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正解を知る者

 夫は、完璧な人間でした。

 学生の頃からテストはいつも満点で、誰にでもあるような小さなミスをしたところを見たことがありません。忘れ物などもってのほかで、仮に何かトラブルがあったとしても、立ちどころに解決してしまうんです。

 何か質問をすれば、常に最善の回答が得られるので、周りからの信頼も厚かったです。それで、あたしもその一人です。告白するときは、まるで私が告白するのを知っていて、待っていたと言わんばかりの振る舞いでした。

 結婚してからも、彼には助けられてばかりで、部屋や家具を決めるときも、一番いいものを、最安で手に入れられました。食事の買い出しでは、常に特売をしているスーパーやタイムセールの時間まで把握していました。

 その他にも、日常の移動で電車に乗り遅れたことは一度もありませんし、仮に遅延があっても遅刻などはゼロ。必ず定時に目的地についていました。旅行の時も、当日になって、突然行先を変えようと言い出して、どうしてだろうと思っていたら、当初の目的地が土砂降りだったり、予想だにしない渋滞だったり。とにかく、彼の判断、行動は、迷いが一切なく、常に正しかったんです。

 そんな彼が、突然亡くなってしまいました。特に持病もなく、事故やケガとも無縁だった彼が、突然倒れてしまったんです。すぐに救急車を呼び、病院へ運び込まれましたが、どうすることも出来ず、そのまま…。

 医師によると、彼の体に異常は見られず、24歳という若さにもかかわらず、死因は老衰ということになりました。はじめはあたしも信じられませんでした。しかし、彼と付き合いだしたばかりの会話を思い出して、あたしははっとしました。

「どうしてそんなこと知ってるの?なんで分かるの?」

「みんなには絶対秘密だよ?実はね…僕にとって今日は4回目の今日なんだ」

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