400字の部屋 ♯3 「海外旅行 3」

 この国に着いてまだ三日目だが様様なものを見た。山のように巨大な人工樹。超高層ビル五棟の屋上に股がる長さ200mを超えるプール。五万人満員御礼でのスタジアムでの光と音の洪水によるカウントダウンイベント。定刻になると履物を脱ぎ膝まづいて神に祈りを捧げる敬虔なる信者達。夜のバー。オリジナルカクテル。鋼のように硬質且つコンピュータプログラムよりも複雑にコーディングされたコードを煙草を吹かしてかき鳴らしてみせるギタリストを擁するバンドライブ。混血、移民系が大多数を占めるこの国で華開いたエキゾチックな絵画と彫刻。それらをまとめて展示している豪奢な美術館。何やら夢想しているビルの影の乞食。たっぷりとした蟹。甘いスイーツ。
 夜の闇から不意に顕れたその象は、月光により皺だらけの体躯を青白く晒して静かに立ち、頭を軽く垂れていた。足下の雑草が戦いでいた。
 美しかった。美の本質を直感して鳥肌が立った。

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