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御船山で『楽園』を走る ” 旅先で『日常』を走る ~episode16~ 佐賀編 ”

前回のあらすじ

島原で『乱』を走る

” まるで長崎全体が、巨大な『軍艦島』であるかのように、私には思えてしまうのだ。”


御船山で『楽園』を走る


まずは余談から。
昨夜、出張先の宿で手持ち無沙汰な状況が生じたので、youtubenの動画を適当にボケーっと眺めていた。おそらく世界最大のAIとおぼしきものが私の視聴履歴を基におすすめしてくる動画の中に、こんなものがあった。

視聴後、私の感想はただ一言、「呼子でイカを食いたい!」だった。九州随一のマイナー県である佐賀県だが、じつは私はかなり好きな場所なのだ。
海産物は旨いし、鍋島をはじめとした日本酒の数々、有田(伊万里)焼に代表される焼き物や嬉野・武雄といった温泉の充実度、九州の交通の要衝である鳥栖etc… また、観光客向けに無料wifiを充実させていたりなど、旅人の立場から見るとかなりの好感度だ。ちなみに、ブラックモンブランの生産地であり、熱気球の街でもある。『佐賀インターナショナルバルーンフェスタ』を毎年開催している。

と、ここまで佐賀県のことを褒めたたえてきたが、なにか肝心なものが抜けているような気がする …

そういえば、佐賀県の県庁所在地は佐賀市となっている。おそらく佐賀県全体の司法・立法・行政を司っている地域なのだろう。しかしながら、その存在感は弱いのではと感じる。少なくとも県外の人たちからは、佐賀市の中心地に関するイメージがなかなか湧いてこないのではないか? 皆さん、いかがですか?

皆さんが佐賀市に対してあまり印象を持っていないという前提で、ここからは私が佐賀市を走った時のことを記していこうと思う。

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2018年4月、長崎から高速バスに乗って嬉野温泉で一泊した。到着したのが夜遅くで、翌朝の出発も早かったのであまり周辺を散策することはできなかったが、温泉自体は堪能できた。『日本三大美肌の湯』と称されるだけあって、湯上りにはお肌スベスベになった。満足!

翌日、嬉野温泉から佐賀に向かった。「佐賀県のどこで走ろうかな?」と事前にリサーチした結果どこも思いつかず、結果として県庁所在地に落ち着くという、ランナーとしては気が進まないパターンだった。
11時頃に佐賀駅に到着した。駅前には『ブラックモンブラン』と『熱気球』の広告の嵐。

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そう、私が冒頭でいっちょ前にかました蘊蓄は、この時の学習の結果なのである 笑。いつものように駅のトイレで着替え、駅前のコインロッカーに荷物を預けて、出発しよう。

佐賀駅を起点とした目抜き通りが通っている。この道を真っすぐ進む。駅前に西友がある。私が昔務めていた会社が経営する惣菜店が入っているはずだ。ちょっと寄って行こうか。

西友の入口に張り紙があった。「3月末をもって閉店いたします。」

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県庁所在地の駅前にある唯一のスーパーマーケットが閉店だと?東京に例えると西荻窪レベルの規模の西友が閉店だと?ここは廃墟ですか?それともゲットーですか?山は死にますか?風はどうですか? 愛って林檎ですか?
佐賀店閉店に伴い、最寄りの西友は福岡県春日市とのことだ。まあまあ遠いな… ちなみに春日の西友は私が20数年前に働いてた場所だ。

あまりのショックにやや取り乱してしまったが、気を取り直して走ろう。引き続き、目抜き通りをひたすら真っすぐ進む。道幅は広く、通行人は少ない。県庁所在地の駅周りによくある『株式会社〇〇 佐賀支社』的な建物が見当たらない。佐賀クラスの規模の都市では支店経済も成り立たないのだろう。ランナーとしては嬉しいのだが、心配になるレベルで走りやすい。少なくとも、佐賀市は佐賀県の経済や文化の中心ではないのだろうな、と感じた。

と考えながら走っていると、交差点のあたりにちょいちょい幕末志士のオブジェが設置されている。

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どうやら明治維新150年を記念して『肥前さが 幕末維新博覧会』なるものが開催されているらしい。偉人の説明が書かれているボードにはQRコードが付いており、スマホで読み取ると詳細な情報を得る事が出来るらしい。運営側の気合の入り方を感じる。人通りは閑散としているが。
5分ほど走ると左手に寂れたアーケード、その先には右手に地場の百貨店『玉屋』がある。ここの1階で博覧会の関連イベントが開催されている。ちょっと寄ってみた。幕末に佐賀で活躍した写真家『上野 彦馬』について少しだけ詳しくなった。

玉屋を出てまた走る。ほどなくして佐賀城に到着した。

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立派なお濠があり、目を惹かれた。天守閣は現存しない。内部は緑豊かな公園となっており、『佐賀県立佐賀城本丸歴史館』がある。どうやらここで博覧会が開催されているようだ。中を覗いてみたくなるが、私に残された時間は限られている。その限られた時間で昼飯を食べたいのだ。先を急ごう。

今来た道を戻る。玉屋を越え、アーケードの入口を越え、さらに進む。すると往路では気が付かなかった、年季の入った建物が目に入った。どうやらお店のようだ。『佐星醤油』という看板が出ている。

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中に入ってみる。店内を燕が飛び交っている。頭上注意。奥から女将さんらしき方がこちらに近づいてきたので、色々と質問してみる。
創業120年、築80有余年との事。佐賀は大豆の栽培が盛んで醤油屋も多く、店頭売りよりも配達がメインだそうだ。こちらで、だし醤油と柚子ポン酢を購入した。趣があって良いお店だった。

そのまま進み、佐賀駅前でフィニッシュ。急ぎ気味に着替えて、駅の近くのレストランでハンバーグ(not佐賀牛)を食べた。味もなかなかだったが、一人で接客を担当していた女の子の所作や気付きや対応が完璧だった。数年に一回だけ遭遇できるレベルだ。飲食業の私が、そのまま彼女を東京に連れて帰りたい衝動に駆られたほどだった。

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じつは、佐賀市を走ったエピソードは今回の主題ではなく、前段の小ネタだったつもりだが、思わず2000字ほど費やしてしまった。

ここから本題に入ろう。

2020年7月23日。私は福岡天神に所用があり、早朝の飛行機で九州に上陸した。目的は新規店舗の立地調査で、これは午前中だけで終わる業務だった。行政はこの前日から『GO TO キャンペーン』をスタートさせたが、特に観光客の姿が多くなった実感は感じなかった。しかも私は都内在住であるため、今回のキャンペーンは対象外だ。残念なことである。
所用が早く終わることは事前にわかっていたので、夜は別件の予定を入れていた。佐賀県御船山楽園まで移動して、『チームラボ かみさまがすまう森』を堪能するのだ。もちろんチケットは購入済みだ。しかも今年から新たに売り出された、一日40名限定の『サウナ付きチケット』を入手したのだ。

毎年夏から秋にかけて、九州・武雄温泉 御船山楽園で行う森のアート展「チームラボ かみさまがすまう森」と、サウナシュラン2019で日本一のグランプリを獲得したサウナ「らかんの湯」がコラボレーション。300万年続く自然と1300年の人々の遺産に囲まれた、森と歴史の中のサウナで脳を開き、50万平米の森と庭園に広がるアートを体験し、世界と時間に再びつながる。サウナで五感を呼び覚ますことで、普段の感覚では気が付かない体験を得ます。

JR博多駅から特急ハウステンボス号に乗り、一路武雄温泉駅へ向かった。一時間ちょっとで武雄温泉駅に到着した。今日の宿は駅の真裏にあるビジネスホテル(温泉付き)を予約済みだ。さっそくチェックインしよう。
と、その前に一本電話を入れなければならない。じつはここからの旅程には同行者がいるのだ。この連載を最初から読んでいる方なら、『九州』『同行者』の組み合わせでどなたが現れるか、あらかた想像がついているだろう。
改めて発表しよう。今回の同行者は、大分編にも登場したH氏である。皆さま、盛大な拍手でお迎えください。

H氏は自動車でさっそうと現れた。大分→佐賀間は鉄道よりも自動車の方が圧倒的に所要時間が短い。また、御船山楽園へは自動車で往復するのが最も効率がよいことを、リピーターであるH氏は熟知していたのだ。合流し、さっそくホテルにチェックインする。荷物を置いたらすぐさま『GO TO サウナ』に出陣だ。

車は御船山楽園ホテルの正面入り口駐車場につけた。このホテルの中にサウナミシュラン日本一のサウナがあるのだ。交互浴派の私は、この時点で胸の高鳴りが抑えきれない。入口で検温や手指消毒ののち、フロントに案内される。フロントはこんな感じだ。

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フロントで受付を済ませ、いよいよサウナに突撃だ。場所が場所だけに写真がないのが残念だ。つたない言葉だけでこのサウナを表現すると、「エクセレント」。セルフロウリュー式のサウナも良かったが、圧巻はその後に入った水風呂であった。水温16℃。絶妙の温度設定だ。我々は話しながら3分ほど入っていただろうか? 水風呂をあがった途端の脳内の揺らぎ、これは今までに経験したことがないレベルの物だった。これが整うということだろうか?
その後は屋外のロッキングチェアに腰掛け、陽が落ちるまでの小一時間、チームラボや我々が在籍するPLANETSCLUBのこと、さらには『リングス』のことについて、時には熱く時には緩やかに語り合った。
時刻は19時を回った。まだ日没には時間がありそうだが、そろそろ出発しよう。

お目当てのチームラボ×御船山楽園の展示は控えめに表現しても最高だった。文章で表現するのも野暮なので、画像をいくつか貼り付けるので、堪能してほしい。

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すっかりチームラボを堪能した我々は、宿に戻り、近場の焼き肉屋で佐賀牛を堪能し、部屋に戻ってホテル備え付けのコインランドリーで洗濯をしながら、ZOOMでapplemusicの音源をどうやったら流せるかのレクチャーをH氏から受けた。

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私は旅先では早朝に近場を走ることが習慣になっている。なので翌朝は少しだけ早起きをして、駅の反対側にある丸山を目指してH氏と軽いタンデムランを行った。
ホテルを出て少し線路沿いに走る。ガード下を通り抜けする道を走り抜け、駅の向こう側に出る。道を一つ渡って、住宅街に入る。少し走ったところを右折し、道なりに進む。右手に丸山への入口とおぼしき細い上り坂を発見した。らせん状になった細道をしばらく上っていく。なかなかの勾配だ。昨日は夜更かししてしまったこともあり、そこそこバテてきた。息がつらくなってきたなと感じたところで、細道は終わりを迎え、丸山の頂上に達した。

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なかなかの眺めだ。本来なら御船山を走りたかったところだが、勝手に入るわけにはいかない。今回は、この『ミニ楽園』で良しとしよう。
丸山を下り、住宅街を抜け、ガード下の抜け道を過ぎ左折するとスタート地点のホテルに到着する。到着したその足で、1階レストランの朝食ビュッフェに参加する。旅先での過ごし方として、このモーニングルーティンを私は気に入っているのだ。
朝食後は一旦部屋に戻り、着替えとタオルを持って、ホテルの大浴場に向かった。こちらの風呂は別館の最上階にあり景色が良く、露天風呂などもあり、充実した時間を過ごすことができた。

ホテルをチェックアウトした後は、メディアでも話題になっている武雄市図書館に寄り道した。ここは蔦屋書店が運営する図書館で、カフェや書店が併設されていたり、建物の造りが吹き抜けだったり、木を基調とした内装であることもあり、既存の図書館のイメージはあまり感じられない。

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運営を外部委託することに対して懸念を表明する人も多かったようだが、蔵書数が多く選書もユニークで、すっかり気に入ってしまった。ここだけで一日潰せそうな空間だった。


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武雄市の街並みを観察して、見るからに周囲と比べて裕福な印象を受けた。温泉の存在によって収益基盤が確立されているアドバンテージが大きいのだろう。しかしそれだけではなく、自前の土地や空間に付加価値を付けようと試みているように見える。結果、チームラボやTUTAYAとコラボレーションすることで、地域としての付加価値をつけることに成功しているように感じた。このスタイルは、全国各地の自治体の再生にあたって大きなヒントとなるのではないか?

そして、この恵みの一端でも、県庁所在地である佐賀市に与えられることを願いつつ、佐賀編の結びとさせていただこう。


追記

冒頭の動画『HKT48 × JR九州 みんなの九州プロジェクト』の新作で、なななんと『チームラボ かみさまがすまう森』が取り上げられているではないか!

ロマンシングな佐賀、はじまったな… 

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次回予告


神戸で『満月』を走る

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