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「ていねいな議論」

よしなしごと【気まぐれ選13】

 日本は民主主義の国です。 民主主義というのは、物事を決めるとき権力者が勝手に決めてはいけない、みんな(利害関係のある人たち)で議論をしてから決めなくてはいけない、というルールです。 議論をするのは、「みんな」ですが、如何せん(ローマ時代と違って)人数が多すぎる。そこで「みんな」の代表が集まって議論をすることにしましょう、となった。それが間接民主主義というやつで、議論する権利を持った人を「議員」といい、議論する場を「議会」という。とまあそういうことです。

 何かを決める、つまり、今と違うことをしようとすると、必ずその意見には賛成と反対が起こります。なぜならば、何か違うことが実現すると、それによって利益を得る人と利益を失う人が出てくるからです。

 例えば、今までご飯とみそ汁の朝食だったのを、お母さんが来月からパンとコーヒーにしようとします。 おじいちゃんとお父さんは今まで通りの朝ご飯が食べたいので、その案には反対です。お母さんと子どもたちは、わーいコーヒーが飲める(^o^)とかロールパンにしてね(^o^)とか、賛成します。が、お父さんは黙っていません。色々反対の理由を述べます。その理由は様々です。

1. 朝食をパンにすることで、米食と比べて栄養バランス等の健康面で問題はないのか。
2. 経済的な観点から、パン食に切り替えることでメリットがあるのか。
3. 子どもたちへの食育、といった教育的な配慮はなされているのか。
4. 日本の農業産業の育成、食料自給率等を考えた場合、米食を維持すべきではないか。
5. 日本文化を形成する食という根本的な思想に対する認識が不足しているのではないか。

 とかなんとか、いろんなことを言います。つまり、お父さんは朝ご飯がパンになると不利益をこうむる人なのです。この一家は民主主義的な家庭なので、こうした意見を自由に述べ、議論を要求する権利をお父さんは(一応は)持っています。

 ではありますが・・、この家庭の実質的な支配者というか権力者はお母さんです。お父さんが何か言っても、「うるさいわね、私が決めたんだから、それでいいのよ!」と(最終的には)なるのですが、お母さんもオトナですから、一応、話は聞いてやる、というポーズを見せます。

 お父さんは自分の述べた意見に対し、納得のいく回答があれば、それに従う、と言います。というより、言わざるを得ない。 そこで、出てくるのが「ていねいな議論」というやつです。お父さんが言うところの「ていねいな議論」というのは、決して自分の述べた上記1~5を納得させるような回答を得ることではありません。

お父さんの望む「ていねいな議論」とは、
自分が不利益になることを、いかに回避するか!
 

 この一点にかかっています。 自分の朝食さえ、ご飯とみそ汁が出てくるなら、たとえ自分を除く家族(おじいちゃんは犠牲になってもらう)がパンとコーヒーの朝食になっても構わない。そうなればお父さんはあっさり賛成に回ります。 法的にいうと、例外規定を設けること(いわゆる「骨抜き」というやつですね)に、「議論」の全精力を傾ける。これが「ていねいな議論」の目的です。

 法案に反対する立場の議員(お父さん)は、法案を通そうとする権力者(お母さん)に対し、「ていねいな議論」を求めています。けれどお父さんは、みんなを代表する「議員」として、本当にみんなの利益を思っているのだろうか。 ひょっとして自分の利益だけを、ていねいに守りたいだけでは? という気がどうもするのです。
【よしなしごと0398・2013年10月30日 (水)掲載】

【よしなしごと】シリーズは『tanpoPost』に2004~2013年にかけて掲載したブログ記事です。エッセイ風のショートストーリー、パロディ、ニセ論文、小ネタ、などなど。思いつくままに書き散らした小文をランダムに【選】としてご紹介します。お付き合いいただければ幸いです。

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