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馬込から 大田区縦断 多摩川を 折り返しにして 洗足池へ “ 東京そぞろ走り #1 ”


週末に、夕方の街を走るのが好きだ。

私の住み処は、海沿いの街にある。自宅からわき目も振らずに4kmも走れば海にたどり着けるような場所だ。午後の日差しが山側から海側に向かって、低い角度で差し込んでくる。この時間帯特有の、太陽の光を背負って走る感じが好きなのだ。

行き先は海ではなく、川や運河にすることが多い。
対岸の景色を眺めながら、日が暮れる前の一時間くらいだけ味わえる特別な空気感を身体全体で味わうために、多少疲れていようが眠かろうが無理にでも身体を起こして走り出す。

とはいえ夏場は夕方になっても暑さがやわらぐことはなく、また今年はお盆からずっと天候や気候が不安定で私の体調まで不安定になってしまい、ここ数ヶ月はあまり走る機会に恵まれなかった。しかし、10月に入ってようやく気候が安定したようだ。ランナーにとって快適な季節が、ここからしばらく続く。

しばらくランニングを疎かにしていたせいか、それともコロナ禍の影響なのか、最近すっかりウェイトオーバー気味だ。あと少しで、1981年当時の池中元太の体重に追いついてしまうほどだ。さすがに焦りをおぼえてきた… 
この秋は、ちょっと気合を入れて走ることにしよう。そう決意した。

週末の昼下がり、私はおもむろに着替えをリュックに詰め込みはじめる。今日はどのルートを走ろうか? と午前中からずっと考えているが、思いついた場所がどこもいまいちパッとこないまま、ズルズルと時間だけが過ぎていく。結局、いつものコースを走ることにした。

15:00頃になってようやく着替え始め、準備体操を行うとなんとか心身ともに走る準備が整った。ここまでが、毎週末に繰り広げられる私のルーティンである。

ランニングシューズに足を通し、AirpodsProを両耳に装着する。スマホにランニングアプリ『STRAVA』をセットしたら、いよいよスタートだ。

我が家は路地裏のどん詰まりに建っている。門を出るといきなり13段の階段を下る。下りきったところ、左右に道が通っている。右手には、近所に暮らす人たちの間で「お化け階段」と呼ばれている、34段の階段がある。

ここは荏原台の際地、丘の上に位置している。階段を下り切った100mほど先に内川の源流がある。そこは今では暗渠になっているが、私が子供の頃には小川の流れを見ることができた。

極力スタミナを消耗したくないので、アップダウンが激しいルートを取ることは禁物だ。ここはおとなしく、左に曲がることにしよう。

まずは、私道を120〜130mまっすぐに進んでいく。

この道は今でこそ舗装されているが、ほんの30年くらい前までは砂利道の真ん中に石畳がお情け程度にしつらえられているデコボコ道だった。自転車でこの道を通行すると年に数回はタイヤがパンクするくらい、この道は整地されていなかったのだ。その記憶のせいか、今でもこの道を走る時は過剰なほど足元に気を遣ってしまう。

路地を抜けたところで、左に曲がる。50mほど進むと、イオングループが運営する生鮮コンビニ『まいばすけっと』に至る。その手前に、宅配便ロッカー『PUDO』がある。

こんな住宅街の真ん中にコンビニがあることも珍しいが、それ以上にPUDOの存在が周囲から浮いている。

じつは、私がメルカリに出品していた本がつい先ほど売れたので、リュックの中に入れてここまで持ってきた。このロッカーから出荷するのだ。スマホの画面にQRコードを表示させ、ロッカーの端末にかざす。あとは端末のタッチパネルに表示された指示に従っていくだけで出荷業務が完了する。便利な世の中だ。

再び走り出し、300mほど先の緩やかな坂を下りきったところで、また左に曲がる。少し直進すると環七にぶつかる。信号が青に変わるのを待って、夫婦坂を上る。この上り坂では無理をしないで、スピードを緩めて進まないと後半になってバテてしまうのだ。慎重に上っていく。

夫婦坂を上りきると、一転して1kmほど緩やかな下り坂『学研通り』が続く。その名のとおり、かつてはこの通り沿い右手に学研が本社を構えていたのだ。
学習や科学といった子ども向けの知育雑誌、さらにはオカルト雑誌『ムー』までもこの一帯で作られていたのだろう。そういえば先ほど通り過ぎた環七沿いには、リコーの元本社があった。今では研究所的な施設になっているが。

閑話休題。
下り坂を進んで行く。中馬込から右手に高級住宅地である上池台を臨み、南馬込に入る。左手は台地になっており、けっこうな勾配の坂道が何本も通っている。学研通りを下りきったところで道なりに左に曲がり、すぐに高架をくぐる。

この一帯は、道々橋と呼ばれている。高架下にはバス停「上池上」があり、複数のバス路線の乗り換え地になっている。頭上を走る路線はJR横須賀線と、東海道新幹線だ。

大田区は70万人以上の人口を擁しているが、JRの駅は大森と蒲田の2駅しかない。その代わりといってはなんだが、東急電鉄が縦横無尽に鉄道を敷きバスを走らせ、京浜工業地帯の中核として発展させた。しかし、区の西部に広がる住宅街からは都心へのアクセスが良好とはいえず、このあたりに横須賀線の駅を誘致しようという動きもかつてはあったほどだ。

高架を越えると、すぐ先の道が2つに分かれる。左に進めば池上本門寺の裏門、右に進めば多摩川方面に行ける。ここで右に舵を切る。

少し進み、橋を渡り呑川を越える。

大田区を東西に流れる河川であり、区民にとって親しみ深い川だ。水質汚染により常に異臭を放ち、下流域では数年に一度水死体が上がる。

橋を渡るとすぐに、上り坂に差し掛かる。

この坂が、今日のルート最大の難関だ。
序盤のペース配分を間違えると、ここを上り切ったあたりですっかり息切れしてしまう。夏場に走る時には、この坂の上を第一休憩所にすることが多い。しかし、幸いにも今日は万全の準備を整えた上で臨んだので、この難関も無事クリアーした。

坂を登り切ると、しばらくは平たんな道が続く。左手に道祖神を見つけた。一旦立ち止まり、手を合わせる。

そういえば私は幼い頃、近所にある道祖神の前を通るときには、必ず手を合わせる子どもだった。それから30年経って、姉一家が実家に里帰りしてきた時に、甥っ子がかつての私と同じように近所の道祖神に手を合わせていた。それを見て「こういうのも遺伝するのかな」となんとなく気になり、それ以来道祖神をまた気にするようになったのだった。

平たんな台地を、ひたすら直進すると、右手にセブンイレブンがある。夏場はここで飲み物を買って水分補給するが、今日はすっかり秋の気候だ。汗もそんなにかいていないので、スルーしてなおも進む。

だんだん陽が傾いてきた。視界に赤みが増し、影が深くなる。右手には東急池上線の久が原駅まで続く商店街の入り口が見える。さらにまっすぐ進み、弁当屋のすぐ先を左に折れ、下り坂に入る。

下りきったところを、池上線の線路が横切っている。

踏切を越えて、まっすぐ進む。この道の一本右の通りには『昭和のくらし博物館』という建物がある。

そこは戦後すぐに建てられた民家なのだが、建物が当時のまま保存されていることと、かつて暮らしていたスズさんというお婆さんが家事労働をしている様子が映像に残っていることが特徴の施設だ。映画『この世界の片隅に』を製作する際には片渕監督がたびたび訪れ、時代考証の頼りにしたとのことだ。私もランニング中に寄ることがあるのだが、今日は時間がないのでこのまままっすぐ進む。

進むうちに、さらに下り坂に差し掛かる。坂を下りきったところで環八に突き当たる。少し左に進んだ先の交差点で、環八を渡る。

渡ったすぐ左側から伸びている道に入り、進んで行く。今度は多摩川線の線路が道を貫いている。踏切を越えると、並木道になる。そのまままっすぐに進む。街路樹が夕方の陽ざしを遮り、快適だ。しかし、そろそろ走り疲れてきた。

右手にセブンイレブンがあった。ここで休憩と水分補給をすることにしよう。

ランニング中に飲むのは麦茶かスポーツドリンクが多いが、セブンイレブンには『イノセント』というフルーツドリンクが置いてあるので、それを選ぶことも多かった。しかし、イノセントは9月末で出荷を終了したとリリースがあった。
「もしまだ店舗在庫があったなら飲んでみたいな」と思い棚を探すと、なんとまだ置いてあった!

アップルとオレンジを購入し、アップルはその場で一気に飲み干した。オレンジはあとで飲もう。

休憩を終え、またまっすぐ進む。右手には世界的な大企業、キヤノン本社がある。

門前では警備員が見張り、中には日曜日なのに勤務している人がいる気配がある。皆さま、お仕事お疲れ様です。私は休みです。

その先の緩やかな上り坂を500mほど進むと、多摩川土手に到着した。目の前はガス橋。この橋を渡ると神奈川県だ。

右に曲がり、適当な木陰を選んで腰を下ろす。そのままそこに大の字になり、休憩する。

目の前を日が沈んでいく。

しばらく見つめているが、まぶしくて目がチカチカになり、目を閉じる。心地よい風を汗ばんだ皮膚に感じ、マスクを外した鼻先には草々が発する匂いが纏わりつく。
木々が風にざわめく音、河川敷でサッカーに興じている子どもたちの声、遊歩道を通り抜ける自転車の走行音、散歩している犬の鳴き声。

視覚を閉ざすだけで、それ以外の情報が圧倒的な量と勢いで迫ってくる。なんとなく走り出しても大概ここに来てしまうのは、この感覚を味わうためなのだろう。

あまりゆっくりしていると日が暮れてしまう。明るいうちにゴールしたい。そろそろ先を急ごう。私はイノセントのオレンジを飲み干すと立ち上がり、ランを再開した。

ここからは多摩川の遊歩道をひたすら進んで行く。

休日の夕暮れ時は散歩やランニングをしている人が多く、ぶつからないように気を張りながら進む。土手の上から河川敷を見下ろしながら走っていく。野球グラウンドでは私の母校である都立小山台高校がよく練習試合をやっているのだが、今日は違うチームが練習しているようだ。

1kmほど進むと人はまばらになった。スピードを上げ、一気に進む。右手にはラグビーの強豪校である東京高校がある。土手にある高校なので、地元では「ドテコウ」と呼ばれている。

さらに1kmほど進むと遊歩道はJRの高架に阻まれ、道は土手を下り高架下をくぐるかたちになる。今日2回目の高架下。同じ線路を違う場所で2回くぐる。高架下を抜けると、左手には武蔵小杉のタワマン群がそびえ立っていた。

一昨年の今頃、超大型台風の影響で多摩川が増水した時、あの一帯は水浸しになってひどい目に遭っていたな、などとふと思い出しつつ、また土手を上る。

上りきった視線の先には丸子橋が架かっている。

丸子橋のちょっと先を右に入り、多摩川駅から目黒線に乗って近所の銭湯まで行くのがルーティンだが、今日は走り足りない気分なのでちょっと寄り道をすることにした。

両側に幟が立っている階段を上る。

上りきったところに『浅間神社』の鳥居が立っている。ここは映画『シン・ゴジラ』でゴジラの東京上陸を阻止せんと自衛隊が拠点とした砦だ。

残念ながらゴジラの侵攻は止められず、多数の犠牲者を出してしまった。残念。

高台に展望スペースがあり、10数人くらいの人たちが景色を眺めている。ちょっと寄ってみよう。

この季節の夕焼けはとりわけ鮮やかで、ついつい見入ってしまう美しさ。

見とれているうちに本格的に時間がなくなってきた。そろそろ、戻ることにしよう。丸子橋に戻り、中原街道をもと来た方面に進んで行く。

緩やかなアップダウンを2回繰り返し、3㎞ほどまっすぐ進む。右手に雪が谷大塚・石川台の駅をながめ、奥沢から流れてきた呑川を越えた。

大岡山駅入口の信号を越え少し進むと、左手に洗足池が現れる。通り過ぎたところで左に曲がり、反時計回りに洗足池を一周するルートに入った。

家族連れでにぎわう公園を横切り、池の端を右に曲がる。

公衆トイレの先、左に曲がる2本の道がある。一昨年の夏、私はこの左側の道を走っている時に泥濘に足を取られ盛大に転倒し、左手首を骨折したのだ。

私と同様の事故が多発したからなのか、左側の道にもつい最近石畳が追加された。

せっかくなので左の石畳を進み、池岸に出る。

ここが私のお気に入り休憩スポットその➀だ。

両側の木々、中央の池、そして対岸の建物群。バランスが絶妙だ。

今日は時間がないので写真撮影のみとし、また走り出す。

日が沈みかけているので、人影が一気に減りだしている。

細道を抜けると、左に太鼓橋が架かっている。

見栄えはいいのだが走るのには適していない形状なので、ここは渡らずに大回りして進むことにした。

大回りして池岸のルートに戻ると、ベンチがいくつか並ぶスポットがある。ここが私のお気に入り休憩スポットその➁だ。

ここから見える景色には、池以外のノイズが存在しない。ゆっくりと考え事などしながら過ごすには最高のポイントだ。

去年のGW、早朝に走り5:55にZOOMをつなぐイベントを行ったのだが、私はこの場所から参加した。

ベンチに腰を掛けると、もう走る気がすっかり失せてしまった。今日はここをゴールとしよう。

ここから我が家までは2kmほどあるがとぼとぼと歩き、中間地点にある銭湯『記念湯』で汗を流し、歩きビールで家路に向かうとしよう。
私の休日は、かくして健康的なのか自堕落なのかよくわからない感じで過ぎていくのであった。

おしまい。

【今日の一句】

” 秋晴れに いつものルートを 走る午後 "  

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