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【テンセント/Tencent/腾讯】なぜ中国ではiPhoneよりWeChatを選ぶのか?

2020年7月、アメリカのトランプ大統領が、iPhone上でWeChatを使えなくすると公表しました。この時、ある調査では、中国でiPhoneとWeChatのどちらを選ぶかと言う質問に対し、iPhoneを選んだ約20倍の人がWeChatを選んだと報道されました。

実は、現在中国在住の私も、同じ意見でした。

私自身は、10年以上のiPhone、iPadユーザーです。Andoroidのスマホは使ったことがありません。そんな私でも、もしiPhoneでWeChatが使えなくなるのなら、WeChatを使うためにHUAWEIや小米などのAndoroid携帯を買うしかない。と考えていました。

ではなぜ、中国人も、そして私もiPhoneよりWeChatを選ぶのか分るでしょうか?

中国でWeChatが使えなかったら、生きていけない。は過言じゃない

それは、「WeChatがないと中国ではとても生きていけない」からです。

と言っても、死んでしまうわけではありません。生活がすごく不便になり、仕事に大きな支障が生じ、とても大変でやっていられない!という意味なんです。

日本に住んでいる人には、全然理解してもらえない

この考えは、中国在住の日本人は理解してもらえます。しかし、日本の友人に説明しても、なかなか理解してもらえませn。

なぜこんなに分かってもらえないんだろう!? こんな思いから、WeChatが中国で欠かせないと思う理由を、この記事でまとめてみることにしました。

1. なぜ中国ではWeChatがなければ生きていけないのか?

中国において、WeChatがなければ生活が難しいと感じる理由を、大きく2つに整理してみました。

1. WeChat で連絡できなくなるから
2. WeChat Payが使えなくなるから

しかし、もし日本に住んでいた頃の私がこの理由を見たら、こう思ったでしょう。

「それは分かるけれど、携帯を乗り換えるほどじゃないでしょ。別に、LINEや、LINE Payが使えなくなったってそんなに困らないよ」と。

実はこの、「そんなに困らない」と言う部分に、中国在住と日本在住の人の認識の、大きな差の理由が隠されています。そして、それを理解するには、今の日本と中国の社会生活の違いを知ることが必要なんです。

それでは、WeChatがなければ困る理由と、その背景を一つずつ見ていきましょう。

2. WeChatで連絡できないと、そんなに困るの?

WeChatがないと、人に連絡できない

現在の中国では、WeChatで連絡ができないと、特にプライベート、さらに仕事でもとても困ります。私は日本では、LINEを使っていない人間だったのですが、この違いはどこから来るのでしょうか?

これを理解するには、日本と中国で普及している連絡手段を知る必要があります。

日本では、世代によって異なるいくつかの連絡手段がある

日本では、友人、家族、あるいはビジネスで連絡をする時どんな手段を使うでしょうか? 例えば、私の場合こんなものを利用していました。

家族・友人:携帯電話、携帯メールアドレス
友人・プライベートの知り合い:メール(Gmail)
ビジネス:メール

その他、FacebookやLINE、Twitterを利用する人も多いのではないでしょうか?

実は、下の総務省の統計にもある通り、日本における連絡手段は、世代によっても分かれており、電話、メール、SNSがそれぞれ一定の割合を持っています。特に、私のようにメールを主に利用して、SNSを連絡手段として使わない層も一定数いるのが特徴です。

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(総務省 平成30年度版情報通信白書より)


中国人の多くは、WeChat以外の連絡手段がない

では中国ではどうでしょうか?

現在、中国で人と連絡をする時、ほとんどの連絡がWeChatで行われます。友人・家族との連絡はもちろん、ビジネスで利用されることも多くあります。

私がもしWeChatが使えなくなったら、ビジネス上メールで連絡する人はいいのですが、プライベートの連絡手段は何もなくなってしまいます。多くの人は個人用のメールアドレスもなく、そしてLINEもFacebookもTwitterも中国では利用できないのですから。

しかも、ビジネス上の連絡をWeChatでだけ行っている人もいるので、どう考えてもWeChatを手放すと言う選択肢がないのです。

日本と中国の違いは、オンライン手段の普及の歴史の違い

日本と中国の違いは、オンライン手段の普及の歴史の違いに一因があります。日本では、1990年代にパソコンとインターネットが普及しメールでの連絡が増えました。2000年代前半まで携帯電話と携帯メールが普及し、以降スマホとSNSが普及したという歴史があります。

一方、中国のオンライン手段の本格普及は2000年代後半から、スマホとSNSから始まっています。どの世代の人も、WeChatなどSNSを利用した連絡手段しか経験していないのです。

この、WeChatの普及率と代替手段の無さが、WeChatを欠かせない連絡手段にしているんです。

3. WeChat Payが使えないと、そんなに困るの?

次に、WeChatなしで生きていけない2つ目の理由、「WeChat Pay」について見ていきましょう。

お金を払う回数の99%がWeChatPay

それでは、私が中国で生活する上で、毎月の支払いを、どんな手段で払っているか見ていきましょう。

(1か月の支払い回数と支払手段)
外食 20回 WeChat Pay 100% 
出前 20回 WeChat Pay 100%
買い物 10回 WeChat Pay 100%
タクシー20回 WeChat Pay 100%
地下鉄とバス 20回 WeChat Pay 100%
家賃 1回 銀行振込

考えてみると、家賃支払い以外は、実に全ての支払いをWeChat Pay で支払っています。それにしても、なぜこんなにWeChat Payでの支払いが多いのでしょうか?

1. WeChat Payはどこでも使える

まず、WeChat Pay で支払えないものはほぼありません。QRコードはお店側に必要な準備が簡単でお金もあまりかかりません。屋台だろうが乞食でさえ、WeChatでお金を支払うことができます。

2. WeChat Pay以外を使えないことも多い

そして、これは日本からは理解しづらいのですが、中国ではQRコードの代替手段が少ないことが挙げられます。

まず、中国のクレジットカード普及率は非常に低く、ホテルや、高めのレストラン、ショッピングセンターでしか、クレジットカードが使えません。さらに、最近ではWeChat Payは使えるけど、現金は使えない事が増えてきています。飲食店やタクシーなどでは、おつりを用意しておらず、現金を断られることもしばしばあります。

中国でWeChat Payが使えないのは、日本で現金が使えないよりも困る

このように、私のケースではWeChat Payが使えないと、生活の99%の支払いをしている手段が使えないことを意味します。中国でWeChat Pay が使えないということは、日本で現金を使えなくなることよりも不便です。こう言い換えると、その不便さがすこし分かるのではないでしょうか?

4. まとめ

WeChatが使えない = 唯一の連絡手段と決済手段が使えない

WeChatが使えないということは、ほとんど唯一の連絡手段と、決済手段が使えなくなること、そう考えないと、その重要性が正しく伝わらないかもしれません。

最後に、WeChatが使えないことの大変さを、日本での生活に頑張って置き換えてみましょう。

連絡手段は電話だけ、くらい不便?

連絡手段でいえば、電話連絡しか受けれない状態が近いでしょうか。複数人で連絡するのも難しいですし、電話番号を知らない相手も多く、連絡取れない人も沢山でてきます。交友関係を維持するのがとても大変なのが分かっていただけるでしょうか?

決済手段を全て「LINE Pay」にする、くらい不便?

決済手段でいえば、99%の支払い手段を変えるということですから、現金・ATM・クレジットカード・Suicaが使えなくなり、LINE Payに変えるようなものでしょうか。

Alipayなどの代替案はありますが、すべて支払い手段を変えるのは面倒であるのがお分かりいただけるかと思います。

改めて、テンセントとWeChatの圧倒的な社会的重要性を思い知った

最後に、今回の騒動で明らかになったこと、それはWeChat とそれを運営するテンセントが、中国社会の中で、以下に代え難い存在になっているか?ということです。

月間アクティブユーザー数が12億人を誇るWeChatは、社会インフラとしての重要度でも圧倒的なものを有しています。このことからも、テンセントという会社がいかに協力なユーザー基盤を有しているか、見て取れるのではないかと思います。





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