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小説の美

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【瞬間の美】好きになった瞬間:川端康成『有難う』の折り取られた光

【瞬間の美】好きになった瞬間:川端康成『有難う』の折り取られた光

✅なぜ小説を読むのでしょう。

実用書や自己啓発書は、実際に役に立つかもしれない。
小説なんて読んで、何の役に立つの?

正直に話すと、私も三十歳、四十歳くらいまではそう思っていました。
「まどろこしい」と思っていたんです。
もっとスパッと切れるものが欲しかったんです。

職場で優位になる
出世する秘密
上司の受けが良くなる
給与が上がる

もっと言えば✔「稼げるもの」が欲しかったんです。

そん

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【瞬間の美】花束を抱えた瞬間:なぜ横光利一は透明になったのか?

【瞬間の美】花束を抱えた瞬間:なぜ横光利一は透明になったのか?

✅もし、あなたの愛する人が……

もし、あなたの愛する人の命がもうすぐ消えてしまうとしたら
あなたはどのように接しますか?

こんな時、男はとても不器用です。
どうしていいかわからないのです。

「大丈夫だよ」とか「頑張ってね」とか
平気で言う奴なんて「信じられん奴」なんて思うんです。

どう言えばいい、どう接すればいい……
そんなことを考えていると、ぎごちなくなって
かえって愛する人の心を傷つけ

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【川端康成の美】小説『散りぬるを』の花びらが散るとき

【川端康成の美】小説『散りぬるを』の花びらが散るとき

✅哲学書の疑問

若い頃はずいぶんと哲学書を読みました。
誰が書いた本だったか忘れてしまいましたが、場面だけは鮮明に覚えていることがあります。
それは次のような場面でした。

仕事を終えた若い女性が交差点で信号待ちをしている。
酒を飲んで運転している若い男
酒のせいで正確な判断ができない。
猛スピードで交差点に入ってきて
女性をはねた!
女性は頭を打って亡くなった。

この事故について、哲学書は次

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【川端康成の美】小説『舞姫』の舞姫がバレーをやめた理由

【川端康成の美】小説『舞姫』の舞姫がバレーをやめた理由

✅人工の池の鯉

私の町の中心部、市役所の交差点には人工の池があります。
鯉が十匹くらい泳いでいて、近づくと口をパクパクしながら
盛り上がるほどに寄ってきます。

鯉の群れは、私には異様な光景にしか見えないのですが、
子ども達がキャッキャと騒いでいるのを見ると
私が奇妙な考えをすること自体が、罪作りのようで、
鯉の口の集まりと、子どもの騒ぎ様を見比べながら、
最後には子どもの素直さを心にとどめ、

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【瞬間の美】風が見える瞬間:佐藤春夫『病める薔薇』の美の表現

【瞬間の美】風が見える瞬間:佐藤春夫『病める薔薇』の美の表現

✅日本語の魅力

佐藤春夫は門弟が3000人と言われるほど、日本文学に影響を与えました。
しかし、佐藤春夫の小説を読んだことのある人は少ないでしょう。

それは、純文学と呼ばれるフィールドを少し難しいと感じているからかもしれません。
佐藤春夫の文章は確かに少し古風です。
佐藤春夫の文章の中には今は誰も書かなくなった表現があります。
その古風な表現から、日本文学の良さを感じることができます。

私が

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【瞬間の美】心に残る瞬間:国木田独歩の「忘れえぬ人々」とは?

【瞬間の美】心に残る瞬間:国木田独歩の「忘れえぬ人々」とは?

✅あなたの心に何が入っていますか?

心は不思議な空間です。
空間?
いや、空間じゃない、けど……
無限に入れることができる容器。

不思議なもの……

その心に何が入っている?

硬いものがびっしり詰まって、もうがっちりと固まっている。
硬さは、意志の強さの証拠。
そうやって、硬さを追求してきた。

そうでなければ、生きていけないでしょ。
甘ったれるんじゃない!
隙間なんて、余白なんて、自由なん

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【川端康成の美】小説『雪国』の雪が溶ける時

【川端康成の美】小説『雪国』の雪が溶ける時

✅ 日本文学の歴史

ドナルド・キーンさんの著作『日本文学の歴史(近代・現代篇)』が、いつも食卓の上にあります。

この本に沿って近代・現代の小説家をもう一度読み直しています。
次のような小説家です。

志賀直哉
佐藤春夫
横光利一
堀辰雄
川端康成

特にノーベル文学賞を受賞した川端康成の小説には、とても清々しさを感じました。
今回取り上げるのは有名な小説『雪国』

昭和10年から12年くらいの

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【川端康成の美】短編『片腕』の美はこの世のものとは思えない。

【川端康成の美】短編『片腕』の美はこの世のものとは思えない。

✅ なぜ物語を求めるのか。

私たちはなぜ、物語を求めるのだろうか。
それは、物語ではない、つまりリアルな世には
真実も、美も、善も存在しないからではないか。
とかく、人が真実を語るとき、それは真実ではなく
美を語ることなど、できるはずもなく
まして、善を説くなど

📌厚顔無恥も甚だしいと思うのだけど、

世の中には、厚い皮で覆われた顔をさらけ出して
その、ぶ厚い皮にはヒビが入り、
端が(恥が)

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