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その2点を線でつなぎなさい〜nineteen Stories

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田中俊英(一般社団法人officeドーナツトーク代表)が、仕事の息抜きに短編小説を書いています。1本の長さは、最短で800字、最長でも4000字です。2020年8月、19stor…
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#小説

バナナブレッドをさがして

ネットで情報をカナタが集めていると、大島弓子というマンガ家が描いた『バナナブレッドのプデ…

ヤマネコ

男は若いのにウンチクばかりだった。いちばん得意なのはアメリカの昔の映画の話で、なんといっ…

迷彩と月光のオーバーオール

迷彩のオーバーオールで先輩がその本屋の入り口に現れ、それから1時間先輩のパリの話を聞き続…

その点と点を線でつなぎなさい

 ※※※ アキラは自転車を押した。家には帰りたくなかった。姉にも母にも父にも会いたくなか…

その2本の線の間を塗りなさい

カナタが初めてブランコに乗ったのは3才の頃だったかしら、とアキラは思い出してみた。はしゃ…

その線から2点を抽出しなさい

不感症という言葉はアキラにプレッシャーを与えた。セックスに関するあらゆる言葉が、彼女には…

オデッセイ

母のアキラと違って走るのが苦手だったカナタだが、50メートル走のスタートは好きだった。体育の先生は火薬臭い鉄砲を耳にくっつけて持ち上げ、片目を閉じていつも引き金をひいた。 カナタは両方の手と指を地面につけ、左足を前に、右足を後ろにして構えた。音楽も聴いていないのに、周辺はイヤホンで音が閉ざされたような空間になり、カナタは目を瞑りそうになる。 先生の指の先まで想像できる、その1秒の間に、その折れ曲がり力の入った指が動き、人差し指の腹に汗がにじみ、すべりおちそうな感じで引き金

虹の彼方に

 ※※※ アキラは娘のカナタに、これまで2回自分の絵を描いてもらった。一度はカナタが6才の…

水脈

※※※ 14才の頃は、友だちのことを疑ってばかりだった。その疑いは結局、いつも自分に返送さ…

骨の部屋

アキラは80才になっても自転車に乗った。そして、近所の公園に行って健康体操をした。 そんな…

うぶごえ

アキラはカナタを産んだ時、その初めての泣き声が、それまでのアキラの人生のすべてを許したよ…

鉱石

42才のアキラは、どの地点が自分の西暦ゼロ年だったのだろうとよく思う。やはり、娘を産んだ14…

幽霊

カナタが先輩から聞いた言葉で今でも覚えているのは、「めんどくさいことにみんなは反発せず、…

サファイアの口づけ

永遠はやはり、ない。ということは母のアキラから時々聞かされていたものの、19才になったカナタはたいへん残念だった。母のアキラは酒はあまり飲まなかったが、父がいない時、こっそり飲んだ。その時アキラは時々こう言った。 「小5の時、あのキャンプ場に行った時、カナタにはあの星座の三連星が見えたんだっけ?」 母は片手でワイングラスを持ちながら、いつもあまり動かずにテレビを見ていた。 その三連星は覚えていたものの、その真中にあるらしい星雲はどれだけ目を細めても見えなかった。だからカ