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すぐに役に立たなくていい。「一緒にゲームしようよ」から始める探究とは?

コロナ禍で一変した、私たちの生活。その影響は子どもたちにも及び、「子どもの育ちや体験の減少が気になる」という声も子育て世帯から聞かれています。こんな時期だからこそ、子どもに合った探究型の学び場を探しているご家庭も多いのではないでしょうか。

今回は、オンライン探究型通信教育「tanQuest(タンキュークエスト)」を届ける森本佑紀さんと、探究から創造までの「生みだす学び」に特化した探究学習塾「エイスクール(a.school)」代表の岩田拓真さんに話を聞きます。

おふたりの共通点は、「遊び」を入り口にした探究を子どもたちに届けていること。一見「学び」とはかけ離れているようにも思える「遊び」を、どのように活用しているのでしょうか。聞き手は「Q」責任編集・炭谷俊樹です。

学校では味わえなかった、学ぶ楽しさを子どもたちへ

——今回は「遊び」を探究に取り入れているおふたりが話したら面白いんじゃないかと、対談を企画しました。おふたりは、どのような子ども時代を過ごしていましたか?

森本:「学ぶって楽しいな」「知るって面白いな」というところから、この世界には面白いことがたくさんあると子どもたちに感じてほしい。そんな思いで、探究型通信教育「タンキュークエスト」を届けています。

僕自身は、勉強の面白さに気づいていない子どもでした。小さな頃は勉強も運動もできて、「自分はスーパーマン」と信じていました。けれど受験して入った中高一貫の男子校では、下から2番目の成績。自分の存在を否定された気持ちになっていました。

でも、大学ではいい教授との出会いがありました。経営学部だったのですが、その教授は花王の経営戦略と界面活性剤の話を結び付けて話してくれて。「みんなが納得するような一般解はない。君たちは自分なりの正解を見つけていかなければならない。だから、勉強は必要なんだ」と教えてくれました。そのとき、初めて「勉強って面白い!」と思ったんです。

そこから、初めて自分で本を手に取って勉強をするようになりました。「こんなに勉強が面白いなら、もっと早くに教えてほしい」。そんな気持ちからタンキュークエストを始めました。

私たちの特徴は、世界への入り口としてキャラクターが載ったボードゲームを使っていることです。ボードゲームで遊ぶ体験の中に、学びが組み込まれています。いろんな学問をテーマにしたボードゲームで遊び、面白いと感じる経験を繰り返すことで、「学ぶって楽しい!」という体験をつくっていけると思っています。

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——ボードゲームが入り口だと学ぶことへのハードルが下がりますよね。岩田さんはどのような子ども時代でしたか?

岩田:探究学習に特化した「エイスクール」という学習塾を運営しています。僕自身は、小さい頃からいわゆる「探究っ子」でした。面白いなと思うものを徹底的に学ぶタイプだったんですね。

石に夢中になって、ひたすら石を集めたり、将棋などのアナログゲームに熱中したり。自然の中で遊ぶことに夢中になっていた時期もあります。中学生の頃はパソコンにハマって、分解して自分でつくったり。大学生になってからは新聞をつくって発行したり、お祭りの企画運営をしたりもしました。

本当にいろんなものに興味関心を持っているタイプでしたね。反対に、いろんなことを覚えないといけない学校に合わせることは、少し苦手でもありました。

子どもの頃に、何かに夢中になった経験が、今の私の土台になっています。「こうした探究的な学びがどんどん広がっていくといいな」という思いで、探究的な学びを中心にした学習塾を立ち上げました。

日常の中にはいろんな面白いものがあって、日々子どもたちは学んでいると思うんですね。遊びの中でも、子どもたちは学んでいます。でも、勉強以外の時間は学びと捉えられていないこともすごく多いんじゃないのかな、と。この時代に合わせた形の学びを子どもたちに届けるために、今僕たちのノウハウを広げていっているところです。

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ボードゲームでの遊び×オンラインで勇者や賢者に

——タンキュークエストでは、具体的にどのようなコンテンツをつくっていますか?

森本:学問をキャラクター化してつくったボードゲームを毎月子どもたちへ届けています。子どもたちが遊ぶ中で自然と学べる設計にしていて、化学、免疫、英語、DNAなど、いろんなテーマを扱ってきました。各テーマで「こんな視点で世界を見たら面白いかもね」と子どもたちに伝えているんですね。

例えば、化学をテーマにした元素のボードゲーム「アトモン」では、子どもたちに親しみのある神経衰弱と化学を組み合わせました。まず、学問への入り口を概念化して「化学とは合体である」ということを伝えます。

「アトモン」はモンスター化した原子を合体させると、分子のモンスターを召喚できるというルールです。子どもたちはモンスターが描かれた原子カードをめくって、どうしたら分子のモンスターをつくれるかを考えます。

「二酸化炭素をつくったよ」「酢酸がつくれたよ」と、あくまでも子どもたちは遊んでいる感覚なんです。たとえ言葉を覚えるのが嫌いだったとしても、子どもたちはキャラクター名をあっという間に覚えてしまいます。今年、小学館さんと一緒に化学の魅力が詰まった小冊子と「アトモン」が入った『タンキュークエスト 原子のモンスター アトモンはじめてBOOK』もつくりました。

——「召喚」や「合体」など、子どもたちに身近なゲーム用語を使って、化学に興味を持ってもらう。すごくわかりやすいですよね。

森本:ボードゲームに出てくるキャラクターを僕たちは「ガクモン」と呼んでいます。小学校から高校までの学問用語を使っているので、子どもたちは知識を身に付けながら遊ぶことができます。

でも、遊んで終わりではないんですね。例えば、「これとこれを合体したらアルコールができるんだよね」という化学の話が日常で行われたり。「身の回りのものは、何と何の合体でできているんだろう?」という新たな問いが生まれたりもしています。

ボードゲームを届けるだけではなく、毎週「タンキューパーティー」というオンラインクラスも行っています。親子か子ども同士でチームを組んでいろんなミッションに挑むのですが、子どたちは自分に合った役割を選んで対話に参加できるシステムをつくっているんですね。

司会や発表をする「勇者」、話し合いで出たことなどをメモをする「賢者」など、いろんな役割があります。1人で全部のことができなくても良くて、それぞれがありのままの役割でお互いを生かし合うような体験を届けたいと思っています。

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投資家・エンジニアなどの仕事になりきってアウトプット

——新しいコミュニケーションの取り方が面白いですね。エイスクールではどのような授業を行っているのでしょうか。

岩田:エイスクールでは小学生を対象に、仕事体験から学ぶ「なりきりラボ®」「おしごと算数®」という授業をしています。「コンビニ店長」や「ジャーナリスト」など40近くあるテーマのなかから、一つの仕事を2ヶ月間じっくりと体験します。その仕事の世界感に浸ってプロになりきること、実践してみることを大切にしています。

最初の1ヶ月はクイズやミニワークをとおして、その仕事がどんな仕事かを知るインプットの期間。2ヶ月目は、その道のプロが挑むような創造的なミッションに挑戦するアウトプットの期間です。身につけた知識を活用して、0から1を生み出すアウトプットの学びにエイスクールは特化しています。

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例えば、「なりきりラボ®」の「メカエンジニア」の授業では、前半の1ヶ月で手を動かして遊ぶうちに機械の仕組みを理解します。ボウリング場のボールが出てくる機械の仕組みに関するクイズをしたり、実際にいろんなボールペンを分解して遊んだり。自動改札機の仕組みを想像したり、段ボールでちょっとしたキットをつくって遊んだりもします。

後半の1ヶ月では、「オリジナルの仕組みが組み込まれたダンボールメカをつくってみよう」というミッションに挑戦します。ミッションは一人ひとり自由度があって、何をつくっても良いのですが、あくまでメカエンジニアになりきってアウトプットをするんですね。子ども一人ひとりのやりたいことを実現できるように、余白を大切にしています。

「おしごと算数」の授業でも、「なりきりラボ」のように2ヶ月間で一つの仕事を体験するのですが、身の回りの仕事と算数のつながりを感じられる設計をしています。図形センスを磨く「ロゴデザイナー」、確率的思考を身につける「投資家・ギャンブラー」、データから未来を読み解く「未来予報士」などの授業があります。

——僕も子どもの頃にこんな授業を受けたかったです。当時の学校の授業の多くはつまらなくて。こんな授業だったら楽しく集中できますよね。

岩田:年長から小学1年生を対象とした「あそびツクール」という授業もあります。「遊びの夢中が最高の学びになる」をコンセプトに、五感をいかした数々の遊びをとおして、自然と思考力や表現力の土台が整えられるようなプログラムです。1ヶ月毎にテーマを設定しています。

例えば、身の回りの物を測ってぴったり100グラムを目指す「たんいあそび」、いろんな装置をつくって実際にどんな動きをするかを見てみる「そうちあそび」など、たくさんの「探究あそび」があります。今年出版した『「勉強しなさい」より「一緒にゲームしない?」』では、家庭でできるいろんな探究あそびを紹介しています。

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子どもたちにとってはあくまで「遊び」という認識なのだけれど、実は学びと表裏一体というか。夢中に学ぶ姿勢は遊びの没頭体験から始まるのでは、と僕たちは考えているんです。

探究は、大人から見た「役に立つ」じゃなくていい

——岩田さんが、「仕事」というメタファーをプログラムに組み込んだのにはどのような背景があったのでしょうか。

岩田:子どもの頃は「大人や仕事はつまらない」というイメージがあったんです。でも、大人になるにつれ、全然そんなことはないと気づいたんですね。

いろんな人がいて、つまらなそうに仕事をしている人もいれば、人生をかけてすごく面白そうに仕事をしている人もいる。仕事の本質に向き合って、楽しみながら挑戦し続けている人たちに出会ったんですね。

いわゆる業務としての仕事というよりは、生き方としての仕事の本質を子どもたちに伝えたいなって。仕事の持つ面白さを伝えて、仕事観や生き方など、何かを見つけるきっかけになったら嬉しいです。僕たちはどの仕事にも面白さがあると思っています。

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森本:本当にそうだなと思いつつ、タンキュークエストでは別の観点も大事にしています。ジョン・デューイの『民主主義と教育』を読んだとき、ハッとさせられた問いの1つは、「子どもがトマトに興味を持ったらどうするか?」というものでした。

大人からすると、トマトを探究することは役に立たないと思うかもしれない。でも、それがその子が自分から発した問いだったとしたら? 主体的にトマトを観察して、それを探究していくという意味でいうと、それはものすごく大切なことだと書かれていたんですね。

岩田さんのお話にはすごく共感しますが、「大人から見て役に立つ、社会と接点があるように見えることだけが、果たして探究のテーマなのか」という問いも成り立つと思うんです。

僕たちは漢字をテーマにしたボードゲームもつくっています。でもパソコンやスマホでの入力が当たり前になりましたし、漢字の書き方などはテクノロジーが発展したら学ぶ必要がないかもしれない。そうしたら、どうして漢字を学ぶのか? それは、そこに面白さがあるからだと思います。

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大人から見て役に立つかどうかということを超えて、「社会の中で何に興味を持っても良いんだよ。みんなが良いと言っているから良いというわけではなくて、あなたが好きになるものが好きで良いんだよ」というサインを僕たちは発していたいなと思っています。

——すごく共感します。大人は意味を持たせようとしてしまいますが、意味のないことに探究はあるんですよね。遊びで学ぶことにも通じるところがあると思います。「本人が自分の意志でやりたいことなのか?」ということが一番大事ですよね。

岩田:2人の話と、共通のイメージを自分も持っていると思います。「仕事」というと、キャリア教育の観点が入ることが多いですが、僕たちのプログラムは、将来に役立つというのとは少し違っていて。

すべての仕事は楽しい、どんな仕事もその仕事ならではの面白さや挑戦、ロマンが詰まっているんだよ、ということを子どもたちに伝えたくて。幅広い仕事に挑戦するうちに、自分の好き嫌いや得手不得手に気がつくことや、その時その瞬間に熱中できたという体験そのものに価値があると思っています。役に立つかどうかは、その子が自分なりに消化して決めることかな、と。

森本:すべての仕事は楽しいというお話、とても素敵ですね。すべての人に役割があるというのは僕たちのビジョンでもあります。

——いますぐ意味がないようなことでも、将来何かの意味を持つように子ども自身がつくっていけるかもしれないという見方もできますよね。子どもが何をしたいのかをよく見て、それを徹底的にやらせてあげられたらいいですね。

奴隷にならず、主体的・探究的にゲームに取り組む

——ゲームは依存リスクなどに着目されて「教育に悪い」と言われてきましたが、今はeスポーツなどにも注目が高まりつつありますね。

森本:コロナ禍で外で遊ぶことが難しい社会背景もあって、ゲームが子どもたちの遊びの中で大きな位置を占めていることはあると思います。直接会えなくても、ゲームは放課後にログインしてすぐに友達と遊べますから。

eスポーツは、仕事という形で子どもたちが熱中しているゲームの先をつくっています。そういう意味で、子どもたちの遊びを肯定してあげられるところがeスポーツの意義だと思います。

岩田:ゲームは悪で役に立たないと言われることがこれまで多かったと思います。でも、「スキルを極めていけば、プロの仕事につながる可能性がある」「ゲームは単なる悪ではない」と、社会的なゲームの認識を変えるような意義がeスポーツにはあるんじゃないかなと思っています。

——僕が保護者の方からゲームについて相談されたときは、「ゲームに主体的・探究的に取り組んでいるかを見てあげてください」と伝えています。「どうしたら勝てるだろう」「誰とどう協力するか」と考えるのは、主体的で探究的ですよね。

岩田:それは、ゲーム以外にも当てはまる話ですね。「勉強は大事」と言われて、ただやらされているのと、自分から主体的に取り組んでいるのは明らかに違うじゃないですか。やっていることが何かよりも、対象が何であれ主体的かどうかの方が大事だと思います。

森本:「主体的とはどんな状態か?」という問いが、今浮かんできました。

——自分で選んでいるということですよね。言われたことをその通りやるのではなくて、自分で「これをやりたい」と選んでいるということですね。

岩田:「手綱を握っている」ことは大切だと思っています。遊びを自分でつくり出してアレンジできるかどうかはすごく大事だな、と。ゲームの奴隷にならないことが大事なポイントかなと思いますね。

——おふたりの探究の場は、子どもたちが主体的に取り組めるようなデザインがされていますよね。探究コネクトでもほんものの探究学習を日本中の子どもたちに届けられるよう、活動を続けていきたいと思います。今日はありがとうございました。

(文:田中美奈、写真:エイスクールおよびタンキュークエスト提供)


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