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「泣きながらご飯食べたことある人は、生きていけます」は本当か?

約30年という短い人生の中で、一度だけ「もう消えてなくなりたいな」と思ったことがある。

今となっては、そこまで思う必要はなかったのかもしれないけれど、当時の私は「はい、私の人生終わったな」と感じるくらいダメージを受けて、もう全てが嫌になってしまった。




何が起こったのか詳細は割愛するとして。まあとにかく身の回りで怖いことが立て続けに起こった。「精神的ダメージ」というのが適切なのかよく分からないけれど、間違いなく私の人生史の中でどん底だった。

例えば、私はスマホの画面を滅多に割らない。滅多に割らないからこそ、何かの拍子に割ってしまうとそれはそれは不吉な予感がしてしまう。ストッキングを履くときに伝線させる確率は極めて低いし、財布も落としたことがない。自分なりの「これが起こったらなんとなく不安だな」というのを日常生活の中でうまく回避ができている。

そのため、上記のことが頻繁に起こると「あれ、私の人生大丈夫かな?」と思ってしまう。自分が普段の生活の中で「まあ、起こらないだろうな」と思っていることが起きると、めちゃくちゃ怖い。

私が体験したのも「私の人生には絶対に縁がないものだよね」と思っていたことだったので、自分の身に降り注いだ瞬間に「ちょっと待って」とうまく処理ができなくなった。

そんなこんなで、当時25歳だった私はいきなり訪れた不吉事態に、どう立ち向かっていいのか分からずにパニックになった。

夢とか希望とか、勇気とか元気とか、名誉とかお金とか、愛とか恋とか、もうそんなのどうでもよくて、ただ「平和に暮らしたいな」という願いだけが宙を舞う。

元の生活に戻してよ、と布団の中で泣きながらつぶやくけど、誰にも届かない。振り返ると当時は一体どうやって生きていたのか記憶が曖昧で、だたひたすら内にこもることでなんとか呼吸をしていた気がする。

何もかも嫌になり、ご飯を食べることも、メイクをすることも、身なりを整えようなんてこともやめて、泣くか寝るだけの日々。「健康で文化的な最低限度の生活」を完全に放棄した生活だった。




そんなどうしようもない日々の中で、私の様子を気にかけてくれ、日々助けてくれた人たちがいた。

その人たちは、私に声をかけ、ご飯を食べさせ、寄り添ってくれた。

その時はそんな優しい行為さえ素直に受け止められず、グチグチ泣きながら、ご飯を一口食べては途方に暮れ、一口食べれば号泣した。

もう随分と月日が経ち、あの頃が嘘みたいに今は復活をして元気に過ごしているのだけれど、ある言葉が今も私を支えてくれている。



2017年に放送された、坂元裕二さん脚本のテレビドラマ「カルテット」をご存知だろうか?カルテットを組んだ4人の男女の物語で、毎回名セリフの嵐なのである。

「健康で文化的な最低限度の生活」をかなり取り戻せていた私は、「カルテット」にハマり、毎回セリフをメモしながら見ていた。

第3話を見ていたときだ。

登場人物のひとりである、満島ひかりさん演じる「すずめちゃん」が泣きながらカツ丼を食べるシーンがあるのだが、そのときに一緒にいた松たか子さん演じる「まきさん」が放ったセリフが心に刺さった。

ーー「泣きながらご飯食べたことある人は、生きていけます」

そのセリフを聞いた瞬間、ぶわっとあの頃の自分を思い出した。時が一瞬止まったように思えた。

途方に暮れて半泣きになりながら食べたスープ、しくしく泣きながら食べた焼肉、一番号泣しながら食べた中華。

そういえば、当時の私は常に泣きながら食事をしていた。

時間が経って次第にいつもの日常に戻りつつあったけれど、どうしてもあの頃の自分がまだ受け止められずにいたことを思い出す。たまに無性に叫びだしたくなったり、ふとした瞬間に溢れ出るドロッとした黒い感情をどう消化したらいいのか分からずにいた。

もうその事実を受け入れながら、自分をうまくコントロールして騙して生きていくしかないと思っていたし、どんな言葉も響かなかった。だけど、なぜかまきさんのセリフだけは心にストンと落ちた。

「泣きながらご飯食べたことある人は、生きていけます」が、あの頃の私を肯定してくれているように感じたのだ。

ドロッとした感情をどうもうまく消化できずにいて、ぶつぶつと醜い言葉をつぶやく私に対して「大丈夫だよ」「そのままでいいよ」と言ってくれているように思えた。

なんか私大丈夫かも、そう思った。

「泣きながらご飯食べたことある人は、生きていけます」

なんて希望に溢れている言葉なのだろう。

「生きていけます」

という言葉の力強さといったら。



泣きながらご飯を食べたことがある人はきっと多いと思う。

泣きながらご飯を食べるなんて…と自分を責めてしまいそうになるけれど、どうか「泣いた」という事実だけで終わらさないでほしい。

泣きながらご飯を食べたことがある人は生きていけるんだよ。

その経験は、きっと未来の自分を奮い立たせてくれたり、自己肯定に繋がると思うのだ。

大丈夫、きっとちゃんとあなたは生きていける。

もう数年経ってしまったけれど、私は元気である。たまに大変なこともあるけれど、そんなときは毎回このセリフを思い出す。

ーー私は泣きながらご飯を食べた経験があるから、大丈夫生きていける。

涙でぐちゃぐちゃになりながらだったから、詳しい味はあんまり覚えていない。

でも確かなのは、あのとき、引きずられながら食べさせに連れて行ってもらったご飯があったからこそ、私は日常に戻れたのだと思う。

私を支え続けている、大切な言葉のひとつである。

最後まで読んでいただきありがとうございます!短編小説、エッセイを主に書いています。また遊びにきてください♪