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別府で『ふたり』を走る " 旅先で『日常』を走る ~episode5~ 大分編 "


前回のあらすじ

福岡で『A面』を走る

" いつもとは違うルートを走ることによって、主体的に新たな偶然性を生み出し、まだ見ぬ『A面』に接続できる。その街自体をハックし味わい尽くすことによって『ちょっと変わったかたちの日常』を手にし、自分自身の人生が少しだけ豊かになるのだ。"


大分の思い出

過去2回の熊本・福岡編と比較すると、大分に関する思い出といえば、圧倒的にない。というか思い付かない 笑。

いや、思い出した。少しあった。
父の還暦祝いに「どこか家族旅行に連れていけ」と母からせがまれて、2003年に家族で九州旅行に行った。その時に、父のリクエストで大分まで磨崖仏を見に行った。感想は「これが磨崖仏っすか 。デカいね。」くらい。
あとは、一昨年の春に有休を使い西日本旅行をして、愛媛の八幡浜からフェリーで別府に移動してサウナに泊まったことくらいかな?

その程度の思い入れしかない大分にわざわざ一人赴いたのは、他でもなく私が勝手に推進している『47都道府県すべてで走る』という目的があるからである。


ランニングアプリが招いた邂逅

この連載で過去2回にも書いた九州旅。大分にも足を伸ばすことにしたが、前日の昼前になってもどこを走れば良いのか皆目検討がつかない。さてどうしたものか? と考えたところ、一つのランニングアプリを思い出した。

改めて報告するのもなんだが、私はPLANETSCLUBランニング部に所属している。ここのメンバー間で主に使われているアプリが『STRAVA』。

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様々な機能があるが、我々のモチベーションが最も上がる機能は『いつ、誰が、どこを、どのように走ったのか? を共有できる』ものである。一人で走っていても一人じゃないというか、そんな感覚でいられる仕掛け。
フォローした相手や、同じクラブに所属しているメンバーが世界中で日々走っている様子がタイムライン上に垣間見られ、「こんなコースがあるんだ!」とか、「みんな今週けっこう走ってるから、自分もちょっと気合入れよう」とか、楽しく走り続けるためのモチベーション作りに大きく役立っている。

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そこで思い出したのだ。メンバーに大分在住の人がいることを。その方の名はHさん(仮名)。
さっそくFacebookメッセンジャーで接触を試みる。

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ん? もしかしたら一緒に走れるかもしれない感触が。それなら先方の都合に合わせて夜ランとかでも面白いかな?

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んん? 早退させてしまった… 。しかも前日にアポ取って。恐縮しきり。チャットではずいぶんと人が良さそうだと感じたが、実際どんな方なんだろうか?

とにかくまだ一度もお会いしたことがない方と、大分を二人で走ることになった。

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翌日の昼下がり、博多バスターミナルから高速バスに乗り込んで大分に向かった。

さて、今から会いに行くHさんについて。同じオンライサロンに所属し、顔と名前くらいは知っている。とはいえ実際に会ったことはなく、話したこともない。
お互いが走った記録を見て、STRAVAの画面上で『Kudos』(facebookでいうところの『いいね』)を飛ばしあうくらい。あとzoom会でチラッと拝見したことがあるので、なんとなく部屋の感じもわかる 笑。アウトドア系&ファッションにはこだわりがあるイメージ。

なんかオラオラ系とか車改造してる感じの人だったら怖いな。 サブカル好き文化系男子だったらいいな。まあ、PLANETSCLUBのメンバーならその辺は大丈夫だろう、多分…

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道すがらFacebookのプロフィール欄を開き、Hさんの個人情報を漁った。なにしろ情報源はFacebookとSTRAVAのみである。個人情報保護の観点から、ここでは詳細の記載を控える。あしからず。

一方で向こうは私に対してどのくらいの予備知識があるのか、まったく想像がつかないのである。
たぶん男性であることとオッサンだということくらいは承知されてるかな?などと思いを巡らせているうちにバスは大分駅前に到着した。

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「この辺で待ってればいいかな」と持ち前の雑な判断で、阿蘇市と竹田市がワールドカップ観戦に来日した欧州の富裕層を狙ってPR活動に励んでいる、ブースの辺りに陣取った。観光客と思われたのか(実際そうだが)、観光大使的な女性から何やらいろいろ詰め込まれた袋をいただいた。

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程なくして、Hさんも近くまで来ているとの一報が。「俺の顔知ってるのかな?」と若干不安を覚えつつ周囲を見渡していると、視界の右側からHさんが急速にフレームインしてきた。
よく覚えてはいないが、おそらく「はじめまして」的な挨拶ではなく、「どうしたんですか?いきなり九州まで」とか、そんなファーストインパクトだったと思う。話しやすそうで安心した、という出会い系の待ち合わせ的な第一印象であった。


初対面の『同行二人』

Hさんオススメのコースは、別大毎日マラソンでもお馴染みの別府湾沿い。西大分〜別府の海岸線沿いの国道を走り抜ける7kmほどのコース。スタート地点までは一駅。それでは電車で移動しようという事に。

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走る前に、まずはお互いを知るところから。道中の車内で、年齢・趣味・職務経歴・志望動機・希望勤務地(一部誇張あり)などをどちらからともなく話す。歳も近いし、高校時代にラグビー部だった共通点も。超絶人見知りな私でも、これなら間が持ちそうな気がして、一気にリラックスした。

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西大分駅に到着し、いよいよ走る。
2019年10月8日、日没時刻は17:50。日が暮れるまでの小一時間をふたりで走る。

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右手に別府湾の眺め。浜風が心地よい。海の眺めは単調に見えて、じつは細かくその姿を変えていくので見ていて飽きない。海水浴シーズンは過ぎたが、田ノ浦ビーチで遊んでいる人たちも多い。

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左手には猿山でお馴染みの高崎山。青々として大きい存在感を放っている。まだ紅葉には早いようだ。山の稜線から西日がさしてくる。

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この時間帯の日射しが好きだ。昼間は高いところから見下ろしている太陽が、自分が立っている高さまで降りてくる。この時間帯に走ると、一人で走っていても誰かが伴走している錯覚に陥ることがある。疲れていたり、なにか優れないことがある日には、この時間に走りたくなる。
しかし今日だけは、実際に伴走者がいるのだ。

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辿るルートはほぼひたすらに道なりで、道に迷ったり行き先を見失ったりすることはないかもしれないが、自分のために時間と労力を費やして私を導き、もてなしてくれる相手がいる。それだけで、私にとって『私幻想』であったランニングが『対幻想』に変貌した。ひらたく言うと、『どこを走るか?』を『誰と走るか?』が追い越したのだ。
今回に限って走っている時の風景描写が少ないのは、以上の理由からである 笑。

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とりとめのないことを話しながら、別府まで走り抜いた。そろそろ夕闇がそこまで迫ってきている。走った後にはとりあえず汗を流したい。なにしろ今日の宿は下関だ。この後電車に3時間ほど揺られなければならないのだ。
そして、ご存知ない方はさすがにいないと思うが、ここ別府は日本、いや世界に名だたる温泉地である。Hさんチョイスのイカした温泉施設で汗を流すとしよう。

… 定休日だった。この界隈は火曜定休の店が多いらしい。
温泉街をしばらく先に進み、マンガにでも出てきそうな古き良き温泉銭湯を発見して、そこに入った。

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入浴料は110円(税込)。支払い方法は現金かPayPayの二択であった。Hさんは颯爽とPayPayで私の分も支払ってくれた。

男湯の暖簾をくぐる。吹き抜けになっていて、下が浴場・上が脱衣所という構成。浴場の全容は、小さめの浴槽が2個・洗い場が1個。以上。
質実剛健というかシンプルイズベストというか。設備はかなり傷んでいるところもあるが、さすがの風格。
居合わせた地元の爺さんに話しかけられるなどのイベントも着実に消化しつつ、我々はランニングでかいた汗を流し、疲れを癒した。

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風呂上りにはビールが付き物である。『ラン&ビール』などと最近の流行に乗るわけではないが、やはり抜群に美味い。飲みながら互いの近況などを話し、そろそろ時間かなという頃に突然、Hさんの学生時代の友人が地鶏屋を経営しており、そこの料理が抜群に美味い(語彙力)という話になった。
急がねば、と会計を早々に済ませタクシーに飛び乗り、その店に移動した。

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その店は、一歩足を踏み入れた瞬間に「これはいい店だ」とわかるような、満席の店内の活気と雰囲気であった。そして、味は今までに食べた地鶏とは別次元。塚◯農◯の地鶏も上質なのだが、鮮度だけはどうしても現地には敵わないのかな?などと思いつつ堪能した。

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電車の時間があるため、滞在時間は15分だった。

大分駅で再会を誓って解散。しばしのお別れだ。Hさん、ありがとう。また会う日まで!
私にとって、大分が特別な場所になった一日だった。

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『多くの視点』と『距離感の変化』

伴走者と共に走る。これは一人で走る事とは異質の豊かさがある。
まず、誰かと走ることによって『場所』との距離感が変貌する。
『場所』と『私』の二者に『誰か』が加わり三者関係になることによって、世界が立体的になるのだ。私と誰かの関係性は『場所』という共通項を媒介にして深まっていく。

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また、伴走者の存在によって私と場所の濃密な関係性は薄まってしまう反面、自分だけで走る時とは違うルートになったり、同じ場所を走っていても違う視点で景色を見ていたり、普段とは違った発見があったりする。つまり、自分の中に新たな視点や知見を獲得する機会となるのだ。


伴走者と走ることが日常を豊かにすることにつながっていく。これもランニングの持つ幸福な側面なのかもしれない。


追記

伴走者からの アンサーnote



次回

多摩川で『外部』を走る

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