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読むPodcast「田中健士郎の働き方ラジオ」#128 組織文化は「信じて託す」ことから始まる (後編) 

パーソナリティーが最近ハマっているのが「町工場プロダクツ」です。参加企業に創業100年を超えるところも多い中、自社商品開発など新しい挑戦をしている企業が集まっています。

前編では「町工場プロダクツ」の発起人でもある栗原精機の会長、並びに合同会社メイカーズリンクの代表でもいらっしゃる”おやっさん”こと栗原稔さんと、社内で新たな企業文化作りに取り組んでいる側島製罐代表取締役、石川貴也さんに町工場のコミュニティに流れる文化や今後の展開についてお聞きしました。


対談記事の前編はこちら

後編は側島製罐の貴也さんが社内で取り組まれている企業文化作りについてお聞きしていきます。

おやっさんの自己紹介

埼玉県の川口市で株式会社栗原精機という金属加工の会社をやっています。父親が立ち上げた創業50年の会社で、今期が51期目になります。従業員数は20人ちょっとで、本当に絵に描いたような小さな町工場です。父親から継いで20年ぐらい私が社長をやってきて、今年の5月に息子に3代目の社長を任せまして、今は会長という名前で隠居状態です。社内の仕事は任せて、「町工場プロダクツ」に主軸を移して社外活動に勤しんでいるといったところです。

田中:まさに事業承継という形で次の代に引き継いだばかりのタイミングですね。

貴也さんの自己紹介


側島製罐式会社という缶を作っている会社の6代目代表取締役に最近なりました。創業は明治39年の会社で今117年目です。おかしやカーワックス、蚊取り線香の缶、貯金箱などを日々作っています。父親が70歳になったタイミングで引退して4月に代表取締役になりました。代表取締役にはなったのですが、「社長」という肩書きは組織作りの一環で置いていなくて。僕自身あくまで代表という役割でしかないという思いを込めて社長という肩書きは会社からなくした、みたいなことをやってます。代表取締役平社員です。

田中:代表取締役平社員、おもしろいですね。文化作りの一つのようなので、後ほどいろいろとお聞ききしたいと思います。また、ちょうど事業承継から1ヶ月ということで、おやっさんのところと同じくらいの時期に代替わりが行われた感じですね。

「理念や行動指針に沿っていれてば、あとは自由に」という働き方に変わった

田中: 側島製罐さんはどのような企業文化作りに取り組まれているんですか?

貴也さん:組織改革と言われることを結果的にやった感じになっていて、「ティール組織※っぽいもの」を目指しています。2020年4月に家業に帰ってきた時、うちの会社には理念がありませんでした。業績も20年連続で下がっていて、2020年のコロナ禍突入前で3期連続赤字、直近は大赤字。もうどうすんねんみたいな状態だったんです。

そこからみんなで「Mission Vision Value」(以下「MVV」)を作ったり、自立分散型のような組織作りを目指しているところです。「社長」という肩書きをなくしたのもそういうところの表明なんです。

※ティール組織とはフレデリック・ラルー氏によって提唱された組織のあり方。著書「ティール組織―内部の協力からグローバルな共感へ)」で広く知られるようになりました。チームが自分たちで決定を下し、共通の目標に向かって協力する新しい組織スタイルのことです。

田中: 「MVV」を作った経緯は、貴也さんの超大作のnoteがありまして、僕も読ませていただいて大変勉強になりました。

貴也さん: 専門家ではないですし、「ティール組織っぽいもの」を目指してるので、定義がずれていたら申し訳ないんですけれど、うちの会社ではコミュニティみたいな組織作りを目指しています。イメージで言うと、サークルのような小さなチームがたくさんあって、その集合が組織になっているみたいな。

田中: なるほど。

貴也さん: 従来型と自立分散型では、組織の中で働き方に大きな違いがあると思っていて。

田中: どんな違いですか?

貴也さん: 従来の組織はピラミッド型っていうんですかね、上からの指示、命令、マネジメントが前提にあるので、「ここだけはやっていい」という働き方だったと思うんですよね。

自律分散型っぽい働き方になると「ここだけは外しちゃいけないよ、後は何をやってもいいよ」みたいな働き方になってくるんです。

田中: 「理念や行動指針からそれていなければ、自由にやっていいよ」ということですね。

貴也さん: おっしゃる通りです。なので、うちの会社には決済や指示命令、役職みたいな概念があまりありません。

田中: 「働き方ラジオ」は内発的動機付けで働く人を増やしたいという思いで発信しているので、自律分散的な組織作りのお話と重なるなと思いました。

ベンチャー企業でも取り入れてるところ、取り入れてないところがあるような新しい形の組織作りを老舗の企業が導入するのは、なかなか難しいのでは?どうやって社内のみなさんに理解してもらったんですか?

貴也さん: 徐々にティール組織っぽくなっていき、みんなも納得してくれたという感じです。

今までの仕事観で働いていても、みんな永遠に幸せになれないと思った

貴也さん: 組織改革をしようと思ったスタート地点が僕の中にあって。

田中: どんなことですか?

貴也さん: 業績が悪かったことで、働くみんなの気持ちが後ろ向きでした。20年、30年と働いてくれているメンバーもたくさんいて、「うちの会社はどうなるんだろう、大丈夫かしら」と思っても、昔ながらのトップダウン的な組織だったので、内発的に自分たちから何もできないんですよね。

田中: そうだったんですね。

貴也さん: 会社に理念がないので、社内のみんなは何を軸に働けばいいのかも分からない。だから上司が言うことが正しいとなり、仕事のやりがいや缶を作って売る以上の意味の解像度があまり高くなくて。

「この仕事観で働いていても、永遠に幸せにはなれない」と思いました。そこでまず、「MVV」をみんなで作ることから組織の改革を始めたんです。

「組織改革をする!」と宣言したわけではなく、ごく自然に足りないないものをみんなと一緒に考えてひとつずつ作っていきました。

田中: なるほど。新しい組織作りをする上では、社内での対話が必要になってくると思います。対話はかなりされたんですか?

貴也さん:「自律分散型組織にしていくからよろしくね」みたいな対話ではないんですけれど、「働く意味って何だろうね」「僕らの存在意義って何だろうね」みたいな問いかけは日々していきました。僕だけじゃなくて、社内のみんなも今でもしてくれています。

今までのひとつの仕事の価値観というか、「会社は、労働してお金を稼ぐ場所」という人ももちろんいたと思います。合わない人が去って行くことも起こりました。今一緒に働いているみんなは理解してくれているという印象です。

田中: 朝早く出勤するという話をTwitterでされていましたね。

貴也さん: 偉そうに言うことではありませんが、家業に帰って来た時から変わらず、朝の7時には会社にいるようにしています。みんなとコミュニケーションを取るとてもいい機会になっています。「お話しがあります」みたいに悪い話も多いですけれどね。

何かが起きた時、僕が解決策を教えるとか、実際にやってしまっていたこともあります。でも今はサポート的な役割になっていますね、「みんなはどう思っているのかな」、「それだったらこういう考え方もあるんじゃないかな」と。

田中: ネガティブなことを言われた時、さっと流したくなる時もあると思いますが、そこはまずしっかり聞いて理解する、解決策がなくても一緒に考えるみたいな感じなんですね。

貴也さん: そうですね。最初の頃は、せっかく相談に来てくれた人に対して「何を言っているんだ」と思う時もありました。「そんなんじゃなくって」、「そんな考え方じゃダメだよ」、「何そんな甘いことを言ってるの」みたいなことを言ってしまって。最近は傾聴できつつある感じです。

「僕自身もすごく不完全な人間だ」と、よくみんなに言います。だからみんなと一緒に会社を変えていきたいっていうスタンスはずっと伝えてきています。間違えることもいっぱいあるわけです。メンバーとぶつかって、「もう俺、辞めるわ」と言われたこともあります。僕の方が「ごめんなさい。本当に申し訳ありません。」ということもありました。

積み重ねですよね。みんなに本当に勉強させてもらって自分も成長させてもらってきました。みんなとの体験を通じて信頼関係が築けて、目指す組織像の解像度が上がってきたと思います。

田中: この数年間、いろいろなことに挑戦しながら信頼関係を構築していったのが一番大事だったんですね。

「自分の言葉で熱く語ろう!」とみんな変わっていった

貴也さん: 社内の約半数のメンバーが「MVV」を作るプロジェクトに入ってくれて、そのプロセスで自分で考えて行動する機会はとても増えましたね。みんなの行動が大きく変わっていきました。

田中: どのように変わっていったんですか?

貴也さん: 挨拶、お礼、ごめんなさいをみんながはっきり言うようになりました。これは大きな変化です。

田中: とてもいい変化ですね。

貴也さん: 自分の心の中から出てくる良心に基づく思いや言葉を言っても、恥ずかしくない、許されるという文化ができてきました。自分の心に立脚して何か行動や発言ができることが、一番変わったところだと思います。

周りの目を気にして斜に構えてしまうことってあると思いますが、「MVV」を作るプロセスでみんなすごく熱い思いを持って働いているというのを、お互い共通認識で持つことができたんです。

田中: まさに内発的動機付けでどう考えてるのか、どうしたいかを伝え合う文化になっていったという、とても大きな変化ですね。

貴也さん: 本当にありがたいです。

田中:「MVV」を作ったら文化はできるみたいに思われがちですが、むしろそのプロセスにおいて、社員の心の変化がどう起きていくのかが大事なんだと思いました。

社内の文化を作るために大切なことは、ズバリ何ですか?

貴也さん:「みんなのことを信じて委ねる」っていう、このひとつだけですね。

上っ面じゃなくって、本当に委ねられるかどうかが全てだなと思っています。

田中: おおー、本当の意味で信じて委ねられるかどうか。

貴也さん:「自分たちが本当に心から幸せに働いて、豊かな人生をみんなで過ごすにはどうすればいいか」だけにフォーカスしてやってきているし、僕自身もそういう道を選ぶ以上は、みんなに託して委ねるという覚悟と信念は持ってないといけないと思いますね。

なので、自分の権利をどんどん手放しています。「社長」という肩書を外して、「代表取締役」だけにしてるのもそうですね。社長だったらある程度自由にできる権限があるわけですけど、それも放棄していますから。

田中: なるほど。

貴也さん:「こういう覚悟でやってるよ」というのは日々伝えています。みんなも応じてくれて、本当にありがたいなと思います。うちのメンバーは本当にみんないい人たちなので、僕の思いを汲み取って、「貴也君がこんなに言ってくれてるから、頑張ろうぜ」という気持ちでやってくれているのをひしひしと感じますね。いい仲間に恵まれているなと思います。

田中:「信じて託す」を具体的に言うと、各プロジェクトや部門の意思決定をすべて託して信じるということですか?

貴也さん: そうですね。許可を僕に取るというのはもうありません。うちの会社のバリューのひとつが、「高め合うために、分かち合おう」です。みんなのことを知っていたらもっとお互いを励まし合ってがんばれる、多くの知識もつけれらるし追体験ができるので共有という概念はありますけど、報告はないですね。

田中: いやー、すごいですね。なかなか出来ることではないなと思いました。信じて託してもどうしてもうまく進まなかったり、やっぱり駄目だったということもありますよね。

貴也さん: そういう事はもちろんたくさんありますよ。でも駄目かどうかって僕が判断することじゃないと思っているので。

自分の人生なんだから、自分で考える、その環境を整えるのが僕の仕事

貴也さん: 例えば、世の中に一般的な100の理想像があって、10しかできなかったと思ってしまう人生はどうなんだろうなって、僕はすごく思っているんですよね。100の理想像がそもそも正しいかどうかも誰にもわからない。それなら10できたことをみんなで称えて次のステップを考える方が幸せで、楽しいですよね。

もちろんお客様が求める品質にお応えするところはまた別の話ですよ。

田中: 時代や人、環境によって全然変わるはずのものが、100できることが正しいというひとつのものさしで図られてしまうみたいなこともありますよね。

貴也さん: おっしゃる通りですね。

上司や社長が判断すること自体が、本当に正しいんだろうか。というのもすごく考えますね。

特に僕自身はもともと製造業の人間ではない中で、組織改革を始めた立場です。現場経験も一切なく、技術的なこともやっていない。営業にも出ていないし、物を運んだり調達することもない。社内の業務に関して僕がやっているのはバックオフィスのほんの一部です。みんなの方が会社の仕事をよく知っていますし、僕が評価しなくてもみんながんばれるから。がんばったことをみんなで称え合って、進んだところもみんなで認め合えばいいと思っています。

田中: いやー。素晴らしいですね!

貴也さん: 自分の人生なんだから、みんな自分で考えるべきだと思いますし、それができる環境を整えるのが僕の仕事です。

田中:「働き方ラジオ」で言っている、「情熱を持って働く」、「内発的動機付けで働く」ことに組織として取り組む時に大事なことは、「信じて託す」ことなんですね。今日は貴也さんからとてもいいキーワードをいただきました。

ありがとうございます。 

おやっさんからお年をめした経営者さんへ 「勇気をもって息子に託しましょう」

おやっさん: 貴也君のお話しを聞いていて、まさに自分事に聞こえていました。貴也くんが社内で取り組んでいることは2023年5月に跡を継いだうちの息子が今、社内でやっていることと全く一緒です。言葉は違うかもしれないけどね。

田中: そうなんですね!

おやっさん: 世の中の価値観は時代とともに変わっていくけれど、どうしても我々は年齢を重ねてくると、自分の価値観を捨てきれなくなってしまうんですよね。託すとか任せるが、どんどん出来にくくなっていくんですよ。

田中: なるほど。

おやっさん: 代替わりはすごく大事なタイミングで、100%息子に託す、任せることから始まると思うんです。
なのでね、少しお年を召した経営者さんがもしこの話を聞いてくれていたら、思い切って勇気を持って次の世代に託そうということを一番伝えられたらと思います。今の自分の立場として。

田中: やはり代替わりが「信じて託す」の最たるものということですね。
貴也さんは信じて託されたところから始まり、おやっさんは今まさに息子さんを信じて託したところで、これから息子さんが社内で新しい文化を作ろうとされているんですね。

おやっさん: そうですね。貴也君のところと本当に同じタイミングなので、少しずつうちの会社も次の時代の新しい文化作りが進んでいくと思います。

田中: おやっさんの息子さんにもぜひお話を聞いてみたいです。

栗原精機の公式サイト▼


側島製罐の公式サイト▼


缶を作っている工場内が見学できる動画はこちら▼


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「働き方ラジオ」準レギュラーのリサがお届けしました。2020年8月放送の第1回から聞き続けるうちに、情熱を持って働くということの解像度が上がり、働き方と生き方が変わった一人です。

音声コンテンツはあまり聞かないけれど文章なら読む方も多いのでは?
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