朝ごはんを食べる時間は、自分を労る時間
朝ごはんが好きだ。
少し厚めに切った食パン、バターの香りが心地いいクロワッサン、ふかふかのパンケーキ、むぎゅっとしたベーグル、ジューシーな卵サンド。あっさりしたものが食べたいときはヨーグルトやグラノーラ、甘いものを欲しているときはとっておきのキャロットケーキ。
おにぎり朝食も大好きだけれど、どちらかと言えば洋食派。小麦が大好きなので、ついパンや焼き菓子に手を伸ばしてしまう。
今日はどこのお店のパンにしよう。そういえば最近可愛いジャムを買ったから一緒に合わせようかな。ギリシャヨーグルトも食べたいし。紅茶かコーヒーか、どっちを飲もうか。
昼ごはんや夜ごはんよりも、私はどんな朝ごはんを食べるのかを考えるのが好きだ。一番アイデアが湧いてくる。
パンや紅茶、コーヒー、バター、マグカップ、可愛いお皿など、「朝食シーンに出てくるもの全てが好きだから」が理由の一つではあるものの、きっと朝ごはんを通じて「一日頑張ろうね」と励まされていることが大きいのだと思う。
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会社員時代、私は都内のモーニング巡りによく行っていた。朝ごはん好きの友人と待ち合わせをして、出勤前に一緒に朝ごはんを食べに行っていた。
最寄駅からお店に向かうまで、今日食べる朝ごはんへの期待を語る。どのメニューを注文しようか、ワクワクが止まらない。席に着いたら近況報告や最近のドラマについて熱く語る。
届いた朝ごはんは、見た瞬間に私をときめかせる。お皿全体を観察して、お店の小さなこだわりを見つけるのもちょっとした楽しみだ。サラダに入っている野菜の種類が多いとか、憧れのブランドの食器を使っているとか、こだわりを感じられると朝ごはんがより美味しい。一口一口をゆっくりと丁寧に味わう。ああ、美味しい。幸せ。
食後はコーヒーを飲みながら「次はどこのお店へ行こうか」と、数あるカードの中から選んでいく。日付を決めて「じゃあ今日も仕事頑張ろうね」と改札で手を振る。タイミングよく来た電車に乗って、会社がある最寄駅に向かう。足取りは少し軽くなっている。
朝の短い時間だったけれど、私にとって非常に豊かな時間だった。
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「毎日忙しいし、なんだか漠然とした不安があるし、心のモヤモヤは晴れないし」
当時の私は未熟だったため、スカッと晴れやかな気持ちで毎日を過ごすことが難しかった。
なんとなくネガティブな気持ちを抱えてしまいがちな日々。その暗い心を、朝ごはんたちがそっと明るくしてくれていた。
ーーパンにサラダ、卵やソーセージがのったプレートは、そのビジュアルからときめきを与えてくれる。
ーーふわふわのトーストを齧ると、嫌な気持ちが消えていく。
ーー丁寧に淹れられたコーヒーは、私を冷静にさせてくれた。
いつしか朝ごはんを食べる時間は、自分を労る時間になっていた。
「たかが朝ごはん」かもしれないけれど、朝ごはんは疲れた心をほぐし、自らつまらなくしてしまいそうな私の一日に彩りを与えてくれる。
不思議なもので一日の始まりに「美味しそう」「美味しい」「いい香り」「サクサク」「楽しい」なんて、自分が幸せを感じる味覚や時間に触れると、「よし今日も頑張るか」なんて思える。
別に何かが劇的に変わるわけではない。ただ、朝ごはんの時間を確保して食べたいものを食べると、ほんの少しだけ心が上を向きやすい。「美味しいなあ」と、じんわりとお腹が温まっていく感覚は、今日という一日を優しく励まし、私を掬い上げてくれるのだ。
朝ごはんには、そんな力があると思っている。
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厚めに切った食パンにツナマヨをたっぷり塗ってとろけるチーズをのせる。こんがりと焼いたトーストはジューシーで、ボリュミーで美味しい。
最近はプレーンヨーグルトにジャムを入れることにハマっている。ほどよく甘みがついていい感じになるのだ。いちご、マーマレード、りんごと、冷蔵庫にはたくさんのジャムが入っている。
ミルクたっぷりの紅茶を飲んでホッと一息をつく。
開けっぱなしにした窓から、新緑の季節らしい爽やかな風が入ってきた。遠くのほうで誰かの笑い声が聞こえる。だんだんとアイスコーヒーが美味しい季節になってきて嬉しい。
今日も、食べ進めるとじわじわと励まされていく。
大変なこともあるけれど、変わらず頑張りますよ、今日も。
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【お知らせ】短い物語を書きました
webメディア「ROOMIE」でレビュー小説を書きました。
いつも余裕のない朝を過ごしている主人公。本当はゆっくりと、実家にいた頃のような朝ごはんが食べてみたい。でも今の私にできることは……。
4月が終わり「毎日バタバタだったなあ」と感じている方へ、ぜひ。
最後まで読んでいただきありがとうございます!短編小説、エッセイを主に書いています。また遊びにきてください♪