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【震災】憐れむ日、戒める日。

これはいつかのやきとん、最近撮ったものではございません。


時は、その人の中では止まっていたり流れていたり、まぁ、記憶というものも時によっては資産であり負債でもあるということでございましょうか。

あれから十年


今日であれから十年、という言葉は先日、様々な場所や場面で耳に口に、其々が其々の思いの中でなさったことでありましょう。
十年前はわたくしもあの震災を経験いたしました。
わたくし個人的にはありがたいことに目に見える被害はございませんでしたが、東京からはるか遠く離れた東北地方の方々の生活に、そして人生に大きな災害となって降りかかったわけでございますね。

地震特約付きの傷害保険


わたくし三十代に差し掛かる頃の一年間、社会勉強と称しまして証券の資格を取り、ある証券会社にお世話になっていたことがございました。役者をやっていることは伏せておりましたので、何故か欠勤の多い、そして仕事覚えの悪い従業員でございました。
その頃ある人の紹介があって今の劇団で活動することになり、結局は通うことができなくなって退社致しました。

それでも経営学部中退という、まあ、最大の親不孝にですね、少しでも決着をつけようと思ったんでしょうか、今度は保険の資格をいくつか取得いたしまして保険のセールス、販売促進の仕事を得て身を立てました。この仕事はいろんな会社を点々としながらも随分長く続けました。劇団の活動なんかにもご理解をいただきまして、成果を挙げればそれでよしということで、一生懸命励みましたでございます。

渡り歩いて何社目だったでしょうか、経験者として採用されたその会社で初めて震災特約付きの傷害保険を扱いました。
少し説明しますと、当時の保険は地震や津波による、あるいはそれらに起因する被害はまだまだ補償の対象外である商品が多かった、これは今も変わらないかも知れませんが、新しい商品として、地震や津波によるケガや死亡も補償いたしますということで、わたくし達も全国各地に一斉に電話をかけてセールスしたわけです。


わたくしは、陸前高田や石巻、仙台などの東北地方に電話をかけておりました。
保険のセールスですから、もう嫌というほど断られるわけですが、その中でも契約をくださる方や必要と感じて話を聞いてくださる方、優しく声をかけてくださる方もいらっしゃいました、そんな最中の、まさかの大震災でございました。

わたくしはそれ以前に神戸で震災を経験しておりますから、様々な断り文句を頂戴いたしましても獅子奮迅の如く売りました、そして神戸のことは口にはしませんでしたが、その思いは常に胸の中にありました。

かもしれない運動

皆さん悪気はございませんよ、もちろんございません、こちらは突然電話をかけて保険を勧めているわけですから、「いりません!」「結構です!」というのは当たり前ですね。考えれば誰にでもわかります。

中には「死ぬときゃ死ぬんだからほっといてくれ」「地震なんか来ないよ」と、このような言葉はよく耳にしましたですね。
怒声と共に浴びせられることも少なくなかった。たまたま虫の居所が悪かったんでしょう、酷いことも言われます、時には。

そして災害に関しては今よりも認識は甘かったと言いますか、どこか他人事のような、違う地域の問題というイメージしか持てなかったんではないでしょうかね。
神戸の震災の時だって、あんなにマスコミが多勢いたのは2ヶ月後のサリン事件までですから。防災に関する、あるいはこのような地震に備えるということの重要性はまだまだ一部の方々にしか伝わらなかったのかも知れません。

「まさかの時の保険ですよ」とわたくしも食い下がりながら売り続けましたですね。
保険が助けてくれるのはお金の問題だけですが、保険が命を助けてくれるわけではありませんし、それでも必要ですから、お金は。生きてく上で。

保険が必要か否かという細かい議論は省きますが、まさか起きるとは思わないもんを実際に喰らっちゃった本人が電話をかけてるんです。

ですが言われますよ、「起こるかどうかわからないものを心配してどうするんだ?」なんて言い返されたりしましてね、「実はわたくし神戸で喰らいました。」って言えたらどんなに楽だろうかと思いましたが、そういう個人的な話は出さない方が良いと思いまして、セールストークとしては威力がありすぎるんですね、何故か言えないんですよ、ですので堪えておりました。

そう言えば小学生の時に習った「かもしれない運動」、覚えていらっしゃいますか?これはうちの地元だけですかね?あったんですよ、そんな言葉が。
青信号でも車が来るかもしれない、もう一度左右を確認というやつです。
さて問題です。
来るかもしれない、来ないかもしれない、これはどちらが安全なんでしょうか?

地震大国、ニッポン。

あの時の思いが届かなかった多くの方々が、恐らくは命を落とされたりとか家族を失われたり生活を奪われたという事実を、わたくしは複雑な思いで受け止めております。

来なきゃ来ないでいいもんだけど、来るんですよ、地震は、日本に住んでいる以上どうしたって。そりゃあプレートの上に乗っかって暮らしているわけですから、ベンツもBMWもペシャンコになるんです、耐震性のない建物の下に停めとくと。高いところに割れ物だとか重いものを置いとくと怪我するんですよ、たとえプロレスラーみたいに頑丈な人でも。

来る前提で生活をしていないと、来た時に何が危険なのかを知っておかないと、いざという時は絶望しかない。神戸の時なんて冬の明け方、真っ暗闇ですからね、外に出るのに靴も見つからなかった。
トイレにだって困るんですから、本当ですよ。食べるもんがあったって出すところがなきゃ食べる気になれないってなもんですよ。
潰れたご自宅を見てね、わっと泣き出すご婦人を何人も見ました。あれはどんな名女優にだってあんな風には泣けないです。三十年近く芝居をやってるわたくしでもね、これだけは言えます。


こういう話になると、あまりに過敏になられてお心を崩される方も多いです。ごめんなさい。
今は揺れていませんからね、ちゃんと生きていますから。それをしっかり確認していただいて。あなたはちゃんと生きています。よろしいですね?
そして今は心配する時ではなくて対策を練る時なんです。


最後に

備えあれば憂いなし、どうか悲観しないでください。
今はご自分の財産、ご家族、そしてご自身を守るために思考していただきたい、これは自戒も込めて申し上げたいと思います。


僭越ながらではございますが、震災の日は憐れむばかりの日ではございません。
自分自身のこととして考える日、戒める日でもあると、わたくしはこのように思っております。

それではまた。
読んでくださりありがとうございます。
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