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村上春樹「1Q84 Book2」読書感想文

昼休憩の運動場だった。
独居房の受刑者は、この30分しか自由に話せない。

軽く運動場を走ってから、雑談の輪に混ざると「村上春樹はシ○ブ中だ」という話になっている。
どうして、そうなったのかはわからない。
が、そんなことあるわけない。

しかし、621番の江口君は「やってますね」と冷静だ。
ちなみに、称呼番号600番台は薬物事犯である。
とにかくも、シ○ブをやってる人は、シ○ブをやってる人がわかるらしい。
美容師をやっていた彼は、高確率で的中したという。

652番の小泉君もうなずく。
村上春樹の小説を何冊も読んだのだが『この人はシ○ブ中だ』という感想を持ったというのだ。

にわかには信じられない。


村上春樹のメッセージとは?

とはいっても、652番の小泉君がいうなら “ 村上春樹シ○ブ中説 ” には信憑性が帯びてくる。
小泉君は、大学を出て会社勤めをしていて、家庭もあり、実家を継いで兼業農家もしているという、受刑者の中ではまともなほうだからだ。

でも、まさか。
もっとこうシ○ブ中っていうのは、裸で電信柱に登ったり、訳わからないことを叫んで包丁を振り回したりするのではないのか?

小泉君は答える。
幻覚が見えるのはヘロイ○です、シ○ブは集中力が増すんです、たとえば機械いじりも延々とできますし、プログラムも延々とできますし、実際に僕も3つの国家資格をシ○ブを打ちながらとりました、というのだ。

でも、まさか。
シ○ブ中だとしたら、もうとっくに廃人になっているのではないのか?
いったい、なにをもってシ○ブ中といえるのか?

小泉君は解説する。
おそらく村上春樹は質がわるい中国産をあぶっているのでしょう、純度がいい北朝鮮産を刺しているのだったらやめられなくて廃人になってたかもしれません、あと、文章がくどいところとか、性描写のしつこさとか、ああいうところはシ○ブやりながら書いているんです、という。

そんなこともあったから、村上春樹を読んでみようと思ったのもある。
とにかく2巻目に入った。

単行本|2009年発刊|501ページ|新潮社

Book2の薄い内容と感想

読解力の不足を感じた

ファンタジー感が強くなってきた。
苦手な展開ではあるけど、読んでいて苦痛じゃない。

不思議だ。
そこは村上春樹の力量か?

しっかりと読めている。
が、なにをいいたのか、さっぱり読み取れない。

そりゃ、自分だって “ メタファー ” をいう語句は知っているし、それは “ 暗喩 ” という意味もわかっている。
登場する教団だって、なんらかの意味を示唆しているのはわかる。

が、なにがどうなのか?
『空気さなぎ』とか『リトル・ピープル』はいいとしても『ドウタ』だとか『マザ』だの『パシヴァ』やら『レシヴァ』だのと登場してくる。

目に見えない彼らが見えたり、声がするとか、聞こえるとか、分身だとか延々と続く。

真の読書人でないと意味がわからないかも

村上春樹のほかの著作を読んだり、作中に登場するチェーホフを読んだりすれば、受け取りかたも違ってくるのだろうけど、そこまでのこだわりは持てなかった。

まだ、ほかに読みたい本だってある。
悩むところである。

今のところは、読者に高度な読解力が求められると感じている一方で、ただ単にシ○ブ中が書いたとするほうが納得感が大きいほうに落ち着いてしまった。
再読が課題となった読書だった。

登場人物

青豆雅美

少女をレ○プしたという新興宗教団体『さきがけ』(以下、教団)のリーダーを殺害する。
教団からの追及を逃れるために潜伏生活を送る。
そのころから、いつの間にか別の世界に入り込んでいることに気がついて、今いる世界を「1Q84」と名付ける。

宗教法人『証人会』の熱心な信者だった両親を持ち育つ。
『証人会』とは、キリスト教の分派。
輸血をしないなどカルト的でもある。
11歳のときに両親の元を離れて、叔父に引き取られるという過去がある。

川奈大吾

NHK の集金係だった父には、わだかまりを抱いている。
幼少のころ集金に同行させられて、さんざんと嫌な思いをしたからだった。

お互いに特殊な両親を持ったことから、青豆のことははっきりと覚えている。
が、連絡もとることなく、会うこともないままである。
高円寺のアパートで1人暮らしして、予備校の講師をしながら小説を書いている。

ある日、近所の公園の滑り台の上から、夜空に2つの月があるのを目にする。
深田絵里子と会ってから不思議な体験が続いていたこともあって、いつの間にか、以前とは別の世界に入り込んでいることに気がつく。

深田絵理子

10歳までは、両親と共に教団の施設で暮していたが、1人で逃亡。
父親の友人である戎野隆之の元に身を寄せて暮している。

17歳の高校生となってから “ ふかえり ” の名前で書いた『空気さなぎ』という小説が新人賞を受賞する。
出版の承諾のために訪れた川奈には『空気さなぎ』は実体験から書いたことを明かす。

それによると、リトル・ピープルという存在がいて、とにかく彼らは6人いて、彼らによって『空気さなぎ』の中にドウタとマザが分身として生成されて、ドウタが目を覚ますと空には2つ目の月が現われる、そして私はパシヴァとなった、などということであるが委細は不明である。

戎野隆之

教団から逃亡した深田絵理子の保護者となる。
小説として『空気さなぎ』が出版されることで、深田の父親の消息を知ろうとしている。

福田保

深田絵理子の父。
外部からは消息不明となっていたが、教団のリーダーとなっていて、青豆に殺害される。

リトル・ピープルからの声を聞いたパシヴァからレシヴァがそれ受け入れて、その声を周囲に伝えることにより教団が成立しているとのことらしいが、スピリチュアルすぎて、そっち方面にさほど関心がない人にはなんのことだか難解ではある。

牛河利治

元弁護士。
“ 新日本芸術学術振興会専任理事 ” の肩書きあり。
教団の調査を請け負っている。
『空気さなぎ』が出版されたことにより川奈と接触を図る。

リーダーに接触する前の、青豆の身元調査もしている。
教団リーダーが死亡してからは、姿を消した青豆を執念深く追跡。
青豆と川奈が、小学校の同級生だったことを掴む。

緒形静恵

70代半ばの老婦人。
麻布の屋敷に住む資産家。
DVから逃れてきた女性のセーフハウスを運営している。
青豆に、教団リーダーの殺害を依頼。
事後の身の安全に尽力する。

田丸健一

元自衛隊のレンジャー部隊員。
緒形静恵の屋敷の警護を務める。
教団から追われることになった青豆の身の安全を担う。

屋敷の様子を見に来た牛河に不審感を抱く。
青豆に頼まれて、拳銃を用意したりもする。

ざっくりしたネタバレあらすじ

教団からの逃亡がはじまった

青豆は、教団のリーダーの殺害に成功する。
ホテルオークラのスイートルームだった。

筋肉ストレッチを施して、首の後ろの急所に自作のアイスピックを突き刺したのだ。
今までの方法と同じだ。
出血も無く、形跡も残らなく、心臓発作としかならない。

別室にいるボディガードの2人には、リーダーは施術の疲れで寝ていると言い残して、死亡しているのに感づかれることなく平然として帰ることもできた。

しかし、筋肉ストレッチをした直後の心臓発作の死である。
このあと、教団から疑われることは確実だった。
身元も事前に確められている。

青豆は、高円寺のマンションに一時的に身を潜める。
老婦人の警護を務める田丸が、青豆の安全のために手配したのだ。

しばらくしたら、整形手術をして、過去も捨てる。
遠くにも移り住んで、教団におびえることない生活を過ごす計画になっていた。

教団リーダーの不思議な力

しかし青豆は、リーダーの殺害に意義を見出せない心境となっていた。
自身の欲望のために宗教にかこつけて少女たちに性暴力を加えている、との依頼人の緒形静恵の見解とはズレが生じていたのだった。

まずリーダーは、苦痛から逃れるため死を望んでいた。
青豆に殺されることも知っていた。
青豆が内心で名付けた『1Q84』の世界も口にしていた。
川名大吾の存在も知っていた。

リーダーは、リトルピープルなる存在も話した。
信じることができない青豆に、大理石の重い置時計を、5センチばかり浮かばせて見せたのだ。

世界の均衡を保つために自分は死ぬ。
少女との性交は、レ○プではなくて、受容体から感知するための儀式だったとも話して、死を受け入れたのだ。

青豆は、リーダーの預言めいた話を信じざるを得ない状況となっていたのだった。

パラレルワールドでの再会

一方の川奈大吾である。
小説に書かれている『空気さなぎ』を目にしていた。
改編した小説にあるそのものの形状をしていたので『空気さなぎ』だとわかったのだった。

『空気さなぎ』という小説の世界に、川奈自身が取り込まれているのを自認していく。
悩む気持ちで、近所にある公園にいく。

滑り台の上から夜空を見上げると、月が2つある。
このときに、別の世界に入りこんでいると、はっきりとわかったのだった。

そのとき青豆は、隠れ家のマンションのベランダにいた。
そこから見える公園の滑り台の上から、空を見上げてる男の姿に気がつく。

すぐに川奈大吾だとわかった。
迷ったすえに公園に向かった青豆だったが、もう川奈の姿はなかった。

元の世界からは戻れなかった

翌日、タクシーに乗った青豆だった。
決して、マンションからは出ないように田丸に言われていたにも関わらずだった。
その田丸に、護身用として譲り受けた拳銃を持っていた。

タクシーは、首都高の用賀インター近くで止まった。
すぐ脇には、緊急用の階段の入口がある。

教団リーダーを殺害したあの日からだ。
渋滞した首都高速から、あの緊急用の階段を下りたときから、世界が変わったような感じがしてた。

また、あの階段を逆から上がれば。
そうすれば、元の世界に戻るかもしれない。

が、『1Q84』の世界では、そこには壁があるだけだった。
青豆は拳銃を取り出した。
銃口をくわえてから、少しの間があった。


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