを事業計画書に落とし込む方法についてご紹介していきます。


良い事業計画書、悪い事業計画書の共通点

これまで数百の事業計画書を見てきた著者の視点で良い事業計画書、悪い事業計画書の共通点を3つずつご紹介します。

良い事業計画書

①簡潔でわかりやすいもの
②客観的な情報に裏打ちされているもの
③顧客の切実な問題を捉えているもの


 ①簡潔でわかりやすいもの

特に、良いビジネスモデルはシンプルです。何度も説明しなければ理解できないビジネスモデルはまず成功しないと言っていいでしょう。

 ②客観的な情報に裏打ちされているもの

二次情報(公開されている情報)を収集して分析されていて、かつ、ヒアリング情報や観察した情報で仮説が裏打ちされていることです。
ただし、事業計画書の4~6割を占めるくらいがいいでしょう。

 ③顧客の切実な問題を捉えているもの

特に製造業は気を付ける必要があります。プロダクトアウト志向により、技術説明に偏りやすいからです。
高い専門性と業界の知識、市場の環境変化に対する柔軟性、顧客の困りごとやニーズにフォーカスしていることがよい事業計画書といえます。


悪い事業計画書

①自社がなぜ提供すべきなのか説明がつかない
②アイデアが収益に変換できていない
③コンティンジェンシープランが書かれていない

 ①自社がなぜ提供すべきなのか説明がつかない

新しい事業の取り組む意義の説明が不足していることです。自社が目指す方向性と整合性がないケースや、自社の強みを活かしていないケースも挙げられます。

 ②アイデアが収益に変換できていない

素晴らしいアイデアが多くでても、それを収益に変えるための工夫が見られない、あるいは顧客が喜んで対価を支払う方法が書かれていないケースです。企業は慈善事業やボランティアをしているのではありません。収益の獲得を強く意識する必要があります。


 ③コンティンジェンシープランが書かれていない

コンティンジェンシーとは「予期せぬ事態に備えて予め定めておく緊急時対応計画」という意味です。代替オプションがなく1つの事業計画のみの提案は危険です。PlanB、PlanCも考えておく必要があります。


事業計画書に盛り込む項目と書き方

⓪ビジネスモデルの設計
①事業概要(サマリー)
②マクロ環境分析(PEST)情報
③市場分析情報
④ターゲット顧客と顧客の困りごと
⑤製品・サービス名と提案する価値
⑥価値創出のためのリソース
⑦ピクト図
⑧競合状況
⑨販売計画
⑩想定されるリスク
⑪投資回収・損益計画
⑫今後の展開
⑬推進体制
⑭今後に向けての課題
⑮実行計画

以上の項目を機械的に埋めるのではなく、魅力が伝わるようにストーリーを描くことが重要です。

 ①事業概要(サマリー)

前提として、事業計画書は結論から先に書きます。
その後に結論を実現するための詳細について説明します。
事業概要に書く主な内容は以下3点です。
①-1.提案概要
①-2.提案背景
①-3.収益性

①-1.提案概要
「誰(どの市場)に」「どんな価値を」「どのように」という視点で提案内容を簡潔に記載します。
あるいは、Before、afterに分けて表現してみるのもいいかもしれません。

①-2.提案背景
なぜ提案するのかを説明します。
「自社のミッションやビジョンの実現」「国際社会からの要請」「問題意識」「自社の強み」「実現したい未来」などの切り口から提案の背景を説明しましょう。

①-3.収益性
投資する側はどれくらい収益を獲得できる提案なのかが気になります。
冒頭では向こう5年間でどれくらいの売り上げ額と利益額が見込めるのかをしまします。

 ②マクロ環境分析(PEST)情報

ビジネスモデル・キャンバスを書くときに「魚の目」で分析を行っているので、その分析内容を整理し、本提案に深くかかわっている点を取り上げて説明します。
ここでは周知の事実であるわかりきった内容を詳しく説明する必要はありません。インパクトのある機械や脅威となる重要な点は詳しく説明し、グラフや図を使って可視化しましょう。

 ③市場分析情報

こちらもビジネスモデル・キャンバスを書き上げる上で行っていますので、分析内容を整理して記載します。
ここでもグラフや図などで可視化し、予想される市場の規模と成長性について記載します。
提案内容がゼロから1を創り出す新規事業の場合は、「顧客数 × 顧客単価 × 頻度」で市場の概算値を算出します。根拠もきちんと提示しましょう。

 ④ターゲット顧客と顧客の困りごと

この項目はビジネスモデル・キャンバスの「顧客セグメント」で明確化しています。その内容を具体化して記載します。ペルソナを書いておくと効果的です。

 ⑤製品・サービス名と提案する価値

この項目はビジネスモデル・キャンバスの「価値提案」で明確化しています。
事業計画書には、製品・サービスを利用することでどんなメリットがあるのかをあらためて整理します。提供する価値の妥当性を検証した情報を必ず反映するようにしてください。
顧客がプロトタイプを実際に使用してニーズを見たいしてる様子や、モニターの声を記載すると説得力が増します。

 ⑥価値創出のためのリソース

この項目はビジネスモデル・キャンバスの「キーリソース」で明確化しています。
特に自社の強みを価値創出にどのように活かしているか、という点を記述します。


 ⑦ピクト図

この項目はビジネスモデル・キャンバスの「収益の流れ」で検討しています。

 ⑧競合状況

競合状況(参入障壁)についてもすでに分析を行っていますが、ここではさらに具体化します。
提案内容がゼロから1を創り出す新規事業の場合は、想定される企業を取り上げます。
すでに市場がある場合、既存の競合企業を3~4社に絞り分析します。そして自社も含めて競合他社と比較し「自社が勝っている点・負けている点」を明らかにした上で、「だから自社が提案している製品・サービスがもっともいい!」とアピールしましょう。

競合企業を分析する上で決まった項目はありませんが、以下の整理してみるとよいでしょう。
・売上・利益
・市場シェア
・製品・サービス
・戦略
・強み・弱み など

競合企業との違いをポジショニング・マップで示すのも有効です。

 ⑨販売計画

この項目はビジネスモデル・キャンバスの右側のブロック「価値提案」「チャネル」「顧客との関係性」「収益の流れ」で検討している部分です。
マーケティング戦略策定時の「4P」の視点から「製品」「価格」「チャネル」「プロモーション」を具体的にどのように進めるかを記述します。

 ⑩想定されるリスク

想定されるリスクをすべて洗い出し、対策を検討します。
投資する側は新規事業のリスクが気がかりです。その心配をできるだけ少なくすることが目的です。
マクロ事業環境、市場の変化、競合の動き、外部環境、自社内での障壁などの視点からリスクを明らかにしましょう。
さらに、リスク項目ごとに影響度と確立も示します。「大・中・小」などでもいいでしょう。優先度の高いリスクから記載し、対策案、回避案のプランを記載します。

撤退基準を明確にしておくことも重要です。
新規事業の失敗のひとつに撤退の意思決定がきない点が挙げられます。
損失の沖さ、損失期間など、どのような状況になったら哲太記するかをあらかじめ決めておくほうがいいでしょう。

 ⑪投資回収・損益計画

投資回収・損益回収では最低でも「初期投資額」「回収期間」「今後5年間の累計の売り上げ・利益」の3点について明らかにしておきます。

投資回収計画は、想定通り進むことを予想したアップサイドケース、最悪のシナリオのダウンケース、最も可能性が高いシナリオのベースケースの3パターン想定しましょう。

 ⑫今後の展開

今後10年を想定して「導入期」「成長期」「成熟・展開期」の3つのフェーズに分けて、おおよその「時期」「目指す姿」「具体的な取り組み」について具体化します。


 ⑬推進体制

推進体制は以下3つの側面から具体化します。
⑬-1.新規事業の企画・推進者の役割
⑬-2.組織の体制
⑬-3.資源を獲得するシナリオ

⑬-1.新規事業の企画・推進者の役割
新規事業を企画したコアメンバーがそのまま事業を推進する場合とそうでない場合があります。新規事業を立ち上げるにはメンバーの熱意が重要なため、企画したコアメンバーが推進することをおすすめします。
可能な限り前者を想定して推進体制を構築しましょう。

⑬-2.組織の体制
メンバー専任で推進するか、もしくは既存の事業と業務の兼任で推進するかを決定します。
兼任で進める場合は、リーダーの能力に応じて推進力に大きな差が生まれるため、慎重に選定する必要があります。

⑬-3.資源を獲得するシナリオ
事業を推進する上で、新たな資源(特に人材)を獲得するストーリーを示します。

 ⑭今後に向けての課題

事業の導入期を経て、成長期や成熟・展開期において、現時点で乗り越えるべき障壁(課題)を明らかにします。

事前にあらゆるリスクとその対策を想定しますが、実際に事業を推進する上で想定外のことも起こります。
事業を提案するメンバーだけで解決が難しい課題もあるでしょう。
その場合、経営幹部に提案する際に課題解決の協力を要請することを念頭に事業計画書に書き込んでおくのも有効です。

 ⑮実行計画

最後に実行計画を書きます。実行計画では以下の2点を明確化します。
⑮-1.今後3年間のおおよその活動
⑮-2.今後半年間の具体的な活動

⑮-1.今後3年間のおおよその活動
ビジネスモデル・キャンバスの「主要な活動」で記述した内容を具体化します。

⑮-2.今後半年間の具体的な活動
直近で何を実行するのかを明らかにします。
特に、トライアルフェーズで何をするのかを具体的に説明します。
トライアルフェーズではどんな顧客にどんなじっけを行うのか、どのような成果を期待しているかなど、製品・サービスを市場に投入するにあたって解決すべきことを具体的に明示します。



最後に

おおよそ事業計画を作成できたら、投資をする側の視点で事業計画書を確認します。
事業テーマの選定時に用いた以下の評価基準(取り組む意義)の視点でそれぞれが基準を満たしているかを確認しましょう。
・市場魅力度
・自社優位性
・競合状況
・収益性
・新規性
・実現度
・熱意


ここまで新規事業の魅力を「事業計画書」として仕上げる方法についてご紹介してきましたが、最も大切なのは「熱意」です。
投資を評価する意思決定者や新規事業の審査員が最も重視している点は提案する人が「本気で実現しようとしているか」です。

その計画書に「熱意」が反映されているでしょうか。
提案している人の実績や能力も含めてアピールして熱意を伝えましょう。


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