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反芻の哲学 〜つくること、かんがえること〜

お人形あそびが苦手だった。ともだちのことは遠巻きに見ていた。人形の服を脱がし構造を確認したら満足してしまい、トイレットペーパーの芯と空き箱とセロハンテープを持ってきて、ロボットや恐竜、よくわからない何かを作っては戦わせていた。
その方が自分にはずっと大切なことのように思えたのだ。

Tangityのデザイナー、ToshiOです。こんにちは。 なんとなしに営業として社会人人生をスタートさせ、 “デザイン” というものに出会って早5年、Tangityのデザインチームに拾ってもらい生まれ変わったキャリアは先日やっと3年目を迎えました。
初投稿となる今回の記事では、「つくること」についてのちょっとした想いをお伝えしたいと思います。


1. オトナの手、子どもの手

突然ですが、オトナになってから "手を動かした" ことはありますか。
ワークショップなどのイベントを抜きにして、仕事で手ずから何かを作った記憶はありますか。

大抵の場合、幼少期にクレヨンまみれになっていた手はいつしかパソコンのキーボードを叩いてPowerPointを磨き上げることに夢中になり、クレヨンだらけになる権利を子どもやアーティストなどといったある意味で自分から遠い存在(だと勝手に思い込んでいる社会的役割たち)へ無意識のうちに譲ってしまう。
そういうオトナをたくさん見てきました。

自分も一時期だけ、そのひとりだったことがあります。
そんな時、決まって胸の中の “子ども” が、空き箱にトイレットペーパーの芯でできた腕をくっつけながら、横目にわたしをじっと見つめてくるのです。

2. なぜ人は作るのか

「感覚質(クオリア、qualia)」という脳科学領域の用語があります。
感覚的な意識や経験のこと、あるいは感覚を特徴づける独特で主観的な質感のことを言い、「体験質」とも言われます。抽象的だったり複雑だったりするものについてピンと来て、質感が眼前に顕現し、それを主観的に理解することです。例えば赤い色を見て、「夕焼けのようだ」と思う人もいれば「リンゴみたい」と思う人もいます。それが感覚質です。
脳科学者の茂木健一郎さんや社会学者の宮台真司さんが語っておられることもあり、ご存知の方も多いかもしれません。

晴れてデザイナーとなったわたしは元からの性分も相俟って様々な場所へ学びに行っているのですが、今年になって受講した武蔵美VCP Scoolのある授業において、石川卓磨准教授は感覚質(講義内では「体験質」)に関してこう述べられました。

なぜ作るのか?
それは、思考するための体験質を獲得するためです。
美術とは、体験質を外在化させることであり、終わりなきプロトタイプなのです。
(前提として、アートとデザインを綜合主義の観点から「境目のないもの」と捉えています。)

かんがえたものをつくる。
かんがえるためにつくる。
抽象と具体の間を行き来して、ものごとは考えるために作られるべきである。

これは自分にとって大変な発見をもたらす言葉であり、同時に長年の謎が解明された瞬間でもありました。
Tangityに参画してからというもの、社会から隠そうとしていた “子ども” を顕わにすることが歓迎されるようになり、機会を見つけては何某かを作らせてもらってきました。方向性に多少の違いはあれど公私ともに創造的活動がシームレスにできるようになり、解放された心地でいましたが、どうしてこんなに作りたがるのだろうと我ながら不思議でした。

わたしは、多分、さまざまなものごとについて考えることが好きなのです。
作る対象のことを調べ、観察して熟考し、終わったあとも記憶のなかの引き出しを時たま開けては作品を見返し、思いを馳せ、ついぞ関係のない引き出しまで開け始める。
まさに、つくるためにかんがえ、かんがえるためにつくっていたのです。

3. プロジェクトとプロトタイプの関係性についての閃き

デザインプロセスの特徴のひとつにプロトタイプフェーズの存在がありますが、これはひょっとするとプロジェクトの擬人的な感覚質を外在化させているのではないか、という直感があります。
プロトタイプとして外在化させられたプロジェクトそのものの感覚質は、質量をもって存在意義と問いを周囲に投げかけ始めます。
それによって、プロジェクトに関わる人々は初めて自己の中の感覚質を認め、思想や違和感を語り出し、プロジェクトの目的やゴールについて熟考あるいは再考することができるのではないでしょうか。
大勢が関わるということから、プロジェクトは複数の感覚質の集合体と言うことができるのかもしれません。

なお、このIT業界では「プロトタイピングといえばデジタル」になりがちですが、紙や段ボールを使ったり、絵や漫画・物語や書籍を作成したり演劇したりなどと、実に多種多様な手法を取ることができます。実施するタイミングだって一回とは限りません。試行錯誤しながら、答えのないなかを進んでいく営みです。

終わりなきプロトタイピング、すなわち芸術的な行為は、知らず知らずビジネスの現場で行われているのではないでしょうか。

4. わたしの小さな願い

以上はあくまで個人的な見解にすぎません。また、芸術(前述の通りアートとデザインの両方を指す)が身近にあると分かったところでクレヨンを持って暴れてみようなんてオトナがすぐに増えるとは思ってはいませんし、無理に増やさなくてもいいと思います。

ただ、オトナの手でもクレヨンを握ってもいいのだと、あるいは要らない空き箱でロボットを作ることを想像してもよいのだと、そういう気づきがポッと誰かの心に灯るような、そのきっかけとなるデザイナーでありたいと願います。
サービスデザインのみならず、それに関する具現化・可視化、やがてはプロダクトアウトのさらに先、アートもデザインもすべて混濁した世界を見せて行けるようなデザイナーになりたいと思うのです。

ToshiO



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