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【インタビュー】mouse on the keys川﨑昭が語る新型コロナウイルスの影響

新型コロナウイルスの影響は多くのミュージシャンを直撃している。その内容はミュージシャンにより異なるだろうが、mouse on the keysの場合は4月に予定していたカナダツアー全13公演が中止。出演料が入ってこなくなったばかりか、手配済みだった飛行機代の返金がなされないなどで数百万円の損失が発生した。リーダーである川﨑昭(写真左)は、目の前に立ちはだかる苦境に対して、どのように向き合っているのか。生々しい現状を語ってもらった。

※このインタビューは2020年4月下旬にLINE通話で行ないました

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――まずは新型コロナウイルスの影響で受けた損失を教えてください。いちばん大きいところはカナダツアーですか?

川﨑:そうですね。4月に13公演予定していたカナダツアーがなくなって、飛行機のチケットは手配済みで払い戻しできないものだったので、50〜60万円の損失が発生しました。それとカナダツアーは最低保証で数百万円もらえる予定だったんですけど、それも全部なくなりました。振替ツアーで回収できたらいいなとは思っていますけど、果たしていつ海外に行けるのかわからないですね。

それから5月いっぱいの緊急事態宣言延長に伴って、販売店の営業開始がズレ、5月20日に予定していたmouse on the keysの新作『Arche』のフィジカル発売が6月3日に延期になりました(配信は予定通り5月20日開始)。5~6月に予定していた国内リリースツアーも延期になり、音源売上げやツアーでの収入が入ってくるタイミングがズレるので、音源制作費などの支払いが厳しいです。

――個人の仕事のほうはいかがですか?

川﨑:バンタンデザイン研究所で講師をやっているんですけど、4月からの始業が延期になりました。いまは5月末からオンラインで授業をやる準備をしています。ドラムや作曲の個人レッスンもやっているんですけど、いまはできる状態ではないので、これも在宅でオンラインレッスンをやらないと厳しいかなと思ってます。あとはサポートでドラムを叩く予定だった仕事もいくつもなくなりました。よって4~5月分の給料はまったく入ってきません。

――CM音楽の制作もやってますよね?

川﨑:そうですね。年明けいくつか依頼があったんですけど、これはコロナの影響とかではなく、たまたま止まっていた感じです。僕の場合は制作会社と専属契約しているわけではないので、コロナが終息しないと、その手のお仕事は回ってこないでしょうね。世の中がよくなってくるのを待つしかないかなと思っています。

個人的にできるだけ支出を抑えているので、生活するだけならなんとかなるんですけど、先行投資して回収するサイクルで動いているバンドまわりの支払いが厳しいです。ヤバいです。

――投資が回収できなくなってしまったわけですもんね……。

川﨑:でも、コロナを言い訳にしたくないなとは思っていて。そもそも音楽とか芸術とかって、投資した通りに返ってくるとは限らないじゃないですか。特に、僕らの世代はただ好きってだけでやってきてるから、無償の努力とか、お金に代えられないもので成り立っている部分があって。マウスのメンバーもそうだと思うんです。

清田(mouse on the keysのピアノ/キーボード担当の清田敦)とは20年くらい一緒で、彼の人生の半分は僕とバンドしてますからね(笑)。新留(mouse on the keysのピアノ/キーボード担当の新留大介)とも14年一緒にやっていて。会社とは違うし、サークルとも違う。利益を追求するだけじゃないところで成り立っているのは、すごい関係なんで、大事にしたいし、現状をなんとかしたいです。

昔の話ですけど、mouse on the keys結成2年目の頃、ツアー中に僕は自動車事故を起こして、150万円くらい弁償しなきゃならないことがあったんです。そのときにtoeのメンバーが救済イベントをやってくれたり、ゼアイズ(THERE IS A LIGHT THAT NEVER GOES OUT)やKularaが再結成ライブをやってくれて、売上を僕に寄付してくれたんです。僕自身もジェラート屋の店長として働いて、なんとか払い切ることができて。あのときは本当にバンドをやっててよかったし、すごいコミュニティだなと思ったんですよ。

――それは簡単にバンドやめられないですね。

川﨑:そうですね。今回の新型コロナ禍でもtoeのメンバーの声掛けで、「MUSIC UNITES AGAINST COVID-19」というライブハウスを支援するプロジェクトが始まって、僕らにとってもライブハウスはなくてはならないものなので、ぜひ参加させてくださいと。過去に録ったドラムのネタと、デモで作っていたネタを合わせて新曲にして提供しました。toeのこういう動きができるところは、本当に尊敬しています。自分も助けられた身ですし。

――そういう状況のなかで、いまはどんな活動をされているんですか?

川﨑:すでにやったところだと、マウスの無観客ライブの映像を下北沢ERAのYouTubeにアップしました。

――それはERAに無償で提供したんですか?

川﨑:そうですね。マウスのPAをやっている山下大輔がERAでもPAをやっていて、ライブ配信のシステムを作りたいということで協力したんです。ERAは昔からお世話になっているライブハウスで、コロナで営業がまったくできないヤバさを身近なところで感じていたので、自分もヤバいけど何か力になれたらいいなと思ってやりました。

撮影は緊急事態宣言が出る前だったんですけど、宣言が出てからはライブ配信も難しい状況になって、せっかく用意したのに動けなくなっちゃった。いまは過去にやったものをアップして、世の中的に配信ライブがOKになったときに、マネタイズできるようにっていう動きになっていると思います。

――川﨑さん自身のYouTubeにも動画をアップしてますよね。

川﨑:僕自身のやつは、コロナ以前からやろうと思っていたんですけど、コロナによって加速したというか。もともとコロナ以前から、ライブやCD以外でも収入を得る方法はないかなと考えていて、unitiveというファンクラブのようなアプリもやっているんです。ただ、やってみて思ったのが、新しいサービスに登録してもらうことは、すごくハードルが高いんだなと。超メジャーで多くのファンを持っている人たちがやるにはいいと思うんですけど、僕たちみたいなDIYなバンドだとマネタイズが難しい。

unitiveには月額課金してくれるファンの方もいるので、毎月お金をいただくからには、相応のコンテンツを更新しないといけないじゃないですか。ファンの方からは「この内容で300円でいいんですか?」と言われるくらいには更新しているんですけど、いまのクオリティだと2000人くらい登録してくれないと、入ってくるお金に対して労力が見合わない。かといってファンの信頼を裏切りたくないから、手を抜くわけにもいかない。現在登録者数は多くないですけど、どんな状況でもmouse on the keysをサポートしようっていう人が、全国にいることがわかったのはうれしかったです。

――なかなか難しいですね。

川﨑:YouTubeも自分なりに調べたんですけど、僕らみたいなバンドにとっては、知ってもらうためのツールとして使うべきで。稼ぐことを考えるなら、ZAIKOツイキャスで配信ライブをやるほうが、マネタイズできる可能性は高いかなと感じています。だからTwitterやYouTubeで知ってもらって、配信ライブにお客さんを集めるという流れは、やってみたいなと思いますね。

――バンドと個人のアカウントは、どう使い分けているんですか?

川﨑:自身のYouTubeチャンネルなどに動画をアップし始めたのは、このステイホームでたっぷり時間があるので、今までやれてなかった事にトライして、かつSNSの活用方法を勉強してみようと思い立ったからです。

SNSで試して勉強になったのは広告ですかね。FacebookInstagramの投稿に広告を1週間7500円くらいで打ってみました。設定で、どこの国、どこの年齢層、どういうジャンルとか諸々選べるので、いま人口が伸びているインド、インドネシア、南アフリカなどでやってみたんです。

特にインドは人口が14億人くらいで、インターネット人口が5億人もいるんです。結果は、Instagramでは、普段は多くて500いいねなのが、2700いいねになり、フォロワーも100人くらい増えて。YouTubeも個人のアカウントとマウスのアカウント、両方やってみたんですけど、20日間で登録者が100人ほど増えましたね。

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――それで7500円だったら安いですね。

川﨑:どこの国のユーザーから見られたか、解析も見られるんですけど、そのときはインド人だらけでしたね。ドラ鍵(ドラムと鍵盤の同時演奏)の映像だったんですけど、「あのバスドラはいい音してるけど、何で録ったんだ?」とか、インド人のドラマー同士で「お前もこれやれよ」みたいな会話がされていたりとか。それはおもしろかったですね。

ただ、広告を打つ事で新規顧客を増やす効果はありますけど、コンテンツ力がある事、継続的に打つこと、経済的な体力があることが必要だなと思いました。現状、広告を打ってない投稿は、いままで通りの結果ですし。最終的にはいいね数よりも、本当に僕やマウスを好きになってくれる人を増やすことが大事で。一時的にいいね数を上げたいだけなら、広告を適切に設定すれば5倍くらいにはなりますよ。今後は海外ツアーをするときとか、上手に使っていけたらいいなと思いますね。ビジネスマンからしたら、当たり前のことなんだと思いますけど、そこも含めて自分も表現活動をしなきゃダメだなと思いました。

――いまは少し時間ができて、いろいろな実験をしている感じですか?

川﨑:そうですね。YouTube、Instagram、Twitter、Facebook……、そこを連動させて、どう数字が伸びていくか見たり。CRAFTROCK BREWINGさんのオファーで「SOUNDTRACK for CRAFT BEER」というSpotifyのプレイリスト作成の企画に誘われて、プレイリストのおもしろさに気づいたり。自分のいま好きな傾向が整理されていいですね。この流れでAkira Kawasaki個人のプレイリストも作っちゃいました(笑)。

あと、以前からやっていて、今回自宅で進めていることは、大きく分けて2つあるんですよ。ひとつはドラ鍵にボーカルを加えたパフォーマンスの練習。もうひとつはドローイングです。ドローイングは一昨年から始めてたんですけど、この1年で4000枚は描きましたね。

――そんなに!

川﨑:いっぱい描ける方法を編み出して、それを続けていたら1年間で4000枚描いていたんです。ある本に「アーティストはどんどん量産できる独自の方法を手にすることが大事」と書いてあって、なるほどと思ったんですよ。それが売れる売れない関係なく、どんどん生み出していく。それで莫大な量をアウトプットすると、自分の知らない向こう側から何かがやって来るんです。前に田中さんと本当のアートは無価値なものじゃないかみたいな話をしたことがあったじゃないですか。

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