"探究"の結果として辿りついた場所【高遠菜穂子氏インタビュー】
探求フェスのゲストの3人・・・すごくない?
堀潤さんは、今日本で最も熱いジャーナリスト
―――ゲストのお三方について、この3人を選んだ理由や菜穂子さんの目から見てどういう方なのかお伺いできればと思います。
まず堀さんは、堀さんがNHKにいらっしゃる頃から担当していた夜中のディベートの番組とかすごく面白いなと思って見てたんですよね。今はNHKを辞めてフリーになって色んなテレビとかに引っ張りだこですけど。
とにかく本当にびっくりするのは、堀さんは神出鬼没。「え!今日ここにいるの?能登にいるの?福島にいるの?どこにいるの?かと思ったらいきなり香港?!」みたいな、そういう感じ。なのに、毎日朝の番組をやってる。体調大丈夫かなって思うけど(笑)。行動力と現場の人たちに対する真摯な姿勢がぶれないっていうのも、本当にすごいなと思う。そういう熱いところを皆さんにも感じてもらいたいです。今日本で最も熱いジャーナリストだと思います。
それから、大手のマスメディアからフリーに転じたっていうところで彼の思うところがあると思うんですよね。その都度その都度世界情勢も変わっていって、メインで報じられることも変わっていくけど、彼は、それだけじゃなくて、「まだ終わっていないミャンマー」とか「まだ終わっていないスーダン」とか、色んなところをずっと追い続けている。そういったところがとても重要な視点だと思うので、その辺りをぜひぜひと思って推薦しましたね。
白川優子さんは、国際協力の第一人者
白川優子さんは、「国境なき医師団」っていう、紛争地といえばここと言うくらい世界的に有名な国際医療団体で活動されていて。白川さんには、ここイラクでも何回かお会いしたりしてます。
日本でもイラクでも二人で話す時って、紛争地での自分たちのトラウマの話とかもあるけど、日本の人たちにどう伝えるかとか、後進育成とか、二人ではそういう話をします。優子さんもありとあらゆる紛争地に行って、大変な紛争地で活動してきて、で、本を出して伝えるっていうところになって。今は現場ではなくて、日本で若手の人たちの後進育成、新たな紛争地の看護師たちのトレーニングをやってるんだよね。
優子さんとは、どうやったら自分が体験してきた戦争とかを次の世代に伝えていけるかなとか、そういうことを一緒に考えていたりします。ゆくゆくは国際協力の現場で働きたいって人は、優子さんはほんと第一人者だから、ぜひ話を聞いて欲しいね。本当に素晴らしい人ですよ。
―――楽しみです。
今井紀明さんは、自身のトラウマ体験から生きづらさを抱えた10代のために活動している
今井くんはね、何ていうのかな、私の中で彼は天才なのね。初めて会ったのは彼がまだ高校3年生で、卒業するかしないかくらいの時だったんだけど、戦争で苦しむイラクの子ども達のために医療支援NGOを立ち上げてその代表をやってたの。
―――すごいですね。
その代表としてイラクに行くことになってたの。私は北海道の千歳、彼は北海道の札幌出身で、私が一時的に帰国した時に、友人に「今井くんにちょっと会ってもらえません?」って言われて。会ったら、すごいよく調べてるし、兵器についてとかものすごい詳しくて、「専門家レベルじゃない?すごい詳しいね」っていう感じだったし。
その後親御さんにも何回も会って。「お母さん。紛争地に行くから、もしかしたら命を落とすようなこともあるかもしれない。私も数か月いる間に結構怖い目に遭いましたんで。それでも許可しますか?」って言ったら、「紀明はジャーナリストになりたいってずっと言っていて、いずれは紛争地に行く、送り出すと思っていたから大丈夫。心配しないでください、菜穂子さん」って言われたのね。それでも心配で、2回札幌に会いに行きましたよ。
残念ながら私たちは、アメリカ軍の残虐な占領体制に反発する地元の遺族から成る抵抗勢力に人質として取られることになったのね(※1)。「日本はなぜアメリカ軍の支援をするのか?なぜイラクじゃなくてアメリカ軍を支援するのか」って人質に取られて、自衛隊を撤退させろってことになっちゃうんだよね。それがちょうど20年前なの。2004年4月でした。
その後、私も今井くんも郡山くん(※2)も、3人とも猛烈なバッシングに遭うんですよ。「非国民、反日分子、死んでこい、生きてるのは迷惑だ」って、何箱にも及ぶ大量の誹謗中傷の手紙がそれぞれの家に来た。今ほどソーシャルメディアはなかったので、段ボール何箱というのがありまして。
イラクでのこともすごくショックだったし傷ついたし恐怖だったけれども、日本に帰ってきたら、新たな恐怖が待っていたっていう感じで。イラクでの恐怖体験と日本国内での猛烈なバッシング。週刊誌、テレビ、もうすごかったんですよね。電車の中吊り広告もしばらくずっとだったし。5年くらいはね、週刊誌のバカ女特集に必ず載ってたし。そういうのでセットになっちゃったんですよ、トラウマが。イラクでの恐怖体験と、そのフラッシュバックが起きると、即座に日本でのバッシングというトラウマがセットで起きてしまって。5年間くらいはね、結構大変だった。予期しないところでぶわっと涙が出てきちゃったり、苦しくなっちゃったり、薬飲み飲みやってた感じですね。
今井くんも5年かかった。私は引きこもっちゃうか中東に逃げる、ヨルダンに逃げるって感じだったんですね、日本にいられないんで。でも、今井くんなんかは、外に出て歩いてたら、見知らぬ人にグーでパンチされるみたいなことが起きてて、それで今井くんも対人恐怖症になっちゃったし。知らない人たちが襲い掛かってくるっていうね。
それはさらに、今井くんとか私とか当事者だけじゃなくて、家族もそういう状況になっちゃって。私の家族も今井くんの家族も、バッシングによるPTSD(※3)っていうのを発症してしまうんだよね。それを克服というか、何とかそれを語れるようになるまでに丸5年かかった、お互い。
私は、5年後にもう一度イラクのファルージャってところに戻ったことによって自分を取り戻し、今井くんも5年経った時に、そういった経験から自分のやるべきことを始めて。それがD×P(※)の始まりだったんじゃないかな。生きづらさを抱えた10代とかそういった子が、人格を全否定された時の若い自分と重なったっていうのがD×Pの始まりって聞いてるから。生きづらさを感じてたり、自分の人生っていうものを感じることができない、辛いっていう人たちには、ぜひ今井くんの話を聞いてもらいたいなって思います。
―――ありがとうございます。
すごくない?この3人!
―――今お話聞いてるだけでも、すごい気になるというか惹き込まれるというか。
すごいと思うよ。やばいよこの3人。
エンパシーを高め、対話を可能にする演劇の力
エンパシーとは、相手を知ろうとする力
―――暴力とか攻撃とか分断って、相手のことを知らない、理解しようとしない、物事の一面しか見ていないっていうのがすごい大きいと思うので、歩み寄る力とか想像力って本当に必要だなって思いました。
そうなのよ。PCP(ピースセルプロジェクト)が今イラクでやってることってまさにそれでさ。困難の極みである対話を可能にするにはどうしたらいいかを探究するって言ったでしょ?それで探究してるのが「エンパシー(※5)」なんですよね。紛争当事者って絶対にわかり合えないって思ってるわけだけど、わかり合えないと思っている相手のバックグラウンドを知ろうとする努力、知ろうとする力のことを私たちはエンパシーっていう風に定義づけていて。
今唯が言ったみたいに、コミュニケーションを深めるためには絶対それが必要なんだよね。差別とか偏見とかって知らないことに起因してることが殆どじゃない?でも、差別とか偏見って、ヘイトスピーチ(※6)になってヘイトクライム(※7)になって、それが大きくなると戦争になるんだよね。戦争が続いて行くんだよね。
変な言い方だけど、戦争を円滑に進めるためにはヘイトスピーチを許すってことだよね。米軍の人たちにも、イラク人の悪口、イラク人の悪いイメージ、「テロリストなんだあいつらは」みたいなことを吹き込む。それを「非人間化する」っていうんだけどさ。それがなかったら、簡単に引き金なんか引いてないよね。そこが恐ろしいところなんだよね。コミュニケーションってめちゃめちゃ大事よ。
―――相手を肩書でしか見ない、集団として見てしまう、というのと、個人として知り合うというのでは、見え方が全然違ってきますよね。
演劇として見ることで、エンパシーが発動される
エンパシーを高める、対話を可能にするためにどうするかという、私の探究の結果の一つが演劇的手法なわけよ。だから、探求フェスにもアイスブレイクやコミュニケーションワークショップを入れる、演劇的手法を使うっていうのを入れている。エンパシーを高める、対話を可能にすることを効果的にするには、演劇的手法が本当に重要だな。
(探求フェス運営メンバーの)夏穂が説明会の時に的確に説明したけど、その日会っただけの人たちとどうやって対話を深めていくかって言ったら、アイスブレイクによって対話しやすい雰囲気を作ることが必要で。そこからじゃないとコミュニケーションは始まらないし、始めにくいし、深化しにくい。それが重要だってことをもっと日本で広めたいよね。意外とまだまだだよね。
―――最近だと、一般の企業でもアイスブレイクなどを取り入れてるところもありますよね。
今イラクでも、ローカルのワークショップファシリテーターを養成するっていうのを地元の大学で始めてるんだけど。演劇的手法を使ったコミュニケーションワークショップをどれだけ社会のあちこちで展開できるかっていうのが、より良いコミュニティ、より良い社会、より良い世界を作るんだよね。そういうのすごく合ってると思うんだよね、日本って。どうだい?
―――でも、日本人にとってはまだハードルが高いんじゃないかな?と思うところもありますね。演劇って言っちゃうと、「お芝居できないよ。人前で表現できないよ」って抵抗がある人って結構いると思うんですよね。
私もそうだった。演劇のえの字も私の人生の中に登場してなかったから。演劇やってる人=ちょっと変わった人みたいなイメージだったから、私の人生の中に演劇は登場してなかった、一度も。
一回試みてるんですよ。「腹割って話せばいいんだ。向き合って話せばいいんだ。向き合えばいいんだ。対話なんだ」(と訴えてみた)。でも、どれもこれもうまくいかない。そうした経験から、対話なんて絶対無理だって思ってた。
でも、地域の課題を解決する、地域課題に向き合うっていうところで、高校生たちが演劇を使ってた(※8)のは、すごい衝撃だったな。びっくりしたよね。「演劇ってこういう風に使えるの?!」って思った。すごい新鮮だったし、衝撃だったし、もう即座に「これだ!」ってビビビッときたのよ。「会話に必要なのはこれだ!オーディエンスも含めてだ!」と。
―――私も演劇をやってるんですけど、演劇って絶対的に双方向的じゃないと成り立たないものだと思います。その場にいる人全員が強制的に何らかの形で参加しなければならないっていう特性がある。 あと、自分で何か表明するのは躊躇っても、役としてだったら言えるということもあるから、演劇の力って大きいなと思いますね。
おっきいね。地域課題としてやってる高校生たちの演劇の発表会に来てる人たちが、つまり、高校生たちに取材された当事者たちが見に来てるわけよね。そうするとさ、取材された当事者は「あの高校生、私の役やってる!いくつか話したエピソードの中で、あのエピソード使ってんだ!」みたいな。なるほどってなる。帰還困難の人たちと経済産業省の人たちが胸ぐらを掴む迫真の演技とかがあったんだけど、掴んでる人と掴まれてる人は客席にいたりする。当事者が俯瞰して見てたりするんですよ。
当事者同士では向き合うことさえできなかったっていうのが、第三者である高校生がそれぞれそれを演じることによって伝わる。時間が経って俯瞰して見るっていうことで、絶対に向き合いたくない相手の言いたいことがわかるとか、エンパシーが発動されるわけだよね。それってすごいなと思ったんだよね。いくらテーブル挟んで「話し合いましょう」って言ったって、絶対できないなって思った。演劇の力ってすごい。
今唯が言ったみたいな、役だから、フィクションだからっていうのもある。事実に基づくフィクションとしてやってるっていうか。当事者に返ってくるわけだよ。そこがまたすごいんだよね。
―――確かに一個の演劇を見ても、結局見てるのって自分自身なんですよね、きっと。そこから自分が何を感じ取るか、自分がどこに共感するのか。つまりは自分を見つめてることになるのかなって思います。
そうだね。この面白さ、社会において発揮できる演劇の力って、日本にも世界中にももっと広がったらいいよね。私はこれで紛争のない世界を作ろうとしてるんですよ。だから、うちの演劇チームの人たちは本当すごいなと思いますよ。PCPの演劇チームすごいよ。探求フェス終わったらさ、唯も演劇やってるんだったら、ぜひぜひ演劇チーム入ってよ。ぜひ体験してください。めちゃめちゃすごいんだよ。
あとは、作品作りまで行きたいよね。私の夢としては、出所した元IS(※9)の子供兵たちが同年代の被害者を含むコミュニティの青年たちと演劇を作るか、クワイアを作って音楽をやりたいなと思ってるんですね。それには、じっくり時間をかけて、信頼関係、トラストビルディングっていうのをやっていかなきゃいけない。お互いの素性を知った時に、それでも培った信頼関係は壊れないぞっていうところまでの積み重ね。だから、演劇をとりあえずやりゃいいよっていうことではないし、簡単にすぐできることではないって思ってるんです。そこに向けて、それを目標にして、信頼関係を構築していくワークショップを重ねていくっていうのをまずやりたい。
―――長期的なコミュニティ作りっていうのも、演劇の特性というか効果ですよね。
ただ、イラクっていうのは、サウジアラビアとイラン、それからイスラエルという大国に挟まれているし、皆さんが知ってるような中東情勢もあり、その影響がもろに来ちゃうんだよね。だから、そんなにのんびりもしてられないっていうね。実際イラクの中でも、ミサイル飛んでったり飛ばしたり、色々あるけどさ、イスラエルとかイランとか。 だから、性急には進められないけど、そんなにのんびりもしていられない感じですかね。
―――日本でもコミュニティを作るための演劇活動ができたらいいなと思いました。
うん、そうですね。
―――ありがとうございます。ちょっと時間オーバーしちゃいましたけど。またよろしくお願いします。
ありがとうね。またね!はい、お疲れ様です。
5月6日の探求フェスプレイベントでお待ちしています
長年イラクでの支援活動を続け、現在では演劇的手法を使ったワークショップや絵本の読み聞かせといった活動を通して、紛争を止めようとご尽力されている高遠さん。高遠さんご自身がものすごいお方なのですが、ご自身の経験やこれまでの人生、生き方、そしてこれからの世界に対する想いなど、とてもフラットに、フランクに語ってくださいました。
5月6日の探求フェスプレイベントでは、高遠さんからのメッセージ映像も用意しておりますので、どうかお楽しみに!
〜学ぼう、深めよう、世界と私をつなげよう〜
日常のなかにある、ふとした疑問や違和感。
いつもは見過ごしてしまうものでも、この機会に"探求"してみませんか?
✼••----開催概要----••✼
▶日時
2024年5月6日(月・祝) 10:00〜19:00
▶会場
高尾の森わくわくビレッジ
(JR線・京王線 高尾駅からバスで約15分)
(東京都八王子市川町55)
▶プログラム
・ドキュメンタリー上映〈『プロミス』『わたしは分断を許さない』〉
・ゲスト講演〈堀潤氏・白川優子氏・今井紀明氏〉
・対話の時間(参加者・ゲストとのフリートーク)
・演劇的手法を使ったワークショップ
など
✼••----ご応募----••✼
▶通常申込:参加費をお支払いいただき、ご本人が参加される場合
・5,000円(映画鑑賞・講演会・昼食含む)
▶応援チケットにエントリー:あなたの学びを応援したい人からチケットを受け取って参加される場合
・あなたのお支払い:無料
▶応援チケットのご購入:あなたがご購入くださったチケットを、エントリーしていただいた方にプレゼントします
・1枚 5,000円
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