400字の部屋 ♯7 「珈琲 1」

 L・カルロスの朝は早い。三月に入ると春の気配が近づいてきているが、L・カルロスが目覚める時間は、まだ世界は闇に包まれている。
 L・カルロスは、ほんの少しお湯を沸かし始め、その後に戦士が己の武器を丁寧に磨くように、ゆっくりと、意志をもって珈琲豆を挽く。豆を挽き終る頃には、お湯が沸いているので、挽いた豆をドリッパーに落とし、細口のドリップポットのお湯を、ゆっくりと回し乍ら挽豆に注いでいく。お湯を含んだ挽豆が僅かにふっくらしたのを確認して、L・カルロスは残りのお湯を先と同じくゆっくり回し乍ら注いでいく。お湯を注いで少し待ち、サーバーに溜まった濃茶色の珈琲を、柄の付いた焦茶の陶器に入れて、ゆっくりと一口啜る。この瞬間が1日の内で最も輝いている刻である事を、L・カルロスは識っている。だから、L・カルロスは、毎日同じ動作で珈琲を作り、味わう。
 珈琲を飲み終わると、L・カルロスは静かに仕事を始める。


#小説 #エッセイ #400文字の世界 #ライティング #ショートショート #短編 #珈琲 #コーヒー #3月の朝 #400字の部屋

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?