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【対談】mouse on the keys川﨑昭×LITE山本晃紀【コロナの影響とドラムへの想い】

このnoteの第一弾記事として、5月にmouse on the keys川﨑昭氏のインタビューをお届けしたが、彼は音楽家としての才能はもちろん、話し手としても非凡な才能を持ち合わせていると前々より思っていた。既にライブのMCやトークイベントなどで、その話術に魅了されている人もいると思うが、今回はゲストにLITEのドラマーである山本晃紀氏を招いて、川﨑氏とリモート対談をしてもらった。

LITEは緊急事態宣言下だった5月に、メンバーそれぞれの自宅から遠隔セッションでリアルタイムの配信ライブを行なうなど、コロナ禍でも突出した発想力と行動力で大きな注目を集めたが、その裏側にはどんな想いや苦労があったのか。過去にはmouse on the keysとLITEでアメリカツアーを共にするなど、長年盟友として、ドラマー同士として、親交を深めてきた2人が、コロナによる影響や、お互いのドラム観、バンド以外での活動などについて、約2時間に渡って話し合った対談をお届けする。

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●最初は「これムリだな」と思った遠隔セッション

川﨑:LITEはコロナ禍でもできることを積極的にやっているイメージがあるんだけど、この数カ月はどうだった?

山本:スタジオも入れないし、ライブもいっぱいキャンセルになったので、何か発信できることはないかなっていう感じで動いてて、けっこう忙しかったですね。配信ライブも設定が本当に難しくて、テストをかなりしたんですよ。僕たちだけで3回くらいやって、そのあとLITEの会員制アプリで有料メンバーだけのテスト配信もして。テスト中も途中で止まるとか事故ばっかりで(苦笑)。そんな紆余曲折を経て、5月にYouTubeを使って誰でも見られる形で生配信をしました。

川﨑:FEVER(東京・新代田のライブハウス)のYouTubeチャンネルでも生配信してたよね?

山本:そうですね。あれはスーパーチャット(YouTubeの投げ銭機能)を全額FEVERに寄付するという趣旨でやりました。やっぱりライブハウスがないと、僕たちはライブできないので、お世話になっているところに少しでも恩返しできたらなと。

川﨑:その後にはERA(東京・下北沢のライブハウス)でもやってたよね?

山本:ERAはスーパーチャットの条件をまだ満たしてなかったので、再生時間に貢献という形でやりました。あとはコラボTシャツを作って売上を寄付したんですけど、僕らとERAに縁のある根本歩(Power/Z/There is a light that never goes out)さんにデザインをお願いして、あの時代の感じを出してみました。

川崎:Elephant Gym(LITEと北米ツアーを共にまわった台湾の3人組バンド)のKTとコラボもしてたよね?

山本:あれはFEVERのときですね。7月にstiffslack(名古屋のレコードショップ・ライブハウス)の配信もやったんですけど、そこでもcinema staffの辻(友貴)くんにゲストで出てもらいました。

川崎:実際、遠隔セッションでレイテンシー(音の遅延)はどうなの?

山本:かなり厳しいですね(笑)。いちばん初めにやったときは「これムリだな」って思いましたから。

川﨑:やっぱりそうだよね。LITEのメンバーは呼吸で合わせられるから、オンラインの壁を越えてやっているのかなって想像してたんだけど。

山本:そのへんはコツがあって。遅れる原因は、だいたい3つに絞られるんですよ。1つめはネットの速度の問題。これは突然来るんです。2つめはPCとかオーディオインターフェースとか、ハードの問題。3つめはプレイそのものの問題です。

いちおう僕らも17年一緒にやってるので、この遅れはこれが原因だなとか、これはプレイが間違ってるだけだなとか、だんだんわかるようになってきて。でも、なかなか遠隔の生配信ライブをやる人が出てこないので、もしかしたら長く続けているバンドじゃないと、その原因を突き止めるのは難しいのかもしれないなと感じました。

――みんな山本さんのドラムに合わせて演奏しているんですか?

山本:そうですね。どうしても途中でズレてくるんですけど、回線の問題でズレた場合は、僕が同じテンポをキープし続けていれば、実際に配信で流れる音はピッタリ合うんです。だから僕の耳のなかではバラバラになっていても、心を強くしてテンポをキープしなきゃいけない。

川﨑:信じるしかないんだ。

山本:心を強く持って、信じるしかないんですよ(笑)。やっぱりバンドマンだからついていきたくなるんですけど、ついていっちゃうと、それに対してみんながまた反応するから、どんどん遅れていって、どうにもならなくなっちゃうんです。だからドラムはとにかくテンポをキープ。ブレイクしているときもハイハットを打つとか、配信ライブ用にアレンジも少し調整しましたね。

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――それは簡単には真似できないですね(笑)。

山本:いやいや、みんなやればできると思いますよ。(→詳しくはLITE武田氏の「バンドの遠隔同時演奏を生配信する方法」参照)

川﨑:そのレイテンシー問題は、何回くらい試して気づいたの?

山本:ちょっとずつ気づいてたんですけど、3種類あるとか、その解決方法とかは、ようやく最近わかってきた感じです(笑)。実際に配信しながら修正していきました。

川﨑:新しいことをやろうとすると、だいたいそういうことが起きるよね。

●大きな影響を受けた一打入魂のスタイル

川﨑:ヤマちゃんは個人でドラムレッスンをやってて、素人を3カ月で叩けるようにする企画をYouTubeでやってたよね。

山本:やりましたね。がんばりましたよ、生徒役のミサトくん。めっちゃ個人練習もやってくれてましたけど、ちゃんと叩けるようになって。

川﨑:すごいよ、それは。いつもやってるような教え方をしたの?

山本:そうですね。ただ、いつもよりは基礎練習をしっかりやりました。いつもは基礎練習ばっかりじゃ飽きちゃうから、ある程度スティックの扱い方がわかったら、曲をどんどんやっちゃおうみたいな感じなんです。でも、あのときは課題曲がNIRVANAの“Smells Like Teen Spirit”とサカナクションの“新宝島”で、素人には難易度が高かったので、基礎はしっかり教えました。

川﨑:課題曲は本人が選んだの?

山本:そうですね。本人がやりたいって。

川﨑:本人がやりたい曲を課題曲にすると、モチベーションキープになるよね。

山本:やっぱり叩きたいっていう気持ちがいちばん大事だと思います。川﨑さんもレッスンされてますよね?

川﨑:僕の場合はLogic(音楽制作ソフト)の使い方とか、ドラム以外も教えてて。いまは専門学校でも教えてるんですけど、僕の担当はサウンドディレクションで、ジャンルの話とか音楽の歴史とか、自己プロデュースみたいな話もしてるんですよ。だから資料としてビジネス書を使うこともあって、メンタリストDaiGoみたいになってるときもあります(笑)。

山本:その授業受けてみたい(笑)。生徒さんは、川﨑さんと知ってて講義を選ぶんですか?

川﨑:みんな僕のことも、mouse on the keysのことも知らない。でも、ライブを見せると、みんな敬語になるの(笑)。やっぱり生で見ると違うみたいね。

山本:川﨑さんのドラム、ほんと迫力ありますもんね。一音一音に気合いが入ってて。やっぱり川﨑さん世代のドラマーは、魂を燃やす何かがあるんですよ。それが音に乗ってて圧倒されちゃう。

川﨑:そこはヤマちゃんも一緒だと思うんだよね。

山本:そういう一打入魂みたいなスタイルは、mouse on the keysと一緒にアメリカツアーをしたときとか、54-71と一緒にヨーロッパツアーをしたときとか、川﨑さんやBOBOさんのドラムを毎日見させてもらって、かなり影響を受けたんですよ。僕らより下の世代はリズムキープがきれいでうまいんですけど、上の世代の人たちは見ている人を圧倒するような強さがあって、僕ら世代はそ中間にいるのかなと感じてます。

川﨑:ヤマちゃんもライブハウスで叩き上げてきた感が強いよね。いまはオンラインで自分のプレイだけを流しやすくなって、在宅で練習している人も多くなってるだろうから、お客さんの前でライブするよりも、閉じたところで演奏を続けて、整ったドラムを叩く人が増えている気がするね。

山本:そうですね。川﨑さんは海外でもやってるから、余計にそう感じるかもしれないですね。

川﨑:アメリカのバンドとか、とにかく音がデカいし。大リーグの選手みたいなもんだよね。独自の構えなんだけど、めっちゃ飛ぶみたいな。ロンドンで対バンしたAdam Betts(Three Trapped Tigersのドラマー)もすごかったな。けっこう自分はデカいと思ってたんだけど、もっとデカい。生で聞くとバズーカ砲みたいなの。

山本:ヤバいですね。川﨑さんもデカいのに、それ以上にデカいとか……。

川﨑:地鳴りみたいだったね。ウチらもLITEも、欧米のインディペンデントのバンドと対バンする機会が多かったのは大きいよね。ただ、いまの若くてうまい子たちを見ると、自分も進化しなきゃなって思う。そのちょうどいいバランスがヤマちゃんなのかなって。

山本:僕もちょっとずつ変わろうと思って、新しい技術をどんどん入れるようにはしてます。ゴスペルチョップスとか、5連符とか、まだ作品には入ってないですけど、練習はしてて。引き出しは増やしておきたいなって。

●ドラムレッスンの生徒は4歳から72歳まで

――山本さんは他にも、DÉ DÉ MOUSEさんのサポートドラムもやったり、ライターとしてレビューを書かれたりもしてますよね?

山本:そうですね。『MUSICA』とか、『リズム&ドラム・マガジン』とか。

川﨑:女性シンガーのレコーディング参加もしてたよね。

山本:矢内景子さんかな。矢内さんがやっている『SHADOW OF LAFFANDOR』の作品に参加させていただきました。サポートの仕事は、お声がかかったらやらせてくださいという感じです。

――いまは音楽の仕事だけで生活しているんですか?

山本:そうですね。ドラム一本になって、いま7年目かな。

川﨑:なかなか大変でしょ。

山本:なかなか大変ですね。でも、他の仕事をしていたときより、ずっといいです。その頃からレッスンもちゃんとやり始めて、いまは柏のGATEWAY STUDIOで、専属の講師としてやらせてもらってます。僕も川﨑さんの専門学校と同じような感じで、ほとんどの生徒さんはLITEを知らないんですよ。下は4歳から、上は72歳の生徒までいて。

川﨑:すごいね! 昔ドラムを叩いていた人なの?

山本:いや、リタイアしてから始められたそうです。めっちゃ気合い入った方で、かなり練習されてますね。

川﨑:そういう生徒さんは、ビートルズをやりたいとかで習いに来るの?

山本:72歳の方は曲よりも体の動かし方を中心にやってるんですけど、60代後半の生徒さんもいて、その方はベンチャーズの大ファンなので、ベンチャーズの曲を片っ端からやってます。僕が譜面を作ってあげて、お渡しすると、次の週には完璧にできあがってるんですよ(笑)。

川﨑:楽しそうだね。いま生徒は何人くらいいるの?

山本:20人くらいいたんですけど、やっぱりコロナの影響で減りました。4月とかゼロでしたから。

川﨑:やっぱりそうなるよね。オンラインでもレッスンしてるの?

山本:そうですね。エレドラを使って、Zoomも有料会員にしてやってました。川﨑さんも4〜5月は大変でした?

川﨑:ヤバかったね。専門学校は4月からの新学期が延期になって、5月末くらいからオンラインで授業を始めて、6月から校舎に来てもらうようになったけど、また東京の感染者が増えてきちゃったから、いまは教室の授業をやりつつ、それを同時にオンラインでも生徒が見られるようにしてます。

山本:それいいですね。

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川﨑:ただね、女性の生徒は顔を出したくないみたいで、名前しか表示されないの。それで急に質問が来るから、怒ってるんじゃないかな?って不安になっちゃう(笑)。教室に来ている生徒もマスクをしてるから、目しか見えないんだよね。「みんな怒ってる?」って聞くと、「いや怒ってないです」って(笑)。あと、プリントを配るときに、オンラインの生徒にはファイルを送らなきゃいけなくて。助手とかいないので、けっこう大変ですね。

山本:それぞれよさはあると思いますけど、同時となると大変ですね。

●配信ライブ用に機材を一挙購入

川﨑:エレドラで演奏するときは、どういう回線で配信してるの?

山本:配信ライブをするときは、V-DrumsからMIDIをオーディオインターフェースに送って、PCを介してSUPERIOR DRUMMER 3で再生して、NETDUETTOに送っています。

川﨑:エレドラの音じゃなくて、ソフトシンセの音を使ってるのか。

山本:そうですね。SUPERIOR DRUMMER 3は、いろんな作家さんが使ってて、設定を追い込めば細かいプレイもかなりきれいに再現できますし、いま世界最高峰かなと思います。あと、オーディオインターフェースとPCの接続は、とにかくレイテンシーを下げたかったので、Thunderbolt 3を使いました。

――ちなみに生のドラムとエレドラだと、やっぱり叩き方も違ってくるんですか?

山本:一緒ですね。変わらないです。

川﨑:これからエレドラはバカ売れしそう?

山本:もうバカ売れしてる気がします。安いやつは3万円くらいで買えちゃうし、実際に僕の生徒さんもめっちゃ買ってるし。日本の環境的にも練習しやすいですよね。

川﨑:ただ、エレドラしか叩いてない人は、生で叩くとすごく違和感があるよね。

山本:そうなんです。だから両方やってないとダメだと思います。エレドラは軽く叩いても音が出ちゃうから、エレドラばかり使っている人は、叩き方がこじんまりしちゃう。ちゃんと力を伝えてあげないと、特にフロアとかは鳴らないじゃないですか。そのへんは川﨑さんを見習ってほしいですね。

――むしろエレドラのままライブするような時代になることも考えられますか?

山本:どうなんでしょうね。やっぱり細かいタッチは、生のドラムには勝てないと思います。特にスネアとかは、打点が1ミリ変わると音も変わるし、角度によっても音が変わるので。そこがおもしろいところでもあると思うんですけど。

――配信で使っている機材は、コロナを受けて新しく買ったんですか?

山本:そうですね。MacBook Proのスペックを最強にして、オーディオインターフェースを買い替えて、SUPERIOR DRUMMERとiPad Proも新しく買いました。

川﨑:けっこうな金額になるよね。補助金は出たりしないの?

山本:ちょっと調べたんですけど、1品が10万円を超えると申請できないみたいで。10万円上限でもいいから、申請できるといいんですけど……。誰かいい方法を知ってる人がいたら教えてほしいです。

川﨑:それはバンドのお金で買ったの?

山本:いや、自分のお金で(笑)。でも、大事なことだし、今後も使うし。オーディオインターフェースも、生ドラムのレコーディングもできるように8トラックの物を選んだんですよ。そういう将来的なことも考えて買いました。

――LITEはHIP LAND MUSICに所属してますけど、山本さんは個人事業主になるんですか?

山本:そうですね。

川﨑:給料制とかではないの?

山本:契約料を年に1回もらう感じです。でも、それだけだと生きていけないので、それぞれ何かをするっていう。

川﨑:契約更新みたいなのが毎年あるわけ?

山本:そうですね。毎年ドキドキですよ(笑)。

川﨑:コロナの影響としては、そういった機材まわりでお金がかかったのと、レッスンが激減したのと、バンドのツアーが飛んじゃったのと。

山本:けっこうライブは飛びましたね。発表されてないものとか、個人のサポート仕事とかも含めると、10本以上は飛んでます。でも、マウスのほうが大変ですよね?

川﨑:ウチはカナダツアーだけで13本なくなって、新譜リリースの国内ツアーも延期になって。(→詳しくは「mouse on the keys川﨑昭が語る新型コロナウイルスの影響」参照)

山本:ハンパないですよね。僕らもまぁまぁ潰れてるけど、マウスに比べたら微々たるものだなと思います。

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●突発性難聴と隠れ脳梗塞

川﨑:LITEは今後、どういう方向性で考えてるの?

山本:ライブをやろうかっていう話も出てるんですけど、僕が頑なに断ってるんですよ。いろいろ考え方はあると思うんですけど、ファンを集めれば集めるほど感染リスクは上がるし、そういう人を少しでも危険な可能性のなかに入れたくなくて。それならちょっと苦しくても、今年はライブはやめておいたほうがいいんじゃないかなっていうのが僕の意見です。お客さん側が「そんなことよりライブがないと死んじゃう!」っていう意見だったら入れてもいいのかなと思うんですけど、そのへんはファンの方の意見を聞きたいところですね。

川﨑:LITEのメンバーはみんな元気にしてるの?

山本:元気ですよ。9月に9mm Parabellum Bulletのトリビュートアルバムが出るんですけど、そのレコーディングで武田には久しぶりに会いましたね。ドラムだけスタジオで録って、あとはみんなリモートで自宅レコーディングをしたので、楠本と井澤には2月から会ってないんです。

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――メンバーと会わないまま1曲完成させたということですか?

山本:そうですね。だから、みんな会ってないけど元気にやってます(笑)。ただ、僕は去年末に突発性難聴をやっちゃったんですよ。そのせいでいろんなところで迷惑をかけたんですけど、それがこのおやすみ期間でゆっくりできたのもあって、無事に治ったんです。聴力もしっかり正常に戻って、いまは薬を徐々に減らしているところです。

川﨑:それはよかったね。僕は左耳が難聴になって、ほっといたら聴こえなくなっちゃったので。

山本:すぐ病院に行ったのがよかったんだと思います。1月4日に(mouse on the keysとDÉ DÉ MOUSEの2マンライブで)一緒にやったじゃないですか。あのときは真っ最中で、ライブは良かったけど耳の調子は全然ダメだったんですよ。川﨑さんにも言えず、治ったら言おうと思ってたんですけど、ようやく報告できる状態になりました。

川﨑:そんななか出てくれて、本当にありがとうね。

山本:いえいえいえ! だから今年前半はSNSとかもほとんどアップできなかったんです。気力的には何かやりたい、発信したいっていうのがあったんですけど、体がついていかなくて。動いちゃうとダメだったんですよね。

川﨑:やっぱりハードにやってきたから、疲れが出てきたのかな?

山本:思い当たるフシがあって。発症した週に詰め込みすぎたんですよね。リハーサルが2本連続で、10時間で休憩が15分とか、そういうのが続いちゃって。だから過労ですよね。もう体に気をつけなきゃいけない年齢なんだなって自覚しました。これからは体に気をつけつつ、長く現役を続けていきたいなって。川﨑さんも10年くらい前に病気してませんでしたっけ?

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