「ショートショート」 言の木の葉っぱ。
私はここの神社の売店で、目の前の言の木から収穫されたばかりの言の木の葉っぱを売っている。
春風に吹かれて、言の木のシャラシャラとそよいでいる音に眠気が誘われコクコクとしていると「すみません。言の木の葉っぱが売っているのはここですか?」っと、女子高生が話をかけて来た。
「ここですよ。1枚300円になります。因みに売る前の決まりでどんな事を言の木に残すのか、聞く事になっているのですが、聞いてもいいですか?」
「はい。1週間前に大好きな彼氏と別れて、それで、大好きだよ。って言の木に残して、前に進もうって思って来ました」
「今が一番辛いですね。言の木の葉っぱに想いぶつけて下さい。1枚300円になります」
そして、言の木の葉っぱを買った女子高生は、口許に言の木の葉っぱを当ててゴニョゴニョ言っている。すると言の木の葉っぱに文字となって吐いた言葉が染み付く。「大好きだよ」っと。
そして、その女子高生は自分が吐いた言葉が染み付いている葉っぱを、目の前の言の木に結びつけると、スッキリとした顔で帰って行った。
次の日、言の木を眺めている、小さな女の子が言の木から、昨日女子高生が吐いた「大好きだよ」って染み付く、言の木の葉っぱを「これ下さい」っと持って来た。
「うん。いいよ。300円になります。後、売る前に何に使うのか聞く、お約束なんだけど、その言の木の葉っぱをどうするの?」って女の子に聞いてみた。
すると、女の子はモジモシしながら「えっとね。私のお父さんがお仕事で毎日遅くて、いつも頑張って起きてるけど、寝ちゃうから、お手伝い頑張って貯めたお小遣いで、お父さんに、この葉っぱを買ってプレゼントするの」っと300円を渡して来た。
「お父さん、絶対喜ぶよ。この葉っぱをね、頭にかざしたら、大好きだよ。って頭にピュンって飛んでいくからね」っと、大好きだよ。っと染み付いた言の木の葉っぱを女の子に渡すと、女の子は持って来たハンカチで綺麗に包み「お父さんが、これ開けるの楽しみだな」っと言って手を振って帰って行った。
次の日、言の木の葉っぱを下さいっと、きょろきょろ辺りを気にしながら、怪しい男がやって来た。
「300円になります。因みにどんな事を言の木に残すのかを聞くのが決まりなってて、私が売れないっと思ったらお断りしています。因みに嘘を付いても、後から私が言の木を確認して不適切な発言と判断した場合、外す事になっているので、ここで嘘はつかないで下さい」
こういった人は私の経験上お断りしているケースが多い。死ねっとか、消えろっとか、暴言を吐くパターンの人。そう言う言葉は言の木を枯れさせる原因になるので、予め用意してあるマニュアルの対応をとる。
「ずっと見てるから。って残したい」その男はそう言って写真を見せてきた。被写体が遠いが女性を写した写真。
「それで、この女性とはどう言う関係ですか?」
私は一瞬眉を顰めながらも、その男が嘘をつく暇がない様、言葉を重ねる。
「端的に言うと、僕は、この女性のストーカーでした。っで、ずっとこの人を後から付けて見てました。そしたらこの人の事が少し分かったんです。この人は朝から晩まで働いてました。そして、身体が不自由なお母さんの看病をしていて、それを見ていたら気付いたんです。影から、こそこそじゃなくて、正面からずっとみてるからって言える男になろうって」
そう言って男性は真っ直ぐ私を見つめた。
「分かりました。300円になります」
男性は言の葉を口許にあてゴニョゴニョ言うと、眉に決心を固め、言の木の葉っぱに「ずっと見てるから」っと染みた葉っぱを結んで帰って言った。
日が暮れて、そろそろ売店を閉める時間になる頃、疲れたサラリーマンが、さっきのストーカーが残した「ずっと見てるから」っと染みた言の木の葉っぱを持って来て「これ下さい」っと蚊が鳴く様な声で言ってきた。
「300円になります。でも、買う前に何に使うのか聞く決まりがあるのですが、言の木の葉っぱを何につかいますか?」っとそのサラリーマンに聞いた。
すると二シャリと笑ったその男性は「いやねー。次、昇進の試験があって、部長に僕が課長に上がれる様に、ずっと見てて欲しくてね。でも、あの部長のやつ、僕じゃなくて小谷を押そうってしててさー。仕事できねーくせに、小谷のやつ女だからって、部長に女の武器使いやがっよぉー。でも、仕事頑張りたいじゃない?仕事で認めて欲しいじゃない。君だって、そうだろう?ずっと、このままそこで売店の販売員って詰まらない人生は嫌じゃない?僕だって同じだよぉー。だからね、ずっと見てるからってこの葉っぱに惹かれてね。これ頭に翳したら、部長が僕をずっと見てるって思えるんだよ。そしたら頑張れるじゃん。飛べるじゃん。だからコレよこせよ」
そう言って、300円を私に投げ捨てると、「ずっと見てるから」って書いてある言の木の葉っぱを頭に翳し、目がトローンとなると鞄から栄養ドリンクを出し、一気に飲み干すと「やるぞー」っと奇声を発しながら、暗闇深まる神社をかけて行った。
でも、そんな私は冷静だった。
たまに神社でもどうしようもない人が来るから。
おしまい。
tano
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